41 十次郎 裁判にかけられる
今日は、焼き物屋店主から、近況報告を聞く日だ。
十次郎「あの噂は、流れているか?」
店主 「それが他の噂ばかり、流れているようで」
新しいスイーツの、噂を流そうとしたが、上手くいかない。
店主 「町の者は面白がって、悪い事ばかり話すようで」
十次郎「流石に、嘘だと解るだろう」
店主 「悪い事をした子供には、”明智家に連れていくぞ”と言うそうです」
十次郎「来ていないけどな」
まだ、聞いていない、巷で流れている光慶の噂は、
父親を脅して、城主になった。(脅してない、注:光慶は城代)
父親の手を、雷で焼きちぎって食った。(鬼か!)
父親の馬を、毒に漬け丸呑みにした。(悪魔か!)
父親の髪の毛を、毟り取り筆にした。(やってやろうか)
母の胎内に18ヶ月いた。(それ、武蔵坊弁慶)
母の腹を、割って生まれた(弟いるよ)
牛の乳を飲むと、鬼に変身する。(できるか!)
毒を飲むと、火を吐く。(辛いからか?)
髑髏で蹴鞠する。(足痛めるよ)
空を飛ぶ。(飛行機には乗ったことあります)
嫌がる家臣達に、毒を飲ませて殺し、それを見て笑った。(死んでないよ)
多くの女子を、孕ませまくっている。(初菊とはしたい!)
次男を、口では言えない無残な方法で殺した。(次男は僕だよ)
三男には優しい。(良い噂はこれだけ)
店主 「などでございます」
十次郎「酷い者もいるものだな」
光慶 「酷いのは、おぬしじゃ」
十次郎「兄上、盗み聴きとは、よろしくありませぬぞ」
光慶 「おぬしが、悪巧みをせぬよう、監視しているのじゃ」
十次郎「悪巧みなど、しておりませぬ」
光慶 「その者(店主)が来た後には、変な物が出来ているであろう」
十次郎「玩具ですよ」
光慶 「玩具なら、なぜ亀山で作らぬ、坂本ばかりで作るのじゃ」
十次郎「坂本の方が、運びやすいからです」
店主 「私はこのへんでお暇を・・・」
焼き物屋店主は、逃げようとした。
光慶 「待て、帰るでない」
しかし、逃げられなかった。
光慶 「おぬし達のおかげで、わしの評判が悪すぎじゃ」
十次郎「悪名も功名でございます」
光慶 「上手いこと言ったつもりか?」
十次郎「人の噂も七十五日でございます」
光慶 「百日の間違いじゃぞ」
え!戦国時代はそうなんだ。
十次郎「兄上は、よくご存じでございます」
光慶 「百日では、収まっていないがな」
それは、僕のせいではない。
光慶 「その箱はなんじゃ」
店主 「新しい焼き物で御座います」
光慶 「焼き物まで、手を出しているのか?」
十次郎「たいして、役に立っておりませぬ」
焼き物は専門外だ。解るわけが無い。
光慶 「これは、白磁か?」
店主 「骨を混ぜて焼いた物で、御座います」
光慶 「気味の悪い物を作るな!」
店主 「やはりそうですか」
骨を混ぜた焼き物は、灰色で不気味だった。
白い焼き物を作りたいのだが、上手くいかない。
軽い気持ちで骨でも混ぜればと言ったが、
本当に作ってくるとは、思わなかった。
光慶 「なんじゃこの形は!」
ハート型と星型の焼き物の、試作品である。
こちらは注文した物だ。
十次郎「初菊と菓子を食べる為の、皿でございます」
光慶 「訳が分からぬ物を作るな!」
十次郎「可愛いでは有りませぬか」
光慶 「どこがじゃ!」
駄目だ、話を変えよう。
十次郎「兄上、お仕事はよろしいので?」
光慶 「すぐに終わらせたぞ」
光慶は城代として、坂本城の領内でおきる揉め事の、
裁判を任されている。
十次郎「これ程、早う終わらせるとは、流石でございます」
光慶 「皆が、わしを怖がって、不服を申さぬからだぞ」
十次郎「悪名が、役にたちましたではないですか」
光慶 「それはそうじゃが・・いや、駄目じゃ」
十次郎「駄目ではございませぬ。
いっその事、利用すべきです」
光慶 「どう利用するのじゃ」
十次郎「”明智の悪鬼、ここに有り”と、触れ回れば、
敵は恐れ逃げ出し、戦で活躍いたしましょう」
光慶 「・・・それもそうじゃな」
十次郎「初陣が、楽しみでございます」
戦の話をすれば、言いくめられる。
実に、単純な子供である。
店主 「(こうも容易く、兄を言いくるめるとは、
武家にしておくには、惜しい人じゃ)」
十次郎「どうかしたか?」
店主 「十次郎様は、商人であれば長者(金持ち)に、成れたでしょうに」
十次郎「それも良いかもしれぬ(明智家が無くなったら、そうするか)」
光慶 「武芸は、上達せぬからのう」
十次郎「兄上には、敵いませぬ(余計な事を言うな!)」
ちなみに僕の噂は、全然流れていなかった。




