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97 藤孝 こたえる

現在、清須城にて織田家の後継者を決めるべく、

羽柴秀吉、柴田勝家、丹羽長秀、滝川 一益の四名で、

会議が行われる事になったそうだと、

長岡藤孝(細川幽斎)が教えてくれた。


藤孝「安土に居ては、厄介な役目を言われそうであったからのう。

   京の様子を見てくると言って、退散してきたわい」

光泰「剃髪されたのですね」

藤孝「最近、唄の出来が悪くてのう。

   隠居して、心境を変えてみただけじゃ」


長岡藤孝は剃髪して、忠興に家督を譲り隠居するそうだ。


光泰「これから忠興殿は、大変忙しく成られまするか」

藤孝「もう一大事になったがのう」


先日宮津城にて、忠興の身に起こった災難を教えてくれた。

ザマァ。


光泰「それはなんとも、まあ・・女子にしておくには勿体無い姫君で」

藤孝「嫁に要らぬか?」

光泰「夫を兄に殺され、その妻の実家で、謀反を起こした家に嫁がせるのは、

   流石に気の毒で御座いましょう」

藤孝「当分の間、寺に入れるかのう」


伊也(いや)姫には悪いが、面倒事はできるだけ避けたい。


光泰「私の口からは何ですが、長岡家の為にも、

   姉上とは離縁させるべきでは?」

藤孝「与一郎(忠興)は、わしの言う事は聞かぬ。

   そう言えば文を預かっていたのう」


珠子姉さんの手紙には、明智光秀の件には触れず、

子供達がスクスク育っていると書いてあった。


光泰「なにか私を気遣っているのか、

   当たり障りのない文で御座いますが、

   夫婦仲は宜しいので御座いますか?」

藤孝「悪くは無いと言っておこう」


もし歴史がそれほど変わらなければ、

珠子はキリスト教に入信して、ガラシャと呼ばれるようになる。

その後、秀吉によるキリスト教弾圧が始まり、

棄教しない珠子は、忠興との仲が悪くなったと予想される。

キリスト教カトリックは、自殺と離婚が禁止されている。

関ヶ原の戦いで、石田三成に討たれる事により、

殉教者としての名誉と、忠興から開放され、

天国に行くことを望んだのかも知れない。

忠興は絶対地獄逝きだし。


光泰「姉上には、何時でも戻って来ても良いと、

   お伝え下されますようお願い致しまする」

藤孝「明智家は、兄弟仲が良くて羨ましいのう。

   兄は元気か?」

光泰「ご存知有りませんでしたか。

   光慶は、先日御亡くなりに成りました」

藤孝「隠しても無駄じゃ。黒田殿は感づいておる」


流石、軍師官兵衛。もう気づかれたか。


光泰「この事は御内密に」

藤孝「安心せい、わしは口が堅い」


さて、どうしようか。

黒田官兵衛が何処まで黙って居てくれるかが、

重要なのだが、今は考えても仕方がない。

あちらの出方を待つとしよう。

下手に動くとボロが出る。


光泰「それから家臣達の士官の件ですが」

藤孝「領地も増え、人手は足りぬ所じゃ。

   ただし、若くて有望な者に限るがのう」

光泰「旧幕臣達は、入りませぬか」

藤孝「細川家の分家では、家格が上の者は扱い辛い

   織田家の誰かに、任せるが宜しかろう」


これから家臣達のリストラを行わければ成らない。

近江坂本城周辺だけでは、満足に禄が払えないのである。


明智家の家臣は大きく分けて四つある。

士官した順番に、美濃衆、近江衆、旧幕臣衆、丹波衆である。

坂本城付近の近江衆は残さないといけない。

丹波衆は新たに任される、丹波の城主と交渉次第。


問題なのは、美濃衆と旧幕臣衆である。


美濃衆は明智家譜代家臣であり、リストラしにくい。


旧幕臣衆は、元々足利家の家臣なので勤続年数も低く、

能力も家格と合っていない、無能集団である。

特技と言えば、礼儀作法とか芸事など

一介の城主には不要な能力である。

多少でも武芸にひいでいたなら、足利幕府はあんな

情けない終わり方はしなかったであろう。


因みに藤孝も旧幕臣だが、能力はトップクラスで、

筋肉もりもり、歌道の達人で名家出身、

欠点が有ったとするならば、主君に恵まれなかった事であろう。


光泰「それから、父上に将軍様から文が届いているのですが、

   いかが致しましょう」

藤孝「それは気にする事はない。もし将軍様の件で困った事あれば、

   細川藤賢殿か一色藤長殿に尋ねるが良い」


長岡藤孝(細川幽斎)は、足利義昭の文を全く見ることも無かった。


藤孝「公家様達の助命嘆願書も無駄になったのう」

光泰「兄上ので御座いますか?」

藤孝「今後もしもの事もある。大事に取っとくとするか」

光泰「しかし何故、公家様達が助命など?」

藤孝「妙な旗と唄のせいじゃ」

光泰「旗と歌に御座いますか?」

藤孝「陰陽師の五芒星旗に、童が唄っていた呪詛だと騒いでいたぞ」


本能寺の変の際の、☆の書かれた旗と、かごめの歌が、

公家達に妙な恐怖を与えてしまったようだ。


藤孝「旗はともかく、唄は意味を聞かれて困ったぞ」

光泰「何とお答えに成られたのですか?」


藤孝「囲め、囲め     は、都を囲め

   籠の中の鳥     は、信長公

   何時、何時、出やる は、謀反が筒抜けに成っている

   夜明けの晩に    は、世直しの前

   鶴と亀が滑った   は、鶴は本能寺の寺門、亀は亀山、滑ったは統べる

   後ろの正面、だーあれは、御主の事であろう」


スゲー大正解。

実際はこじつけなのだが、僕が用意していた回答を、

全て言い当てている。


光泰「流石、御明察で御座います」

藤孝「大事な時に余裕じゃのう」

光泰「長岡様も戦の前に、唄を読まれるとか。

   私も下手なりに、習って見ただけに御座います」

藤孝「今度からは、短く致せ。余計な揉め事の種に成るぞ」

光泰「心得ました」

藤孝「これから大変じゃろうが、光秀の苦労に比べれは大した事はない。

   それから困っても、けして与一郎(忠興)を頼るでないぞ。

   問題が大きくなるだけじゃ」


本能寺の変が予定より早まったのは忠興のせいである。

武田との戦の際、明智兵に対し散々脅したからである。

その性で、集合時間が早くなり、京への到着が早まってしまった。

けして唐辛子を食わせた悪戯のせいではない。多分。


光泰「忠興殿も当主に成れば、多少は落ち着きましょう」

藤孝「だと良いがのう」


僕は愛想笑いを浮かべながら、長岡藤孝(細川幽斎)を見送った。


藤孝「(出来の悪い子を持つと苦労するわい。

    光秀も、もう少し若ければのう)」


後日、


藤孝「与一郎(忠興)、もし謀反を起こしたら、わしを討てるか?」

忠興「その時は、亡き信長公から頂いた刀で、

   苦しまぬよう一突きにして御覧に入れまする」

藤孝「少しは躊躇ためらえ」

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