99 光泰 わかれる
現在、清州城で織田家の当主を誰にするか、会議が行われている。
候補者は二人、嫡男織田信忠の子、赤ちゃんの三法師と
四男で羽柴秀吉の養子、羽柴秀勝である。
次男の織田信意(信雄)は、火事を起こした件で失脚。
三男の織田信孝は信忠殺害後、行方不明。
五男以下は元服前で除外。
現在のオッズは、3対1で三法師有利と、家臣達は話している。
光泰 「皆集まったか?」
溝尾茂朝「揃いまして御座います」
坂本城大広間に、リストラ予定の若手エリート集団を集めて、
長岡家に異動する事を説明と説得をしなければならない。
戦国の武士は、主君を自分自身で決める事ができる。
だが、今後の展開次第では、羽柴秀吉と柴田勝家の戦が起こる可能性が高い。
前田家なら問題がないが、味方が確定している長岡家が一番いい。
光泰 「さて、話は解っておるな?
異議の有る者は、言うがよい。多少無礼でも構わぬぞ。
後、わしに恨みが有る者は、この扇で頭を叩いて憂さを晴らすがよい。
わしはもう死ぬわけにはいかぬでな、これで勘弁せい」
扇とは紙製のハリセンである。何故このような物を用意したのかと言うと、
家臣達にとって僕は、主君の仇になるのだが、悪いのは謀反を起こした光秀である。
いくら頭で解っていても、彼らの光秀に対する忠誠心はかなり高い。
ハリセンで今ここで叩なけば、後で僕を殺そうと思った時に、
昔、なんにも文句を言わなかった癖に、後になって仇を取ろうなど、
恥ずかしい奴と言えるからである。
この場で叩く人は、まず居ないだろうが用心には越したことはない。
もし叩いてきたら、要警戒人物だと認識するだけだ。
藤田行久「若様はそれでよろしいので御座いますか?
私が言うのもなんですが、ここに居るのは、
これから明智家に必要な者ばかり。
それを長岡様にくれてやるなどとは、正気とは思えませぬ」
光泰 「仕方あるまい、謀反を起こした家の力を削がねばならぬ」
藤田行久「それにしては少し多う御座いませぬか?
五十名も必要ありますまい」
光泰 「明智家は五万石に減らされた、そなたらの様な優秀な者を、
元服したての未熟者の下にいては、
手柄を立てる機会を失う恐れがあろう。
長岡の義兄上は気性には難が有るが、戦には強い」
斎藤利光「長岡様にも、多くて迷惑に成りませぬか?」
光泰 「不要なら返してくれように言っておくか」
藤田秀行「出戻ったら、恥ずかしゅう御座いますな」
光泰 「おぬしは戻ってくるなよ、騒がしくて敵わぬ」
藤田行久「プッ!!(笑)」
光泰 「他に異議は無いか?」
次の話をしようとした時、小さな女の子が入ってきた。
斎藤利康「福!!ここに来てはならぬと申したであろう。
早く母上の所に戻れ!!」
? 「あにうえは、あほうでございますか」
光泰 「誰じゃこの子は?」
斎藤利康「妹の福に御座います」
福 「わかさまはよろしいのですか?」
光泰 「何の事じゃ?申してみよ」
福 「おおあにうえは、のこすべきにございます」
光泰 「大兄上の利康は残るか?わしは構わぬぞ。
そなたは、遠縁じゃからのう。
ただおぬしには、とある密命を果たして貰いたいのじゃが」
斎藤利康「密命で御座いますか?」
光泰 「珠子姉上を守ってほしいのじゃ」
斎藤利康「珠子様だ御座いますか?それは長岡様の手前、
しゃしゃり出る訳には参りませぬが」
光泰 「なに、むつがしい話ではない。
伴天連に改宗させなければ良いのじゃ」
斎藤利康「意味が解りませぬが、何か訳が御座いますか?」
光泰 「そう遠くない内に、羽柴様は伴天連の禁教令を出す」
斎藤利康「まさか珠子様は、伴天連に成られたので御座いますか」
光泰 「いやまだじゃ」
斎藤利康「では問題ありますまい」
光泰 「長岡の義兄上と珠子姉上は、いずれ仲違いする可能性が高い。
珠子姉上の気性じゃ、嫌がらせで改宗する恐れがある」
斎藤利康「それで長岡殿が御怒りに成り、殺めてしまう可能性があると」
光泰 「問題はそう簡単ではない。伴天連は間者じゃ。
増えすぎると国が乗っ取られるぞ。遠いアフリカの地では、
民を改宗させ、対立を煽り疲弊させた後、敵を奴隷にし
諸国に売り儲け富をかすめ取っておるのじゃぞ」
斎藤利光「なんと悪辣な、あの黒人はその様に連れて来られてたとは」
光泰 「今はまだ、玉薬が必要じゃから目を瞑るであろうが、
日本の国がまとまれば、伴天連を追放せねばならぬ。
その時、珠子姉上が改宗してみよ。実に恐ろしいであろう」
本当は人質に成りそうになったのに、逃げなかったのが問題で、
キリスト教は余り関係ない。
要因として考えられるのは、改宗したせいで夫婦仲が悪くなり、
忠興の元に帰りたく無かった。
あるいは殉教者として死にたかったのかも知れない。
そもそも、石田三成が余計な事をしなければ大丈夫のはずだ。
斎藤利康「成程解り申した。
珠子様へ、伴天連に近づかぬよう用心いたします」
光泰 「後で文にも書くが、近くに居る者が止めてくれれば心強い」
福 「おおあにうえはいってはなりませぬ」
斎藤利康「これ、黙っておりなさい」
光泰 「この子は何故、残れと言っておるのじゃ?」
斎藤利康「実は私と利光は長岡家に、母上と福達は稲葉の伯父上の下に参ろうかと、
母上と話したので御座いますが、福は離れるのを嫌がり
我儘を申して居るので御座います」
光泰 「それでわしが引き止めれば、ここで一緒に暮らせると思うて居るのか」
福 「ふくはいやでございます」
光泰 「利康が稲葉家に行けば問題ないが、いや問題だらけか」
斎藤利康「私には、稲葉の血は流れておりませぬ」
光泰 「これ福姫、利光で我慢せい」
福 「としみつあにうえはいりませぬ」
藤田秀行「プッ!!(笑)」
斎藤利光「福!!我儘を言うでない。蔵に閉じ込めるぞ!!」
福 「としみつあにうえもわかさまもきらいじゃ」
バシッ!!!バシッ!!!
斎藤福ちゃんは、僕の前にあったハリセンを手に取り、僕と利光の頭を叩いた。
斎藤利光「コラァァーーーーー!!!!!!!!!!!!!!」
福 「としみつあにうえのおこりんぼう」
斎藤福ちゃんはハリセンを持って部屋から逃げた。
斎藤利康「お恥ずかしい限りで申し訳ございませぬ」
光泰 「よいよい、しかし中々聡い子じゃな。
歳は幾つじゃ?」
斎藤利康「三才にて御座います」
斎藤利光「兄上が甘やかすから、いけないので御座います。
後で叱ってやらぬと」
光泰 「三才であれだけ言えるのじゃ。
将来は、将軍様の子を産むかもしれぬぞ。
仲ようしておいた方が、良いかも知れぬぞ」
斎藤利光「福がで御座いますか?まあ落ち目の足利家には、お似合いでしょうが」
斎藤利康「扇は後で返しますゆえ、お許しを」
光泰 「面白かったから褒美にやろう。あの子がもしも、わしより偉くなったら
思い出話をしてやるわい」
斎藤利光「福が偉くなるなど、恐ろしくて考えとうない」
光泰 「あと言い忘れいたが、三年後の冬、
天正十三年十一月から十四年一月の間に、大きな地震が起きるから
用心するように」
一同は、いきなり何を言ったのか、理解できいていないようである。
藤田行久「大きな地震とは、何の事でございますか?」
光泰 「今までに経験した事が無いくらい、山や海が大きく揺れるのじゃ
丹後は海沿いじゃから、津波にも注意せよ
信じるか信じないかは、おぬし達次第じゃ」
藤田行久「若様は三年先と申されましたが、占いで御座いまするか?」
光泰 「十四年後の七、八、九月にも注意せよ。
もっと大きな地震が起きるからのう」
斎藤利康「占いにしては、細かすぎませぬか?」
光泰 「言っておくが起きるかどうかまだ解らぬ。
だが、用心には越したことはない。
外れれば、わしを笑うが好い」
地震の件は、余り信じて貰えてないようだ。
当然といえば当然である。一度起きなければ信じない。
しかも聞き取り調査の結果、戦国時代の間には大きな地震は起きていないそうだ。
つまり生きてる人達は、初めて経験する大地震になるのである。
これでは危機感が生まれる訳がない。
溝尾茂朝「明日は晴れると良いのですが」
家老四人の切腹を、明日に迎え心の準備をしなくてはならない。
光泰 「恥を掻かせぬように、せねばならぬのう」
倫子姉さんと??姉さん(まだ名前知らない)に、何と声をかければ良いのか。
光泰 「胃が痛くなりそうじゃから、医坊をこさせよ」
ああ!!切腹なんて見たくねーーーーーーーーーー!!!!!!
福ちゃんを無理やり出してみました。
あともう少し