67 光泰 しのぶ
五月二十二日、
僕は、本能寺の変の準備の、最終確認をしている。
妻木範熈「また、そのナントカ弓の鍛錬か?」
光泰 「クロスボウで御座います。この弓を、
どの様に戦に運用するか、探って居るので御座います」
妻木範熈「しかし、先程から外してばかりでは無いか」
クロスボウの練習だが、あまり上手い所を、誰にも見せていない。
光泰 「当て様としているのでは、有りませぬ。
連射の鍛錬で御座います」
苦し紛れの、いい訳である。
妻木範熈「そのようには見えぬが、やはり普通の弓が良いであろう。
南蛮の武具は、火縄だけしか使える物は無かろう」
光泰 「物は使いようで御座います。
役に立たぬ物も、意外な所で使えるかも知れませぬ」
妻木範熈「十次郎なら、変わった使い方が思いつくかも知れぬな」
光泰 「あまり期待しないで下さいませ」
余計なプレッシャーを掛けないで欲しい。
茂兵衛 「若様、また牢人が来ておりますが如何致しましょうか?」
範熈祖父さんの前では、怒られるのでボスと呼ばせていない。
光泰 「今回は、何人来ておる?」
茂兵衛 「一人で御座います。それと服部殿の文を携えております」
なに!忍者服部君の手紙だと!
光泰 「それを、先に言わぬか!わしの部屋に通せ。
御祖父様、客が来ましたので、ここで御暇致します」
妻木範熈「服部とは、どこの服部じゃ?」
光泰 「堺です。商いの相談をするので、聞いても面白く有りませぬよ」
服部の名字の人は、結構いる。元々は名前の通り、服作りの家系らしい。
前に爺から教えてもらったよ。
ようやく来た、服部半蔵の忍者を部屋で待った。
茂兵衛 「お連れ致しました」
光泰 「よう来られた。茂兵衛、下がっておれ」
茂兵衛 「それは成りませぬ。面識の無い者と二人っきりになられては、
もしもの時にお守り出来ませぬ」
光泰 「安心せい、それともなにか?
わしがむざむざと、暗殺されると思うて居るのか?」
茂兵衛 「しかしながら・・・」
光泰 「仕方ないのう。廊下で待機しておれ」
茂兵衛 「承知致しました」
茂兵衛は、得体の知れない浪人を、警戒しているのかな?
光泰 「そなた、名はなんと申す」
平次郎 「平次郎で御座います」
平次だと・・・浪速の高校生探偵かよ。
年齢も同じくらいか?肌も色黒だし。
光泰 「歳はいくつじゃ?」
平次郎 「十七で御座います」
完全に高校生探偵だ。二人目の探偵だよ。
次は、金田一か?工藤かな?江戸川はありえない。
光泰 「服部半蔵殿の文を、見せてくれぬか?」
平次郎 「こちらで御座います」
服部半蔵の手紙は、巻物では無かった。
内容は現代風に訳すると、
{忍びの者を紹介致します。若いですが、一通りの教育はしております。
我々との連絡にお使い下さい}
と書いてあった。
光泰 「平次郎殿、そなたを雇い入れる。
役職は、わしの近習でよいか?」
平次郎 「私は、近習になれる身分では御座いませぬが、
宜しいのでしょうか?」
あれ?忍者の近習は居ないのかな?
光泰 「武家の者では無いのか?」
平次郎 「元は、百姓で御座います」
忍者の身分は低い。
トップの服部半蔵も土豪出身で、名家では無い。
その部下なら、武士では無い者も居たりする。
光泰 「凧に乗って空を飛ばぬのか?」
平次郎 「???蛸は空を飛びませぬが?」
戦国時代の凧の呼び方は、何故か紙鳶である。
ダジャレなのかな?
光泰 「分身を出したりせぬのか?
平次郎 「致しませぬ」
光泰 「水の上は歩かぬのか?」
平次郎 「致しませぬ」
光泰 「大きな蛙を出さぬのか?」
平次郎 「致しませぬ」
光泰 「暗殺はせぬのか?」
平次郎 「致しませぬ」
光泰 「やはりそうか」
平次郎 「???」
なんだか、ドクターXみたいになってきた。
光泰 「そなた、忍びの者で有るよな?」
平次郎 「左様で御座います」
間違い無い。完全に忍びだ。
忍たま乱太郎で、よく言われる忍術は出来ないと習っている。
NARUTOみたいな忍者は、居ない事は解っていた。
光泰 「変装は出来るか?」
平次郎 「年相応の者なら、可能で御座います」
光泰 「わしに化けられるか?」
平次郎 「化けるのは無理で御座いますが、
着物を貸して頂けるなら、若様の振りは出来ますが」
茂兵衛 「それは成りませぬ」
光泰 「茂兵衛、いきなり何じゃ?
別に、影武者にしようとは思うて居らぬぞ」
茂兵衛 「では、その者に化けさせて、何をなさるおつもりですか?」
光泰 「爺の位牌に、手を合わせたくてのう」
本能寺の変が始まる前に、爺の供養をしておきたかった。
身分の高い僕が、家臣の一人である爺の家を尋ねるのは、
えこ贔屓になるので、してはいけないらしい。
茂兵衛 「それほど思って頂けるとは、爺様もあの世で喜んで居られましょう」
光泰 「駄目かのう、迷惑はかけぬぞ」
茂兵衛 「そう言われますと、断り難く御座います」
光泰 「では平次郎殿、着替えるぞ」
平次郎 「・・・(良いのかのう?)」
僕は平次郎の服を、平次郎は僕の服を着た。
茂兵衛 「では、御案内致します」
光泰 「なにを言うておる。そなたはここで留守番じゃぞ」
茂兵衛 「御一人で行かれるのですか?」
光泰 「当然であろう。わしは平次郎殿に化けたのじゃぞ。
試験で茂兵衛の家に、御使いに行くのじゃぞ。
おぬしが居らぬのは、おかしかろう」
茂兵衛 「???」
光泰 「茂兵衛には、文を書いてもらうぞ」
茂兵衛 「文で御座いますか?」
光泰 「おぬしの家に今、誰が居るのじゃ?」
茂兵衛 「妹と弟が居りますが」
光泰 「妹と弟に、この者は試験で爺様の供養に供物を届けに着た。
届けた証として、自分の名を書くよう文に書くのじゃ」
茂兵衛 「成る程、承知致しました」
どうやら理解したようだ。
平次郎 「私は、何をすれば宜しいでしょうか?」
光泰 「けして、誰にも気付かれてはならぬぞ」
平次郎 「それだけで宜しいのでしょうか?」
光泰 「それだけじゃ。茂兵衛、わしが戻るまで、
誰も通してはならぬぞ」
茂兵衛 「誰もで御座いますか?」
光泰 「気付かれては、わしが怒られる」
茂兵衛 「出来るだけ、早うお戻り下さいませ」
光泰 「解っておる!!」
僕は手紙を持って茂兵衛の家に向かった。
茂兵衛の家は、三の丸の側に有る。
茂兵衛は、城に部屋住みなので、週に一回帰っている。
現在は、両親と妹と弟の四人ぐらしらしい。
まずは、第一関門の城の門番だな。
顔は、わざと汚しておくか。
光泰 「お訪ね致したいのですが、森茂兵衛様の家は、
何方で御座いましょうか?」
門番 「森殿の家になにようか」
光泰 「若様の使いで、傅役の供養に供物をお届けに参るので御座います」
門番 「左様か、ここから西に向かい門をくぐった後、南側の塀沿いの家を
五建先じゃ。目印に、庭に西瓜なる物が植えてあるそうじゃぞ」
光泰 「ご丁寧に有難う御座います」
一の丸門番は親切に教えてくれた。
だが、僕に気付かないのはどうかと思う。
二の丸門番と三の丸門番も、同じ質問をして通してもらった。
坂本城は大丈夫か?僕の顔を覚えていないのかな?
茂兵衛の家は、すぐに解った。
西瓜畑に、大きく西瓜と書かれた看板が刺さっていた。
下に、{若様の物故、荒らしたものは天罰が下る}と書いてあった。
爺が書いたのかな?これでは、僕の評判が悪くなるじゃないか。
撤去させても、もう意味が無いか。
光泰 「御免下れ。誰か居られぬか」
森 妹「どちら様で御座いましょう」
茂兵衛の妹は、十才くらいで茂兵衛にそっくりだった。
光泰 「若様の使いで、平次郎と申します。
御亡くなりなされた御爺様に、供物を届けるよう、
言われておりまする」
森 妹「左様で御座いますか。どうぞ此方で御座います」
光泰 「後で受けっ取った証として、
この文に、名を書いて戴きとう御座います」
森妹に手紙を渡した。
森 妹「はあ、畏まりました」
森 弟「何方ですか?」
七才くらいの男の子が出てきた。
光泰 「若様の使いで御座います。
若様の代わりに御爺様の供養に参りました」
僕は、爺の位牌に手を合わして、供物のお菓子を渡した。
森 弟「菓子で御座いますか?」
森 妹「これ、失礼ですよ」
お菓子は鯛焼きである。
供物に鯛は有り得ないが、この鯛焼きは全く鯛に見えない。
明智光秀の料理人が、使用する鯛焼きの型の中で、
最も似ていない物を残したからだ。
森 弟「お魚だ!!」
光泰 「中身は饅頭で御座います」
森 妹「変わった饅頭で御座いますね」
光泰 「ご両親が、お帰りに成りましたら、お召上がり下さいませ」
手紙に受け取りのサインを書いてもらった。
森 弟「もじも書く」
森 妹「これ、駄目ですよ」
光泰 「名を書いて頂けたら良いので、弟殿も書いて下され」
ちなみに名前だが、妹がお花で弟が茂次郎だった。
光泰 「では御暇致します。御両親に宜しくお願いしまする」
お花 「こちらもお構いせず、申し訳ございませぬ」
茂次郎「申し訳ございませぬ」
さて、急いで城に戻るか。
寄り道したいが、ここは抑えよう。
光泰 「若様のお役目を、果たして参りました」
門番 「また、若様の変わった試験であろう。
そなたも、訳が分からぬであろうが、よく励むのじゃぞ」
光泰 「ご丁寧に、ありがとう御座いまする」
大丈夫か?ここの門番は。二度も僕だと気付かないぞ。
そう言えば、優秀な人は亀山城に行っていて、戦の準備をしていたっけ。
今、坂本城に残っているのは、戦に使えない若造か年寄りだけか。
光泰 「帰ってきたぞ」
茂兵衛「お帰りなさいませ」
光泰 「なにも無かったよな?」
茂兵衛「初菊様と母上が尋ねてきましたが」
光泰 「なんと申した?」
茂兵衛「誰も、通してはならぬと申されたので、
新しい手妻の練習をしているので面会は出来ませぬと
申しておきました」
新し手品か・・昨日言ったな。
期待のハードルが、上がってしまったかな?
光泰 「他の者に、手妻の話をしたか?」
茂兵衛「城の者は、ほとんど知っておると思いますが?」
範熈祖父さんは、なにも聞かなかったが知らないのかな。
そう言えば、この城に部下が居ないか。
話し相手が僕だけだもの、寂しいかもしれない。
だけど相手している暇は無い。
光泰 「平次郎殿、御苦労であった。
早速じゃが、堺に知らせが届くには
どれほど時がかかるかのう」
平次郎「二日もあれば可能でございますが」
光泰 「徳川様がこの後、堺に向かわれた時に、
知らせを届けてほしいのじゃが、
出来るだけ早く知らせられる様にしてくれぬかのう」
平次郎「畏まりました。服部様にお伝え致します」
光泰 「頼んだぞ」
これで、徳川家康に恩を売る事が出来る。
色々失敗したら助けてもらおう。保険は大事だ。
光泰 「そなたは、名字が無いのじゃな」
平次郎「御座いませぬ」
光泰 「服部殿に、服部の姓を名乗らせて良いか尋ねておいてくれ。
もし駄目なら、銭形を名乗らせるか」
平次郎「ぜにがた?で御座いますか?」
光泰 「銭儲けは嫌いか?」
平次郎「嫌いでは御座いませぬが・・・」
平次郎は、銭形の姓名は嫌のようだ。
光泰 「服部殿に許可を貰えたら、そなたは服部平次と名乗るが良い。
平次郎では、わしと紛らわしいでのう」
十次郎と平次郎、おまけに茂次郎、次郎だらけである。
茂兵衛「平次郎の役目は如何なさいますか?」
光泰 「近習は駄目か?」
茂兵衛「駄目では御座いませぬが、殿の許可が必要かと」
家来にするには構わないが、近習となると色々厄介だ。
それなりに身分と家系が必要らしい。
茂兵衛は森家の出だし、権兵衛は怪しいが一応、藤田家の出だ。
光泰 「面倒じゃのう。では御庭番とするか」
平次郎「鬼我番とは、どの様な役目で御座いましょうか?」
光泰 「警護から雑用まで、何でもじゃ。わしが命を下すまで警護じゃな」
平次郎「承知致しました」
次は、手品の準備か。よし、初菊に手伝って貰おう。
期待に応えられるか心配だが、戦国時代に無い物だから大丈夫だろう。
一方、京の都では、
服部正成「明智の次男の様子ですが・・」
徳川家康「どうかしたか?」
服部正成「やはり、忍びを勘違いしているようで御座います」
徳川家康「どの様にじゃ」
服部正成「水の上を歩けるかとか、大きな蛙を出せぬかとか、
聞かれたそうで御座います」
徳川家康「幼いのう。さぞ、がっかりしたであろう」
服部正成「それが、何故か喜んでおいでで御座います」
徳川家康「訳が解らぬ。やはり変わり者なのかのう」
服部正成「それから、忍びの真似事をして城を抜け出し、
傅役の供養をしに、参ったようで御座います」
徳川家康「ほう、家臣思いなのかのう」
服部正成「奇妙なので御座いますが、何故か我々がこの後、
堺に向かうことを知っているようで御座います」
徳川家康「織田殿に、進められたのは昨日じゃぞ。
明智が知っとるのはおかしいのう」
服部正成「もしや、明智が殿の御命を狙っておるのやもしれませぬ」
徳川家康「明智では無い。織田殿か穴山かも知れぬ」
服部正成「如何致しましょう」
徳川家康「ここで、駿府に帰ったら失礼であろう。
なにが起こるか解らぬが、警戒はしておくか」
服部正成「伊賀の者を張らせましょう」
徳川家康「そうせよ」
服部正成「(姓の事は言わなくてよいか。名乗らせて置いて問題なかろう)」
平次郎は名を、服部平次に改めた。
完全なパクリである。
平次郎は、次回より平次と表記させて頂きます。
服部正成と徳川家康の関係には、異論があると思いますが、
歳が近いので、少し馴れ馴れしく書いております。




