80 光泰 うたがわれる
二条城の門の前で森蘭丸が待っていた。
森蘭丸が、恐る恐る光秀の顔を覗いた。
光泰「御安心くだされ、動いたり致しませぬ」
蘭丸「解っておる」
ワッ!!と脅かしたら不謹慎だよな。
蘭丸「心の臓を一突きか」
光泰「父上は、こうなる事を予測していたのやも知れませぬ」
明智光秀の見分はすぐに終わった。
蘭丸「光泰様は上様の元へお越し下さいませ。
他の御方は此方でお待ちを」
織田信長の所にちっさいオッサンがいた。
どうやら秀吉らしい。側近らと早く着いたようだ。
もう一日、早く来ていたら手柄に成ったのに。
僕も苦労せずのんびり出来たのにな。
光泰「羽柴様、お早いお付で」
秀吉「お主には、聞きたい事がある」
光泰「なんで御座いましょう」
秀吉「文や言伝を頼むべきではないか?」
光泰「父上に怪しまれぬよう浅知恵をふるったまでに御座います」
秀吉「しかし小豆袋だけでは解らぬではないか」
光泰「浅井が裏切った時にお市さまが、小豆袋を送り知らせたのでは?」
秀吉「そんな話は知らぬ」
羽柴秀吉は小豆袋の事を知らなかった。
信長「もうそのくらいに致せ」
秀吉は席に着いた。
信長「秀吉、それにしては早かったのう」
さすがに信長も、人前では猿とは、言わないか。
あれ、ちょっと秀吉を睨んでいる?
秀吉「かなり無理を致しました」
信長「小豆袋だけでよく解ったのう」
秀吉「小豆を安土もしくは明智、
袋を袋の鼠と解釈致しまして御座います」
秀吉はなんだか怯えている。
信長「どうなのじゃ」
今度はこちらを見た。
光泰「いえ、袋の鼠は合っていますが、
小豆は甘い物好きの上様の事を表しております」
信長は笑っている。
信長「二人共、大儀であった。沙汰は後で知らせる
それまで待機しておれ」
僕と秀吉は下がった。
秀吉に謝罪しておくか。
光泰「知らぬ事とはいえ、お市様の小豆袋の話が、
偽りだったとは、申し訳ござらぬ」
秀吉「少し頭を捻ったぞ」
光泰「しかしながら、偽りの話から真実に辿り着くとは、
さすが羽柴様で御座います」
秀吉「そうであろう」
僕は秀吉と別れた。
秀吉「あやつをどう思う」
黒田「小賢しい小僧ですが、殿の敵ではないでしょう」
秀吉「明智は終りじゃな」
黒田「後は柴田ですか」
秀吉「あやつの吠え面が見れそうじゃ」
黒田「殿、御武運が開けましたぞ」
本能寺の変は終わった。
これまでの人生で二番目に長い一日だった。




