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100 茂兵衛 そだてる

玄琳(仮)「ちょっとよいか、話がある」

光泰   「玄琳げんりんかっこかり)、余り城の中を歩き回らないで下さいませ、

      見つかると、気ずかれてしまいますぞ」

玄琳(仮)「(かっこかり)とはなんじゃ?妙な名を付けるでない」

光泰   「後で西教寺の住職に、名を変えて貰いますので、

      辛抱してくださいませ」


光慶入れ替え大作戦は二段階で行われる。

時期を見計らって、坂本城北の西教寺に所属させ、出自を辿れなくする。

実に念には念を入れた、回りくどい策略である。


何故わざわざ光慶を、西教寺ではなく京都の妙心寺に所属させたか0?

理由は三つある。


一つ目は現在、西教寺には明智家家臣達が続々と寝泊まりしている状況にあった。

そこに光慶を置くとなると、人目について入れ替えが台無しになる。


二つ目は、西教寺の住職に面会できていないのである。

なんでも、明智光秀が死んだ事のショックで寝込んでしまったらしい。

ただ、弟子の坊主の口振りから、仮病の疑いがあるのだが、確かめようがない。

落ち着いたら、此方から訪ねてみようと思う。

それにお墓の相談もしないといけない。


三つ目は、明智家の宗派である天台宗の西教寺に出家させるより、

臨済宗の妙心寺にする事により、カモフラジュー効果を狙ったのである。

妙心寺には大心院主の三英瑞省という明智家や長岡家と懇意にしている、

坊主がいるからである。

ちなみに大心院とは妙心寺内の宿坊であり、

京都滞在中では、お世話になった場所である。


玄琳(仮)「そんな事はどうでもよい、それよりも大きな地震とはなんじゃ?

      利康が尋ねに来たぞ」


利康達、近習四人には、特別に光慶との別れの挨拶を許した。

彼等は口が堅いので、入れ替えのネタバレは話しても大丈夫だ。


光泰   「もうしゃべったのですか?後で驚かせようと思ったのに」

玄琳(仮)「始めに話したのは秀行じゃ。あいつは口は軽いぞ、口止めしておけ」

光泰   「仕方ありませぬな、誰か兄上の近習達を呼んでまいれ」

尾関   「畏まりました」

玄琳(仮)「誰じゃ?近習の森はどうした?」

光泰   「あれは近習見習いの、尾関雅次郎で御座います。

      森茂兵衛は別の用事を言いつけておりまする」


茂兵衛には、鶏小屋の建築を任せている。

あの後、鶏が届いた事には届いたのだが、全部ひよこであった。

どうやら茂兵衛が値段を抑える為、ひよこで頼んだ様である。


そして茂兵衛の代わりの近習を、浪士組の五人が日替わりで務めている。

因みに浪士組は、光慶の事など興味が無い様で、

僕の兄とすら認識していない。

まあ、経った一か月で、明智家の人間関係を把握するなど、

誰かに教えて貰わないと無理である。


数分後、尾関雅次郎は三人連れてきた。


光泰  「行久が居らぬがどうした?」

藤田秀行「叔父上は、親戚に挨拶しに参っておりまする」

光泰  「そうか、行久には後で話しておけ」

斎藤利康「では、地震のお話をして頂けますかな?」

溝尾茂朝「出来るだけ解りやすくお願い致しますぞ」

光泰  「!!!いつの間に来た、驚くではないか」


溝尾茂朝は、いつの間にか隣にいた。

この人忍者に生まれた方が、良かったのではないのだろうか?


溝尾茂朝「医坊殿を呼ぶように御命令されたではありませぬか」

山本山入「胃が痛むと聞きましたが、どの様に痛みまするか?」


山本山入やまもとさんにゅうは明智家の医者である。

この冗談みたいな名前は僧名である。

本名は山本対馬守秀勝、元は実尚。

皆からは普段、入道殿と呼ばれている。


光泰  「今は痛くないのじゃが、この後家老達の切腹を見届けねばならぬ。

     最後に家老の妻子と、話をさせてやろうと思うてのう。

     もしかしたら仲には、気分を悪くする者が出るかも知れぬ。

     入道殿には城に待機してもらい、不測の事態に備えて貰いたいのじゃ。

     それから地震の話じゃが、他の家臣達にも、後で話す予定じゃ。

     長岡家に行く者には、先に話したにすぎぬ。

     それに地震が起きるとして、する事などそう多くはない。

     家の補強と、消火の準備と、津波から逃れるように

     道の造設ぐらいじゃ。

     出来る事など、たかがしれておる」


斎藤利光「では我々は、地震の噂を広め、注意をするよう指導すれば良いとお考えで」

光泰  「そうじゃ話が早い、長岡殿にも文で知らせるが信じるか解らぬ。

     じゃが先に起こりうる事を、予想できたなら助かる民も多かろう。

     笑い話でも良いのじゃ。知ると知らぬでは大違いじゃからのう」


山本山入「この入道に出来る事と言えば、傷薬に良い薬草でも多めに植えておきますか」

光泰  「そうすると助かる」


玄琳(仮)「ちょっと待て、そもそも地震の話はどこから出てきた。

      何の事か解らぬぞ」

光泰   「あれは上様の前で倒れた時に夢の中で父上から、

      後に起こるであろう恐ろしき、天変地異を見せられたので御座います。

      父上は一言、明智家当主として出来る事は全て行うようにと、

      言い残したので御座います」

玄琳(仮)「そうか父上が・・・なにか嘘くさいぞ」


チッ、感が良い子供は嫌いではない。当然、嘘である。


光泰   「玄琳げんりんかっこかり)は、

      地震が起こらぬ様に、祈ってれば良いのです。

      後の事はお任せくだされ」

玄琳(仮)「(かっこかり)は要らぬ」


藤田秀行「しかし、昨年の芝居が無駄に成りましたな」


昨年の芝居とは、僕と光慶と近習達で行なった、鹿狩りである。

実はあれは全部、台本があった芝居である。

何故、芝居を行ったかというと、旧幕臣の家臣達が裏で、

僕を当主にしようとする動きが、出てきていた為である。

勢力が大きくなる前に、光慶の評価を上げ、僕の自由を勝ち取る為に、

みんなで光慶がトップになるよう鹿を仕留める、小芝居を打ったのである。

そして用意したどら焼きも、僕が武芸より食い物しか興味が無いような

態度を見せる為、前日に作った物ある。

この時にいた、並河八助君は証人として、噂を広める役目を担って貰っていた。


玄琳(仮)「秀行は口が軽いから心配じゃ。

      解って居ると思うが、あの事はけして話すでないぞ」

藤田秀行 「勿論で御座います。隠岐様が倒れられた時の話は致しませぬ」

光泰   「ん?何の話じゃ?」

藤田秀行 「実はですな、あの時・・」

玄琳(仮)「だから話すでない。墓場まで持って往かぬか」


ちょっと気になるが、無理に聞いてへそを曲げられては面倒なので、

聞かないでおこう。


そういえば、本能寺で薬を貰ったな。山本山入に見て貰おう。


光泰  「入道殿、この薬はなにか解るか?

     本能寺で坊主に貰ったのじゃが」

山本山入「本能寺の者に、聞かなかったので御座いますか?」

光泰  「それが誰も、薬をくれた坊主を知らなくてのう」

山本山入「見せて頂けますかな」


山入に薬を渡した。山入はそのまま廊下に歩き出し中庭に撒きだした。


光泰  「ん?何をしておるのじゃ?薬が駄目になるではないか」

山本山入「この様な得体の知れぬ薬など、飲んではなりませぬ。

     殿が飲まぬよう、庭に撒かせて頂きました。

     お叱りは受けたまりまする」


光泰  「よいよい、どうせ貰い物じゃ。入道殿の判断が正しかろう」


ちょっと勿体ないが仕方がない。銘柄でも書いていれば良かったが。


茂兵衛 「ぴよ次郎ー、おーいーぴよ次郎ー」


中庭に茂兵衛がやってきた。


光泰  「何をしておる、鶏小屋は完成したか?」

茂兵衛 「鶏小屋は完成致しましたが、ひよこを入れるさいに、

     ぴよ次郎だけ逃げてしもうたので御座います。

     元気が良すぎるのも面倒で御座いますな」

溝尾茂朝「なんと吞気な。これではお茂殿も苦労するはずじゃ」

光泰  「ぴよ次郎とはなんじゃ?まさか名付けたのではあるまいな」

茂兵衛 「十匹買いましたのでそれぞれ、ぴよ太郎、ぴよ次郎、ぴよ三郎、

     ぴよ四郎、ぴよ五郎、ぴよ六郎、ぴよ七郎、ぴよ八郎、ぴよ九郎、

     ぴよ衛門と名付けましたが、もしかして名付けとう御座いましたか?」


畜生、突っ込み所が多い!!!

まず名付けるな、ペットではないぞ、家畜だぞ、食べにくくなるだろ。

それからぴょぴょ五月蠅い。ぴよ衛門てなんだ。最後はぴよ十郎だろ。

そして君の主君の名は十次郎だよ、ぴよ次郎は無い。

ぴよ太郎・・・Pen-Pineapple-Apple-Penを思い出したぞ。


光泰  「茂兵衛・・・言いたい事は色々あるが、約束は覚えているか?」

茂兵衛 「ご安心下され。しっかりと卵を産むまで面倒を観させて頂きまする」

光泰  「名が全て男じゃが、雄鶏が卵を産むと思うておるのか?」

茂兵衛 「雄鶏が産むわけ御座いありますまい。流石に知っておりまするぞ」


これはもう天然だな。


光泰  「全部、雄鶏だと面白いのう」

茂兵衛 「止して下さいませ、ご冗談を」


まあ確率は512分の1、結構高いな。


ぴよ次郎「ピヨピョ」

茂兵衛 「なんじゃ、床下に居ったのか」


ぴよ次郎は廊下の下から出てきた。

その時であった。ぴよ次郎は山本山入が撒いた薬を啄ばんだ。


ぴよ次郎「ピぃ----(ガク)」

茂兵衛 「どうしたぴよ次郎、ぴよ次郎」


ぴよ次郎は動かない。


光泰  「死んだな」

山本山入「死にましたな」

光泰  「毒であったか?」

山本山入「毒で御座いますな」

光泰  「危なかったな」

山本山入「危のう御座いました」

茂兵衛 「ぴよ次郎ーーーーー」


ぴよ次郎は息を引き取った。


斎藤利光 「兄上、明智家は先が危のう御座います」

斎藤利康 「口を慎め」

藤田秀行 「プッ(笑)」

玄琳(仮)「お経はあげぬぞ」


その後、山本山入に明智光秀と謎の人物の遺骨の分別を依頼した。

なお、時間がかかるそうなので、墓を用意できるまで待つ事にした。


あの坊主は何者だったのであろうか、確かめる術は無かった。

しかしぴよ次郎、縁起が悪い。


山本山入の医師設定は事実にはありません。

名前で選んだだけです。


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