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 桃太郎と鬼嫁!!   作者: ふじい やたく
13/16

 桃太郎と村娘救出作戦-其の2


 里を抜ける道中、太郎は事の顛末を聞かされた。鬼姫がさらわれた事。捨助が悪鬼を従え、山賊と共に里を襲ったこと。そして、娘達は不正な奴隷売買により近々売りに出される事。

 ケロ太が町で聞いた噂の犯人が捨助であることは、なんとなく太郎には分かってはいたが、まさか鬼までもを売りに出すとは想像が及ばなかった。

 里から少し離れた山中に、今は誰も使っていない小屋があった。小屋といえば聞こえはいいが、屋根は崩れ落ち、床も所々抜け落ち、今にも崩壊してしまいそうな小さな建物だった。


 里長をひとまず中へ入れ、一息つくことにした。しかし、鬼の中にはやはり人間の太郎の事も信用できないのか、恨めしい目つきで太郎を見つめる者もいた。


 「あの……それで、その馬車はどちらへ向かわれましたか?」


 太郎は後ろから突き刺さる邪念の視線をあまり意識しないように、里長に訪ねた。


 「はい……あれは大和政府の刻印付きの馬車でした。でしたら売買も政府の者と関わりある事と思われます……。おそらく都へ向かったのでしょう――」


 「いや、ちょっと待ちな」


 ケロ太は里長の意見に反論した。


 「確かにあいつらは都の刻印をつけてはいたが、どうもきなくせえ――第一あんな人さらいで奴隷売買をするなんて政府は認めちゃいねえ」


 「いかにもでござる。そもそも奴隷売買は国も認めている、いわゆる一つの商売でござる。そこには買い手の奴隷商と売り手の人間がいて、正式な契約のもとで取引は行われるでござる。年貢が払えない農民や借金のツケがまわり連れて行かれる事はあっても、あんな、村を襲っての人さらいはご法度でござる!」


 「たしかに……それに政府の人間が仮に正式な取引として認めていたとして、あの山賊は何だ? 普通なら政府の兵隊が来るもんだろ?」


 太郎達はそれぞれに意見を述べ、この売買が都の意志ではないと結論をだした。


 「それに、政府なら鬼を捕らえる事はしませんな……見つけ次第殺すのがあやつらの常識でございます……そんな事村の子供でも承知の事実でございます……」


 里長は憂いに満ちた瞳で呟いた。太郎は後ろへ振り返った。すると、やはり男鬼達は人間の太郎に今にも襲いかかろうとしていた。

 

 「恥を知れこのこわっぱ!!」


 その姿にフィーネは怒りを覚え、羽をばたつかせた。しかし太郎はフィーネに落ち着くように言葉をかけて、里長の前に膝間ついた。


 「おやめくだされ太郎殿……主らも恥を知れ! 助けて頂き感謝さえあるものを、仇で返そうと考えておる者あらばその首、ワシが押しつぶしてくれよう!!」


 里長は今まで見た事のないような憤怒の顔で立ち上がった。しかし、肩の傷が痛むのか、体勢を崩して地面に倒れこみそうになった。太郎はそれを支え、腰掛に座らせると里長の眼前に『鬼殺し』を抜き出した。

 鬼達は気でも触れたかなどと喚いた。その光景にさすがのケロ太とフィーネも息をのんだ。


 しかし、太郎は丁寧にその刀を里長の前にさらけ出すと、優しく言葉をかけた。


 「私はこの刀を受け取った時にあなた方の信用も受け取った。そんなあなた方の期待を裏切りたくありません。どうか、この桃山太郎に里の娘達の救出、お任せください! 必ず助け出してみせます!」


 里長は太郎の言葉に何度も頷き、「お頼み申す……」と何度も両手をすり合わせて頭を下げた。

 太郎はまた後ろへ振り向き、男鬼達にも声をかけた。


 「おいアンタら! 俺に力を貸してくれ! 俺はアイツに一度負けている。敵の数も多いし、人質もいる。俺達三人では皆の無事は保障できない! 俺は皆、鬼も人間も一人として失わないように助けたい! どうか手を貸してくれ!」


 太郎は深々と頭を下げた。その姿に一人の鬼が近づいた。

 

 「人間は憎い。今も人間臭いお前の顔を見ていると殴りたくて仕方が無い。だけど……だけどよ――アンタ頼むぜ――皆を救ってくれよ――」


 鬼はがっしりと太郎の肩を掴むと涙を流しながら言った。


 「そうだそうだ! 俺らも売られた喧嘩は倍返しにしてやらな気がすまねえ!!」


 傷の比較的浅い何人かは武器を手にして今にも駆け出しそうな勢いだった。


 「みんな! やってやろーぜぇ!」


 太郎は声高々に叫び、拳を高く掲げた。


 「はぁ……で? 行き先は?」


 ケロ太が半ば呆れた顔で太郎を見つめていた。太郎も鳩が豆鉄砲をくらったような顔をして曖昧に笑った。

 するとケロ太は持参していたこの国の地図を机に広げ、話し出した。その周りを囲うように鬼達が集まってくる。


 「今いるのが大体このあたりだな。定連の里と篝火村までの距離はおよそ人間のあしでは一日そこらであろう。篝火村が襲われた日は今から四日前になる。そして里が襲われたのが今日の昼頃……つまり、最初にさらった女達をどこかの屋敷に押し込め、それから襲撃に来たとなれば、行動範囲はかなり絞れる。」


 「屋敷に隠した? なんでそう言いきれる?」


 「奴隷を買えるのは金持ちくらいだろ? どっかの貴族か豪商か……そんな奴らがそうそうこの付近にいるわけがない。それに違法な手段の売買だ。そう長く奴隷を留めておくような危険な手にはでまい。それに生きている限り『奴隷』といえど飯が必要だ。あのケチくせえ商人がそこまで面相みるかよ――」


 ケロ太は得意げ話すと『どうだ? 見直したか?』というような顔で太郎を見た。しかし、太郎は相変わらずの呆けた面で聞いていた。


 「つまり、そこの犬が言いたいのは『行商のような目立った取引ではなく、どこかの屋敷、あるいは砦であらかじめ奴隷売買を主催する事になっている』ということでございます若。」


 「なるほど! 納得納得!」


 太郎は両手を『ぽんっ!』と叩いてフィーネを褒めた。その姿に不服そうなケロ太だったが、溜息一つこぼすとまた地図に顔を向けた。


 「つまり、鬼の嬢ちゃん達をさらった後に、そして都から離れている屋敷、いや、悪鬼も居合わせるとなれば砦か……となればここか」


 ケロ太はその肉球を都の南西の森においた。


 「たしかにそこには古い砦があるでござる。しかし……」


 その地図の森をみて鬼達は顔をしかめた。


 「若。ここは魔獣の生息地域でござる。傷を負った鬼を連れて行っては魔獣のかっこうの餌でござるよ」


 フィーネは心配そうに鬼を見つめた。


 「へっ! あそこの魔獣なんか、俺からしたら赤子だ赤子! それに、魔よけの最終兵器も持ってきてある……」


 「おま――まぁじかぁ。お前の勇気は尊敬するわぁ……」


 ケロ太はフィーネの風呂敷に入れてある『包み』を広げた。それはだんごであったがフィーネはすぐにそれを見て顔色を変えた。


 「なっ! なんと! これは『癒月草』の香り……くぅ~……目にしみるでござるぅっ――早くしまわぬか!


 フィーネはよほど『癒月草』がきらいなのか、部屋の端まで飛んで逃げてしまった。


 「ゆづきそう? なんだそれ?」


 太郎はフィーネを楽しそうにいじめているケロ太に聞いたが、どうやら声は届いていないようだった。


 「『癒月草』とは鬼や人間には害悪は無いのですが、魔獣が食べると体内の魔力が枯れ果てるという、魔獣の嫌いな薬草でございます」


 里長は太郎に分かりやすいように丁寧に教えた。『人間に害は無い』本当にそうだろうか? 太郎はあの泥だんごのような味を思い出し、額に滲む汗を苦笑い混じりにふき取った。


 ・・・・・


 それから数分後、太郎たち『救出部隊』は各々に支度し、その小屋を出た。

 傷の深い鬼や、里長のような老体の鬼は小屋に残った。時刻はとうに朝日を迎える準備に入っており、おそらくであるが『出品』の時間にはギリギリ間に合うと予想された。

 太郎の目的の地は『朝霧の森』と言う。その森はかつて人間と魔物そして鬼が一同に戦をし、沢山の犠牲者をだした森だった。

 ケロ太の見立てによると、今から二日後にはおそらく捨助の奴隷売買が始まるという。

 フィーネを使えば一日もかからないであろうその道だが、多勢に無勢ではいくら桃太郎といえど、安全に確実に勝つ自身はなかった。


 「みんな大丈夫か? 絶対に無理はするな」


 太郎は後ろに徒然なる鬼の仲間に声をかけた。


 「はい、だ、だいじょうぶ、です……」


 どうやら鬼も疲労と傷のせいで、体力の消耗が激しいらしかった。強情に強がってみせる鬼達の額には汗がびっしりとしたたり、顔色のよくない者もいた。それは太郎も例外ではない。まだ傷は完治しておらず、足を動かすたびに背中や腹に響く振動で痛みが太郎を襲っていた。


 太郎たちは表山道を避け、人目のつかない裏山道を通っていた。表山道の方が遥かに近道ではあるが、鬼の一団が森の方へ向かったと奴らに気付かれるのを避けたかったのが大きな理由だ。もし、奴らに気付かれたとすれば、人質の命も危ういし、今から向かう太郎一行も奇襲を受けるリスクもあった。捨助は太郎が生きている事は知ってはいるが、まさかここまで傷の治りが早く、商売を終えるまでは動けないと思っているに違いなかった。ゆえに、太郎達は回り道をしても確実に隠密を貫かねばいけなかった。


 「若。少し休まれてはいかがでござる。皆の疲労も限界にござる」


 太郎一行が歩き続けること半日。空を見上げると太陽は曇天にかくれ、周囲は重くずっしりとした空気に包まれていた。


 「ああ、そうだな。みんな! ちょっと一休みだ! もうへとへとよぉ~……」


 太郎の一声に一同は武器を下ろし、尻を地面につけて息をきらしていた。


 「なに言ってんだ! 姫様の身が危ういという時に休んでいられるか! おい!立て! おい!」


 腕をまくりあげ、皆の尻を叩いて気合をいれている男鬼が叫んだ。しかし、他の鬼はとうに体力が限界にきていた。その言葉に応えようとするが、足が震え、思うように立つ事が出来なかった。


 「まぁまぁ。確かに急がなきゃならんのは重々承知だけどさ――ここぞの時に戦えなきゃ意味ないでしょ? 昔の偉い坊主はこう言った……『一休み一休み』ってね!」


 太郎は頭に指をあてながら笑顔で答えた。その姿に唖然としている若鬼は呆れたように地面に座った。


 「今日中には森の入り口までは行きたいな……。俺が先行して道を確認してこよう。 そろそろ山も抜ける……ここからが正念場だな。 太郎、お前も少し肩の力を抜け。 家えお出てからお前の殺気は尋常ではない――心配すんな。俺がお前達を救ってみせるさ」


 ケロ太は人間の姿に化け、太郎に微笑みかけると、紫陽花色の髪をなびかせ颯爽と走って行った。


 「なにいまのホレチャウー」


 「若……ご冗談を……しかし若。あやつの言う通り――あまり殺気だてると事は上手く運ばぬものです。若には拙者もついているでござる。必ずあの娘達を助けましょうぞ」


 太郎自身も気付かないほど、その瞳は鋭く尖り、笑顔をつくると醜悪な顔が浮んでいた。


 「はは……まいったね――。」


 「若。人を斬ったことは――」


 太郎は一瞬心臓が強く脈うつのを感じた。『人を斬る』『人を殺す』なんかしたことはもちろんなかった。フィーネにその一言を聞かされた瞬間に太郎の額から冷たい汗が流れた。

 無論、太郎は捨助を殺すつもりだった。いや、『倒す』つもりだったのだ。あの時は自分が殺されそうになり、そして村の皆も危ない目にあった。だから目が覚めたとき、感情が爆発して捨助を殺してしまいたいと思ったのは事実だった。

 しかし、いざいざその『殺す』を考えたとき、太郎はどこか冷静な自分を見つめて、そしてぞっとした。

 フィーネは太郎の言葉を聞く事はなかった。自分の主が下を向いたまま自嘲気味に笑ったのが答えだった。


 ・・・・・


 ケロ太が戻ったのはそれから一時間程してからだった。


 「太郎! この先は大丈夫だ。このまま行けば夜には森につくだろう。 しかし、なにやらゆっくりもしておれんようだ」

 

 「おかえりケロ太ちゃんっ。……どしたの?」


 帰ってきたケロ太に『だんご』を勧めたが速攻に拒否されて、太郎は渋々袋にだんごをもどした。


 「道中、森の方へ向かう馬車を何台も見つけた。そのどれもがオンボロ馬車のくせに妙にお高そうな格好の雑兵がいたり、金の音が籠の中からギシギシと聞こえてくる。あれは間違いなく貴族の馬車だ。もう時間がないぞ」


 ケロ太はまた犬の姿に戻って「今すぐいくか?」とRPGのボス戦まえの仲間のように言った。太郎もそれにならい「はい」と言うと、後ろの鬼達に声をかけた。


 「みんな、準備はいいな? 予定より早まったが俺達ならやれる。このまま森を駆け抜け、俺とケロ太、フィーネが中へ潜入する――」


 太郎は仲間を周りに集めて、作戦を伝えた。その砦についてはフィーネから構造や立地、そしてケロ太からは面白い情報が聞けたので、太郎なりの安全な作戦を組み立てることが出来た。

 

 「この作戦を成功させるにはお互いの信頼関係が大切だ。まだ、『人間』の俺を信じれない者もいるかもしれない……だけど今は俺を信じてくれ。必ず鬼姫達を救ってみせる!」


 太郎は作戦を伝え終わると、最後に鬼達を見渡した。大半の鬼は太郎を信じたように頷いたが、なかにはまだ疑いの目でみているものもいた。それは仕方が無いことだった。もう、あとは出たとこ勝負に任せるしか時間的余裕は残されていなかった。


 太郎一行は暗闇を駆けた。空からはいつしか大粒の雨が降りしきり、木々を踏む音は幾人もの戦場で散った仲間の鎮魂歌のように響いた。

 森の手前に太郎達はたどり着くと、息を殺して馬車道を挟む形で陣をとった。あとはケロ太の合図が来れば『戦』はついに幕を開ける。

 太郎はもう一度腰に刺した『鬼殺し』を握り締め、皆の顔を思い描いた。


 「泣いてないかな……苦しくないかな……今、行くからね」


 太郎は一人静かに呟いた。


 「太郎! 来たぞ!!」


 合図がきた。表山道の馬車道から神速の早さでケロ太は飛び出し、仲間達に合図を送った。


 「必ず……助ける!!」


 太郎と鬼は一斉に木々から飛び出し、『それ』に奇襲した。

 

 はじめの一歩は軽かったと云う。しかし、段々と時が経つと怖くなったと云う。

 それでも最後に思い描いたのはあの子のことだったと云う。

 

 『桃山太郎の鬼退治』それはきっとだれもが知らないもう一つの桃太郎……。

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