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48 十次郎 告白される

初菊が、僕の部屋に深刻な顔をしてやってきた。


初菊 「実は、お話がございまして、

    お時間はよろしいですか?」

十次郎「どうしたのじゃ」


まさか婚約破棄では無いよな。


初菊 「私の生い立ちの事です」


ほっ、良かった。


初菊 「武市半兵衛太郎は父ではなく、本当は叔父でして

    赤子の頃に、養女になったそうです」

十次郎「では、実の親はどうしたのじゃ」

初菊 「母親は、私を産んですぐに流行り病で亡くなりました」

十次郎「そうか、辛い事を聞いてしまったのう」

初菊 「問題は、実の父でございまして」

十次郎「もしかして、まだ生きているのか?」

初菊 「それが、解らないのです」

十次郎「解らない?」

初菊 「母は、正室には秘密の側室、だったそうなのですが」

十次郎「秘密の側室?」

初菊 「母が亡くなる前に申していたのは、正室が嫉妬深く

    男子おのこだと、確実に殺されてしまうだろうと言われたそうで」

十次郎「それは恐ろしいのう」

初菊 「ですので、最後まで父親の名を、明かさなかったそうです」

十次郎「半兵衛太郎には、心当たりは無いのか?」

初菊 「叔父はその頃、各地を放浪していたらしく、解らないそうです」


初菊の養父、武市半兵衛太郎は、元は三好家の陪臣から始まり

次に足利家の陪臣、現在は明智家の陪臣で斎藤利三の家臣である。

出世をしない、野心もない、存在感もない人物らしい。


十次郎「なぜ、初菊の母上は、側室になったのじゃ?」

初菊 「その頃、武市家は生活が苦しく

    京の都で、下働きの奉公に出ていたそうです」

十次郎「では、十七年前に京にいた者が父親かもしれぬか」

初菊 「おそらく」


まさか、明智光秀では無いよな。


十次郎「わしの父上は、違うよな?」

初菊 「ちっ違います。明智家の者では無いそうです」

十次郎「そうなのか?」

初菊 「斎藤様が、調べたそうです」

十次郎「内蔵助くらのすけ殿(斎藤利三)が調べたのなら問題ない」

初菊 「でも、どこの誰かもわからぬ者の娘では、問題ありませぬか?」

十次郎「気にする事は無い。わしは次男坊じゃ、

    跡取りでは無いから、誰も気にはせぬ」

初菊 「本当にそうでしょうか」

十次郎「心配なら、大義名分を作れば良い」

初菊 「大義名分?」

十次郎「いますぐ子を作れば、誰も反対せぬ」


あえて言っておくが、僕は、セクハラ親父では無い。

ただ、初菊とイチャイチャしたいだけだ。


初菊 「・・・・・」

十次郎「どうじゃ、今夜あたりでも」

初菊 「しっ知りません!!!」


初菊は、部屋を出ていった。

怒らせちゃったかな、後で謝っておこう。

花でも持っていくか?・・・そうだ、アレにしよう。


僕は、台所に向かった。


料理頭「若様、また牛乳を飲むのですか?」

十次郎「飲むのではない、菓子に使うのじゃ」


牛乳は、毎日湯呑み二杯分、飲んでいる。

お陰で、背が伸びた。


料理頭「菓子で御座いますか?」

十次郎「小麦粉と砂糖と卵を、用意せよ」

料理頭「はい、直ちに用意いたします」

十次郎「まずは、わしがやるから見ておれ」


卵を黄身と白身に分け、卵白と砂糖を混ぜて泡立って、メレンゲにする。

次に、卵黄と小麦粉と牛乳を良く混ぜ合わせ最後にメレンゲを入れる。

熱した鉄板に、混ぜ合わせた物を流し込む。

両面が焼けたら、皿に盛る。

最後に、バターは無いからどうしよう。

砂糖が少なかったから甘いものがいい。


十次郎「なにか甘いものはないか」

料理頭「小豆がございますが」

十次郎「小豆の餡か・・まあ大丈夫だな」

料理頭「あと、水飴などいかがでしょう」

十次郎「それも良いな」


合計、四枚焼いて、二皿分作った。

ハート型と星型の、焼き物の皿に盛り付けた。


料理頭「変わった形のお皿で、ございますな」

十次郎「菓子用の皿じゃ」

料理頭「こちらは、ご家紋(桔梗紋)の形、ですか?」

十次郎「南蛮では、星型と言ってのう・・・話は後じゃ」


覚める前に、早く初菊と食べよう。


十次郎「初菊、先程はすまぬ」

初菊 「・・・・(プイ)」


頬を膨らませている。なんだか可愛い。


十次郎「新しい菓子を作って見たのじゃが、食べてみぬか」

初菊 「・・・何ですかそれは」

十次郎「ホットケーキじゃ」

初菊 「ほとけ木?」

十次郎「パンケーキの方が、正しかったのう」

初菊 「二種類あるのですね」

十次郎「そうじゃ中に小豆の餡と水飴が入っておるぞ」

初菊 「どちらを食べればよろしいのですか?」

十次郎「半分こにして、食べよう」


まず、半分に切り分け、

小豆餡の入った、パンケーキを食べてみた。


十次郎「味はどうじゃ」

初菊 「美味しいです」

十次郎「それは良かった」


僕も食べてみた。味はどら焼きに近かった。

まあまあの出来だった。


十次郎「こちらは水飴が入っておるぞ」


水飴は垂れるので、こちらは一枚ずつに皿に分けた。


十次郎「これはどうじゃ」

初菊 「美味しいです」


水飴のパンケーキだが、微妙だった。


初菊 「このお皿は、桃ですか?」

十次郎「ハート型じゃ」

初菊 「鳩には、見えませぬが?」

十次郎「鳩ではない。南蛮では、好きな気持ちを、表す形じゃそうじゃ」

初菊 「南蛮のお皿は、変わっておりますね」

十次郎「南蛮には無いぞ。初菊の為に、作らせたのじゃ」

初菊 「私の為など、勿体もったいのう御座います」

十次郎「気にするな、もうすぐ売り始めるから、わしに銭が入る」

初菊 「商売にも手を、出しておられるのですね」

十次郎「いざという時に、銭は必要じゃからのう」


初菊 「十次郎様は、なんでも出来てしまうのですね」

十次郎「初菊と一緒なら、もっと良いものが出来るぞ」

初菊 「また、赤子あかごですか?」

十次郎「ちがうちがう、菓子の事じゃ」

初菊 「本当ですか?」

十次郎「教えるから、一緒に作ってみぬか」

初菊 「菓子作りだけですからね」


できれば他にも、一緒に作ってみたいが、ここは我慢しよう。


十次郎「約束じゃ」


初菊は機嫌を直してくれたようだ。

もうすぐ春だな。(注:まだ秋です)

武市半兵衛太郎は初菊の母の弟です。

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