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日常を歩きながら、感じたことなどをふわっふわしながら記している、摩訶不思議?な日常物語です。
現実か夢かは、読み手のあなたにおまかせします。
それではでは、
夢か現か。
さあ、お話にどうぞ。
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秋風の月
真ん中らへんの日
足を運んでみたのは、ちょっと懐かしい場所。
昔は夢のように賑わっていた、とあるスーパー。
人はまあ、いるにはいる。
あの頃ほどじゃないけど…
「微妙」
口を開かず、携帯をいじる真似をしながら、口の中で小さく呟く。
腹話術の真似をして以来、出来るようになった変な芸だったけど、心に溜めるには重くて、ちょっと呟きたいときには役に立つ。
言葉に反して、表情はいつもの笑顔。
どこにいてもふと笑んでしまうのも、癖だった。
(三階の駐車場に、自販機。ここは、変わらない…)
買い物が終わって、荷物をたくさん車に運ぶのを手伝ったら、好きな飲み物をひとつ買ってもいいのが楽しみだった。
あの頃好きだったパックのジュースはないけど、今好きなコーヒーが売っていて、ついボタンを押す。
再び店内に戻って、休憩コーナーで本を片手に缶のブラックコーヒーを飲みながら、行き交う人を眺めた。
(ま、いつの時代も家族連れは多いわな)
ため息はもらさず、ゆっくりと瞳を閉じる。
目を開けたら、懐かしい人がいたら、どんなに嬉しいだろう。
(ふふ、相変わらず夢物語が好きだな自分)
再び目を開け、本のページはめくっているものの、読んではいない。
読みすぎて内容は全部覚えてしまっている。
ただ、何もせずぼーっとしているには、居づらい場所だった。
(ふむ…)
少しだけ思考してから、ゆっくりと立ち上がる。
(いい加減、認めなきゃね、もう、いないんだから)
行き同様、広い歩道をのんびり歩き、駅に向かう。
墓参りの日は、決まって雨だ。
雨女?
まあ、そう言われても仕方ない。どこかに行く日には、大抵雨が降る。
究極の晴れをもたらす道連れでも欲しいところだが、誰かといるのは息が詰まる。
結局、一人旅が好きなのだ。
次のバスまで二時間…
だいぶ時間があるが、こうして物でも書いていればすぐだろう。
都会に住んではいても、時間感覚は田舎人そのものだった。
「あ」
思わず、声を出してしまう。
足元に、雨の滴に混じって、白い羽根が降ってきた。
真っ白な小さな羽根は、不思議とあたたかい。
陰鬱とした気持ちさえ、一瞬で吹き飛んでしまう。
僕は、こういう偶然が好きだった。
周りには誰もいない。
この駅は、電車の着く時間以外、あまり人はいないから、ただただ静かだった。
「ありがとう、だな」
歌うように呟くと、バス停の椅子でうたた寝をはじめる。
屋根に弾ける雨音は、優しい旋律だった。
*おわり*