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春の雪の名残

朝風に包まれて



──何かを、探していたのだろうか。

 もう遠くにあるあの日々には、手を伸ばせど指先さえ届かない。

 今自分が何を思い、何を描こうとしているのか、それさえ朧気で。

 ただ、車が高速道路を走るような速さで、日々が過ぎ行くのを眺めている感覚だ。

 

 鈍い痛みに苛まれながら、紺碧と灰の狭間の空を見上げる。

 夜明け前の空は雲っていたが、ちょうど雲間から柔らかな月明かりが顔を出すところだった。

 嗚呼、と溜め息を吐く。

 激痛に呻き、ベッドの上で右往左往し嫌な汗にまみれた昨日。

 次の朝には、こんな優しい光が待っていたのか、と、薄く笑んでしまう。

 

 身体を伝う奇妙な痛みとの付き合いは、もう八年ほどになる。

 動きやすい程度の鈍痛──全身はあちこち痛むが歩ける程度の、馴染んだ痛みの日には、無理さえしなければ日常生活が送れている。

 まあ、炊事とかいうような何かしかは適当にサボっての「日常生活」なわけで、全てこなせているわけではないが。

 洗濯機を回して、ベランダに洗濯物を干せる、掃除ができる──室内を綺麗に保てるくらいの体力があることは、幸いだった。

 激痛が連発して悶える日もあるが、ずっと続いているよりはまだ幾分かましだ。

 

 かつて激痛が続いた入院の日々には、立って歩くことはおろか、食事や水分をとることさえ痛む──点滴が必須の環境で、夜毎、翌朝を迎えないことをただ祈った。

 もうこれ以上は無理だ。

 理性が全て飛びそうな、耐え難い痛みだった。

 

 あれから八年、八年待った。

 ようやっと薬らしい薬と出会い──認可薬となるまでに時間を要したらしいそれを日常的に服用することで、今の状態までもってこられたわけだが。

 医療の進歩には感謝すれど、原因は解明されぬまま。傍目にはわからぬからと常に揶揄されがちな曖昧な病そのものを、時折蹴り飛ばしてやりたくなる。

 少しでもいいから離れてくれないか?

 たまには遠くに行ってくれ。

 這い回る痛みに、幾度か舌打ちした。

 

 そう。

 そんな時、だ。

 

 今朝の夜明けのように、優しい何かと出会ってしまう。

 それは月明かりであったり、花や木々の淡くも鮮やかな色あいであったり。

 ただ全てを照らし、包み、受容するかのような「あたたかきもの」は、僕の負の想いなど、いとも簡単に空へと融かして、やがて来る陽光へと変えてしまうのだ。

 

 嗚呼。

 溜め息を吐くばかりだ。

 

 だから、生きてしまう。

 今日も今日とて、癒されてしまう。

 

 悔しいくらいの──奇跡。

 優しい光が歌うから、歩んでしまう。

 健気すぎる彼らへの、僕なりの返歌かもしれない。


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