70 光泰 邪魔される
五月二十九日
僕は、本能寺の変に向けて、最終確認をしている。
糸電話の代わりの別の手品の件だが、
良く考えれば手品などどうでも良かった。
重要なのは、謀反の防止あるいは阻止だ。
どうせお披露目や発表などしないし。
光泰 「浪士組の様子はどうじゃ」
茂兵衛「皆、滞りなく与えた仕事をこなしております」
浪士組には、トレーニングを終えた後は様々な仕事をさせている。
掃除、洗濯、城の見回り、など雑用ばかりだが。
光泰 「使えそうな者はおるか?」
茂兵衛「柳田が、最も役に立つかと」
柳田って誰だっけ?
光泰 「名をまだ、聞いておらなかったな」
茂兵衛「前に書かせた名簿が御座いますが、まだ見ておりませぬか?」
光泰 「どこに置いたかのう」
茂兵衛「一番上の棚では御座いませぬか」
茂兵衛は棚から書類を取り出した。
ちなみに棚には、僕が作った試作品の玩具や、今までに作って貰った
道具や自分で作る用の材料が置いてある。
光泰 「さて、名前は・・・」
壱番から順に、
伊勢の関川大次郎
伊勢の石井勇次郎
大和の尾関雅次郎
阿波の柳田三次郎
尾張の佐野七五三之助
しかも全員、同い年の十四才。
惜しい!!!あと一人次郎だったら面白かったのに。
光泰 「最後の、さのしちごさんのすけと読むのか」
茂兵衛「七五三之助で御座います」
これはアレか?キラキラネームか?
光泰 「次郎ばかりじゃのう(一人除く)」
茂兵衛「全員次男坊で、嫡男と折り合いが悪く家を飛び出したそうで御座います」
浪士組は、同じ境遇の者が集まっているようだ。
光泰 「今日は、台所の手伝いでもさせよ。
鯛焼きを作るよう言うておるので、作り方を覚えさせよ」
茂兵衛「鯛焼きの作り方を教えるのですか?」
光泰 「広めるには、覚えさせねばならぬであろう」
浪士組が、また浪人になっても鯛焼き作りを覚えれば、
屋台で売って生計を立てる事が出来る。
クビにした後、仕官できるとは限らないからな。
優しいな、僕は。
茂兵衛は、浪士組の指導に向かった。
門番 「若様、宜しいでしょうか?」
光泰 「何か遭ったか」
門番 「今川氏真様が、面会を求めに来ておりますが、如何致しましょうか?」
今川氏真?誰だっけ?明智光秀の知り合いか?
光泰 「今川とは、何処の今川じゃ?」
門番 「元駿河遠江の大名の今川様で御座います」
それって、桶狭間の戦いで織田信長に負けて死んだ、今川義元の息子の事か?
光泰 「本物か?」
門番 「確かめようが御座いませぬ」
それもそうだな。
光泰 「平次殿は今川氏真様に、お会いしたことは有るか?」
平次 「見たことは有りませぬが、特徴は聴いた事が御座います」
光泰 「では確かめてくれぬか?もし本物ならお通しせよ」
平次 「畏まりました」
今川氏真・・・確かアホで有名な人だよな。
何した人だっけ?大河ドラマに出ている時は
蹴鞠のシーンしか覚えていない。
風林火山にも出ていた様な気がするが、
あの時は四才だったので、よく覚えていない。
直虎では敵役だったか、途中までしか見ていない。
木材がどうのこうのと騒いでいた話までだった。
此方に来た時は2017年7月だったからな。
何故か1577年12月に飛ばされたけど。
平次 「確かめて参りました」
光泰 「どうであった?本物か?」
平次 「本人で御座います」
本物かよ、面倒くさい。
こんなクソ忙しい時期に、何しに来たんだよ。
光泰 「追い返す訳にはいかぬよな」
平次 「面会の間にお通して居りますので、お早く行かれた方が宜しいかと」
光泰 「どの様なお人じゃ?やはりうつけ者か?」
平次 「大将の器では御座いませぬが、肝は座った御仁だと聞いております」
へえー、性格だけは武士なのか。噂は当てにならないな。
光泰 「おまたせ致しました。城代の明智十次郎光泰で御座います。
今日はどのようなご用件で御座いましょうか?」
今川氏真の第一印象だが、凄いイケメンだった。
現代に生まれていたら、確実に女に持てるタイプだ。
生まれてくる時代を間違えたね。
今川氏真「光秀殿に折り入って、頼みが有ってのう」
光泰 「父上は今、亀山城で御座いますが、そちらに行かれては?」
今川氏真「それが時間がないのじゃ。わしは今、織田様から逃げておる」
???何か有ったっけ?歴史に出ていたかな。
今川氏真「実はのう、わしは織田様に命を狙われておるのじゃ」
この人なにかヘマをしたのかな。
光泰 「どう言うことで御座いますか?」
今川氏真「わしが京に居た時、安土におる徳川殿から知らせが来たのじゃが・・・」
五月某日、安土城にて、
徳川家康「駿河を今川殿に与えたらどうでしょう」
織田信長「役にも立たない氏真に、駿河を与えられぬ。
不要な者を生かすよりは、殺した方が良いわ!!」
今川氏真「・・・と申したそうじゃ」
光泰 「それで、父上に取り成して貰おうと参ったわけですか」
今川氏真「その通りじゃ。話が早いのう」
僕も考えていたからね。
ただ、明智光秀と織田信長の仲を取り持てる人物に、コネが無いので諦めたけど。
光泰 「父上はこの後、毛利攻めに向かいますので、間に合いますかどうか」
今川氏真「そこで、そなたに頼みが有ってのう。
織田様に、菓子を献上したそうではないか」
光泰 「致しましたが、それがどうしましたか?」
今川氏真「織田様は、無類の菓子好きじゃ。わしから新しい菓子を献上すれば、
機嫌を直してくれるかも知れぬ」
オイオイ、十二才の子供に頼む事か?責任持てないよ。
今川氏真「なにか良い案は無いかのう」
この人、情けなさ過ぎるぞ。城代風情に頼む事では無い。
平次 「若様、鯛焼きが出来上がりましたが、如何致しましょう」
光泰 「丁度良い、今川様にも食べてもらうか」
今川氏真「焼魚では無く、菓子が良いのじゃが」
光泰 「持ってこさせよ」
平次君に、僕と今川氏真の為に鯛焼きを持ってこさせた。
今川氏真「これは菓子か?」
光泰 「左様で御座います」
今川氏真「鯛の菓子とは面白い。じゃが中身が小豆では
織田様は喜ばぬであろう」
小豆以外か・・・プリンでも入れるか。
光泰 「では中身をカスタードクリームにしては、如何でしょうか?」
今川氏真「それは南蛮の物か?」
光泰 「材料は、プリンとほぼ同じで御座いますので簡単に作れます」
今川氏真「プリンを入れた鯛焼きか・・ぜひ、教えて貰えぬか」
今川さん、プリン知っていたぞ。説明がはぶけた。
光泰 「残念ながら、カスタードクリームを入れるなら型を変えねばなりませぬ」
僕は今川氏真に今川焼(太鼓焼)を教えた。
今川氏真「丸形にすれば、中身が垂れにくく成る訳か」
光泰 「鯛焼きの型では、柔らかい物はむつがしく、
粘りのある餡が最適で御座います」
さて、ダメ押ししておくか。
今川氏真の家紋(引両紋)は横棒が三個有るな。
光泰 「ご覧くださいませ、断面が今川様の御家紋に見えましょう」
今川氏真「確かに、そう見えるのう」
光泰 「今川様の御家紋の菓子、名付けて今川焼きとして
上様に、ご献上しては如何でしょう」
今川氏真「それでは、そなたの手柄を横取りしたようで申し訳が立たぬのう」
光泰 「私めは鯛焼きのみを、売り出す予定で御座いますのでお気遣いなく」
今川氏真「誠に良いのか。上手くいけば、そなたはわしの命の恩人じゃ。
この御恩はけして忘れぬぞ」
光泰 「ぜひ今川様にお役に、立てて下さいませ。
徳川様にも良しなに」
残念イケメンの今川氏真は、明智光秀宛の手紙を置いて帰っていった。
妻木範熈「帰ったか?」
光泰 「見ていたら、同席したら宜しいのに」
範熈祖父さんは、遠くから様子を見ていたようだ。
妻木範熈「父親の敵討ちをせず、のうのうと生きている輩は好かぬ」
光泰 「アレには、無理で御座いましょう」
妻木範熈「往生際の悪いのは嫌いじゃ。あの様に成るで無いぞ」
光泰 「父上の敵討ちなど、考えても無駄で御座います」
妻木範熈「それもそうじゃ。光秀殿に敵は居らぬ」
アハハハハハ。明智光秀の最後は酷いけどね。
秀吉に負けて、農民?に殺されるから。
あーあ、貴重な一日が無駄に過ぎてしまった。
本能寺の変が成功してしまったら、今川氏真のせいにしよう。
僕は悪くない。今川の敵討ちに成るのだから問題ないだろう。
氏真が京に居たかどうか解りません。
明智光秀宛の手紙は別ルートで届けてあり、
光泰に渡した物は万が一届かなかった場合の予備です。
次、作戦開始です。




