34 十次郎 はずかしがる
海外貿易をする、商人がやってきた。
商人 「ご注文の品を、お届けに参りました」
十次郎「待ちわびたぞ」
前々から欲しかった武器”クロスボウ”が届いた。
商人 「いかがで御座いましょうか?」
十次郎「どっしりしておるのう」
商人 「誰も欲しがらなかった物なのですが、よろしかったのでしょうか」
十次郎「扱いやすいのが、この武器の利点じゃ」
爺 「これが、クロスボウで御座いますか」
十次郎「直訳すると”十字弓”じゃ」
爺 「ほほう、若様と同じ名前ですな」
十次郎「字が違うぞ」
結構、恥ずかしい事に気が付いた。
商人 「これから売れますでしょうか?」
十次郎「売れぬ」
商人 「やはりそうですか」
爺 「こちらは何ですかな?」
十次郎「雷を作る道具じゃ」
爺 「ほほう、これがですか」
十次郎「まずは、試してみないと解らぬぞ」
材料は、銅線のコイルと磁石、回転させる為の木製の取っ手、
支える木箱のみ。
組み立ててみたが、こんなシンプルな装置で電気なんて作れるのか?
少し不安になってきた。
取っ手をグルグル回し、磁石が回っている。
爺 「爺には、なにがなんだか解りませぬが、雷が作れたのですかな?」
十次郎「どうやら、部品が足らなかったようじゃ」
商人 「何が足らなかったのでしょうか?」
電気が、目に見える装置が無いことに気づいた。
電球の作り方なんて知らない。
十次郎「別の方法を考えるか」
静電気で誤魔化すか。
ライターの仕組みを利用すればなんとかなるだろう。
下敷きとか、セーターなんて無いしな。
商人 「完成出来ましたなら、ぜひ当店でも売出しとうございます。
十次郎「それは出来ぬぞ、軍事機密になるじゃろうしな(嘘です)」
商人 「それほど重要な物なのですか?」
十次郎「頭の良い者が観れば、解るじゃろう。
なにせ、天神様の力で有るからな」
商人 「それは残念でございます」
爺 「十字弓を、試してみないのですかな?」
十次郎「正式な名称は、クロスボウじゃぞ」
クロスボウを構え、標的を撃ってみた。
爺 「もう少し、遠くから撃たないと、戦場では役に立ちませぬぞ」
十次郎「これは戦には使わぬ」
爺 「では、何にお使いになるので」
十次郎「まず、わしのような子供が、戦場で槍を持っても大人には勝てぬ。
しかし、弓ならばそうとは限らぬ。
それに、わしが前線で戦う事はもうありえぬ」
爺 「それは残念でございます」
残念ではないだろうが。
十次郎「もうすぐ戦の無い時代が来る。
そうなった場合、敵は暗殺という手段を使って、
明智家の力を削いでいくであろう」
爺 「では、戦に使わずに、暗殺にお使いになさるので?」
十次郎「する訳なかろう。暗殺しに来た者を撃つためじゃ」
どこまで遠くの標的に当たるか、試してみた。
十五郎「なんじゃその弓は?変わったものじゃのう」
十次郎「また、抜け出して来たのですか?」
最近、十五郎は戦に関係無い勉強を、抜け出すようになっていた。
十次郎「五郎兵衛(隠岐惟恒)が嘆いていましたよ(十五郎の傅役です)」
十五郎「わしは武士じゃ。勘定の勉強なぞいらぬ」
隠岐惟恒は老臣である。
明智光秀の叔母の夫で、明智家最高齢の親族になる。
僕には、あまり関わりないので興味もない。
歴史に出てこない人だろうから、重要人物ではないだろう。
(年寄り過ぎて面倒くさいからです)
十五郎「それは、弩ではないのか」
十次郎「同じような物でございます。唐人(中国人)は、そのように呼びまする」
十五郎「わしにも撃たせよ」
十次郎「あまり遠くには飛びませぬので、ここからお撃ちください」
十五郎は、標的に一発で当てて見せた。
十次郎「流石でございます」
十五郎「簡単過ぎるぞ」
十次郎「そういう弓でございます」
十五郎「日の本での、呼び方は無いのか?」
爺 「十字弓でございます」
十五郎「自分の名前を付けてどうする」
十次郎「正式にはクロスボウです。
南蛮では十字をクロス、弓をボウと呼ぶのです」
商人 「若様(十五郎)も、お一ついかがでしょうか?」
十五郎「わしはいらぬ」
十次郎「ほら、売れぬであろう」
商人は残念そうに帰っていった。
鍛冶屋に、静電気発生装置の部品を頼むか。
隠岐惟恒は十五郎の教育係ですが高齢で
剣術などは他の者が務めている設定です。




