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57 光泰 はじまる

僕の役職は、坂本城の城代である。

城代とは、城主の代わりに城や周辺の警備の責任者、

即ちお留守番である。

城主は、明智光秀なので勝手な事は出来ない。


光泰 「暇じゃのう」

権兵衛「ボス、領地を発展させましょうぞ」

光泰 「無理じゃぞ」

権兵衛「城主でございますのに?」

茂兵衛「城代じゃ、間違えるでない」

光泰 「城主でも無理じゃぞ」


領地経営はしないぞ。

明智光秀もしてないぞ。


坂本の町は、相変わらず小さい。

それには、理由がある。

ここからすぐ西に、比叡山延暦寺が有った為である。

一昔前まで、坂本の町は門前町の様になっていた。

しかし、今から十年前に織田信長が皆殺しにした。

お陰で、坂本の町を支配していた、僧侶や商人は一掃されている。


今いる住人は、全員よそ者である。


比叡山は現在、ほったらかしで延暦寺を復興したいと嘆願書が来るが、

寺院の力を増やしたく無いので、無視している状況である。


光泰 「発展させると、僧侶共が五月蝿くなるからのう」


坂本の町は、意図的に小さくなっている。


茂兵衛「では、我々は何をすべきなのでしょうか」

光泰 「町で悪さする者の取締と、城の警備ぐらいじゃ」

権兵衛「戦はしないのですか?」

光泰 「もうすぐ父上が、兵を連れて坂本城に一泊するから、

    それまで何もする事無いぞ」

茂兵衛「初陣でございますな」

光泰 「わしは行かぬぞ。兄上もまだ初陣してないからのう」


僕や光慶は元服したが、まだ子供だ。

戦に連れて行く、歳では無い。

光慶は、行きたかっただろうが。


茂兵衛「ところで、先程から何をなさっておいでで?」

光泰 「見て解らぬか。鍛錬じゃ」


僕は、スコップ型の盾をバーベルの代わりにして

筋力トレーニングをしている。


権兵衛「その盾は、棍棒としてお使いになられるのですな」

光泰 「でかいから振り回せば、迫力あるじゃろう」

茂兵衛「先程から持ち上げてばかりですが、

    素振りはしないのですか?」

光泰 「素振りでは、腕を痛めるぞ。足腰も鍛えねばならぬのでな」


ウエイトリフティングを、休憩を取りながら五分ごとに行った。


初菊 「叔父上を、お連れ致しました」

武市 「武市半兵衛太郎で御座います」

光泰 「そなたが叔父上か」


顔、見たことあるよ。斎藤利三の伝令で来ていた人だ。

現在は、坂本城内の警備を担当している。


武市 「若様に、詫びねばならぬ事がございます」

光泰 「悪い話か?(ドキドキ)」

武市 「前に姫様の歳を聞かれた時に、

    間違ってお伝えしてしまいました。申し訳ございませぬ」

光泰 「気にするな、大した事ではない。

    知っておる者は、少ないからのう」

初菊 「十次郎様は、お優しい方ですので大丈夫だったでしょう」

光泰 「そうじゃ、初菊を大事にするからのう、安心致せ」

武市 「勿体無きお言葉でございます」

光泰 「それより、初菊の小さかった時の話を聴きたいのじゃ」

初菊 「駄目です」

武市 「あれは、五歳の時でした~(以下略)」

初菊 「叔父上、その話はしてはなりませぬ」

光泰 「聞きたいのう」


僕は、初菊の手を抑え、武市に話を続けさせた。


武市 「あの頃は、じゃじゃ馬で~(以下略)」


初菊の可愛らしいエピソードを聴きながら、

楽しく時を過ごした。


初菊 「恥ずかしゅうございます」

光泰 「初菊の事は、なんでも知りたいからのう」



・・・あれぇ僕、まったく仕事してないな。

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