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弥生
季節は廻って
季節は廻って、弥生。
眼に映る花々は美しいのに、心は決まってしんと静まり返っていた。
何かしら書きたい衝動は幾度か訪れたが、ペンを握れば消えてしまう。
泡のように、あっさりと。
僕は何を考えていたのだろうかと、自問自答しても無意味だった。
消えてゆく過去、
消えてゆく未来、
消えてゆく自我──
──待って。
声がかかるのは、解っていたけれど。
懐かしくいとおしい「それ」に足場を支えられ、ああ、と全身で安堵を感じていた。
──束の間の対話で、今にも消えそうな意識を繋ぎ止める。
そう──僕たちは、生きていたいはずなんだ。
鮮やかに染まる過去、
鮮やかに染まる未来、
鮮明になる視界。
朱に近い感覚に染まった自我意識で、何を描こう?
どくん、どくんと脈打つ。
僕らは、また筆を執る──




