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十一の月

悲しみも何もかも全て



僕は、大丈夫だと思われやすい人間だ。

たとえ悲鳴を上げそうな時であろうと、表情は笑顔のまま動かない。

これは僕自身もどうすることができない、今まで伝えるのに苦戦してきたことだ。


例えば昨夜夜中、僕は隣室からの壁叩きの妨害で目を覚まし(アパートに住んでいるとたまにある)、起床を余儀なくされたのだが、それに対する怒りは多少現れたものの、あっという間に胸の内に沈んでしまった。

「何故起こされねばならない?」という感情は、こうして筆を取るまで、深く深いところに眠ってしまうんだ。

僕が表情の殻を破って感情表情できるもの──それが、書くことだ。

筆を取れば、日常の感謝も悲しみも、怒りさえ、全てが紙面に現れる。

表情が無表情のままでも、だ。


話を戻そう。

「大丈夫」と口で言いながら深い深い悲しみの中にある時、あるいは、怒りに煮えたぎっている時──あるいは、あたたかな感謝で満たされている時も。

僕は、ペンを持ち、文をしたためる。

表情だけでは何も伝わらない僕の、唯一の本音のコミュニケーション手段。

言葉では笑顔と習得した声音に隠されてしまう、感情の発露。

僕がものを書くのには、こんな理由もある。


魂の全てをこめて筆を取れば、ようやっと胸の内に渦巻いていた何かが顔を出す。

それはある時は詩となり、ある時は小説の一部の描写となる。


今日もまた、こうして僕は筆を取る。

胸の内の何かを、伝えるために。

伝わらない気持ちさえも、文字にするために。


必死に、伝われと叫ぶように──。




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