92 光泰 帰還する
今迄に起こった事を整理しよう。
僕が本能寺の変を阻止した後、
本能寺が爆発して、身元不明の遺体が出てきた。
何故か織田信忠が死亡。
義兄の津田信澄が織田信孝に殺害され逃亡中。
帰蝶と濃姫は別人。
光慶と家老達の切腹は延期。
これから坂本城に帰る。
織田信忠の死亡原因が不明だな?
織田家の人達がいる妙覚寺を、濃姫が閉じているのかも妙だ。
何故、信長が出てこない。
姉とはいえ、権限は無いはずだ。
もしかして信長にも何か遭ったか?
織田信孝が、逃げているのも可怪しい。
津田信澄よりも身分の高い織田信孝なら、
幾らでも言い訳が出来るはずだ。
義理の父である明智光秀が、謀反を起こしたのだから、
濡れ衣を着せることなど容易いはず。
他にも何か、やらかしたか?
歴史を変えた事による、変化と、反発。(注:超訳です)
こんな時は、面倒そうな事には突っ込まない。
身の安全だけ考えよう。
切腹の延期は都合がいい。時間稼ぎの手間が省けた。
後は撤回する方法だが、家老達に考えさせよう。
駄目で元々、最後まで抗う、悪い奴ほど必死になる。
婆ちゃんが言っていた。
もしかしたら、とんでもない方法が出るかも知れない。
光泰 「よし、此れで行こう」
溝尾茂朝「何をブツブツ言っておられまする。
急がねば置いて行かれますぞ」
れっきとした家老なのに、何故か切腹を免れた溝尾茂朝。
家老は五人、切腹を言い渡されたのは四人と光慶。
光泰 「皆とずっと居たよな?」
溝尾茂朝「居りましたが、それが何か?」
光泰 「気づかれるでないぞ」
溝尾茂朝「生き恥を晒す気は、御座いませぬ。
事が終わり次第、殿の元へ参ろうかと存じます」
光泰 「成らぬ!!運良く助かった命じゃ、
何か意味が有るやも知れぬ。
腹を切ったら許さぬ」
溝尾茂朝「しかしながら、他の者に何を言われるか・・」
光泰 「ならば、こう言えば良い。
文句が有るなら、あの世で信忠様に言いに逝けと」
溝尾茂朝「それでも納得せぬ場合は如何に?」
光泰 「その様な輩は、いい度胸をしておる。
戦で思う存分に、働くであろう」
溝尾茂朝「ではその様に致しましょう」
溝尾茂朝は、軍人と言うより公務員。
主に補給担当をしている。
今後の事を考えると、僕は政治には疎いので、
切腹を免れたのは都合がいい。
茂兵衛「ところで、鶏の件ですが・・」
今更どうでもいいが、一応聞こう。
光泰 「見当たらぬが、買えなかったのか?」
茂兵衛「それが堺に向かていた際に、
茶屋の丁稚に呼び止められたので御座います」
光泰 「その前に何故、堺に向かった?」
茂兵衛「途中で、服部(平次)殿に出くわし、
鶏を売っている所を知らぬかと聞いたら、
堺まで行けば、伴天連が鶏を食うから売っていると言いまして」
平次君、今何処に居るのかな?
光泰 「茶屋の丁稚がどうした?」
茂兵衛「丁稚は、堺から京に戻ってきたらしく、
津田様の事を教えていただいたので御座います」
光泰 「そうか、だから鶏を買わず戻って来たのだな」
茂兵衛「いえ、鶏は買えましたが」
光泰 「見えぬが、誰から買った」
茂兵衛「丁稚の知り合いの商人が、鶏を飼って居るそうで、
分けて頂くことになっております」
光泰 「ならば良い。銭は何時払えば良いのじゃ?」
茂兵衛「ご安心くだされ、もう払っておりまする」
光泰 「先に払ったのか・・・・騙されてはおらぬよな?」
茂兵衛「人を見る目は御座います」
戦国時代は、後払いがほとんどである。
互いに、信用が重要なので初対面の人に先払いなど有り得ない。
光泰 「どう思う?庄兵衛(溝尾茂朝)」
溝尾茂朝「新しい近習を探さねばなりませぬな」
光泰 「気が利く者を頼む」
茂兵衛 「増やすので御座いますか?
一から教えねば成りませぬな」
君と入れ替えるんだよ!
近習もそうだが、いろいろ人事異動しないといけないよな。
家臣は全部、坂本に集まるから・・すごく面倒だな。
すべて、溝尾茂朝に任せよう。適材適所。
切腹予定の四家老と光慶は、秀吉の見張りで坂本城に移送される。
僕と茂兵衛と溝尾茂朝は別行動で、
屋敷番の三宅綱朝は荷物と共に明日出立する。
明智家の京屋敷は、秀吉に任せることにした。
今後の秀吉の出世を見越して、今の内に得点稼ぎをしておきたい。
秀吉にしてみれば、京に屋敷を持てばいろいろと便利なはずだ。
秀吉「急がぬか!汝はのろまか?」
僕が最初から下手に出ていたので、秀吉は凄く口が悪くなっていた。
まるで家臣のように扱われている。まだ僕は、信長の家臣である。
屋敷を正式にあげるのは後でも良いか。
光泰「準備は出来ております」
秀吉「出発じゃ」
帰りの隊列は奇妙だった。
先頭の秀吉は良いとして、信長は偽物だった。
声質が高く、明らかに女の人のようだった。
次に明智光秀の棺桶だが、中身は織田信忠である。
これは偽装である。
まだ、信忠の死は公表できないので、棺桶に桔梗の旗を被せている。
光秀の遺体は、三宅綱朝が明日運ぶ予定だ。
そして中身は見えないが、濃姫の輿が一つ隊列に加わっていた。
だが、先頭で運んでいる人が蘭丸君だった。
僕等三人は、一番後ろに居た。
光泰「そろそろ動かねばな」
何処からか小声が聞こえた。
平次「若様」
塀のむこうに平次がやってきた。
光泰「平次か、これから坂本に帰るがお主はどうする?」
平次「これから駿府に参ります。それよりこれを」
塀の下から曲がった鉄製の兜が出てきた。
光泰「これは地獄滅頭ではないか」
平次「本能寺の近くで見つけて参りました。
それよりも裏側を御覧下され」
裏側?どれどれ、ゲェ!!!
光泰「顔じゃな」
平次「なんとも面妖で御座います」
鉄製の兜の裏側には、光秀の顔が浮かんでいた。
光泰「デスマスクか・・」
平次「ですますく?で御座いますか?」
光泰「死の面じゃ、おそらく本能寺が爆発した際に、
兜が張り付いて焼き付いたのであろう」
平次「不吉やも知れませぬ、捨てて参りましょうか?」
光泰「いや、よくぞ見つけた。所で噂はどうなっておる」
平次「それが、いくら良い噂を流しても悪い噂ばかりながれ、
若様が化物の如く思われておるようで御座います」
ここで言う若様は、光慶である。
光泰「おもに、兄上の噂はどの様になっておる」
平次「上様に謀反を起こし父親を殺め、
本能寺を焼いた咎で切腹させられると」
光泰「わしの噂は?」
平次「全く御座いませぬ」
犯人、光慶に成ってる、なんでやねん。
真実が広まるのは、もう少し時間がかかるか。
光泰「ご苦労であった、達者でな」
平次「若様の御武運を御祈り致します。
またお会い致しましとう御座います」
僕は出立した。
地獄滅頭改、光秀の死仮面を見せつけながら。
京の人一「見たか、あれはなんじゃ」
京の人二「明智様ではないか?」
京の人一「祟りか」
京の人三「あれは骸に押し当てたに違いない」
京の人二「恐ろしや、恐ろしや」
光秀の死仮面は、京の人達を恐怖のどん底に突き落とした。
ある者は祟りと、別の者は罰当たり者と、
公家達は光慶の助命嘆願に向かうのだが、その話はもう少し先である。
この後、書く所がないので、
濃姫→信長に変装
信長→輿の中
信忠→桶
光泰→デスマスクをぶら下げる




