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冬待ちの宵。
何か、書こうと思うのに、真っ白だ。
何もない、わけではなくて。
ただ、一面の真っ白な世界が、ある。
降り積もる雪は周囲の音を消し、幻想的な優しさを響かせて。
ああ……こんな白く、白く、無垢な記憶を、僕は知っている、と。
誰にともなく、呟いた。
天地が白く融和する…
この時を、待っていた。
遠い遠い僕の記憶を。
錆び付いた扉を。
綺麗なままの鍵を。
泉に放った日は、懐かしの夕暮れ。
朱を厭い、青に融けようとした
それがかなわなかった
あの紫の夕暮れは…
いまの僕を創り上げた、曖昧で鮮烈な色彩。
ねえ、紫の僕は、白く白いこの世界に、生きられますか?
ねえ、白く白いこの世界は、鮮烈な世界に、生きられますか?
……願わくは永久に。
叶うなら淡い淡い花となって、やがて雪解けには春を告げる歌を奏で…
きみを、護りましょう。