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31 十次郎 失敗する

久し振りに、坂本の焼き物屋店主から、報告を受けた。


十次郎「京の都での、評判はどうじゃ」

店主 「髪飾りの売上が、芳しく無く」

十次郎「姉上には好評であったが、身内贔屓だったのかのう」

店主 「制作費用が掛かりますので、買える者は少ないかと」

十次郎「しかたない、手を引くか」


髪飾りを京の都で売り、遊女から公家達の情報を得る作戦は、失敗に終わった。

明智光秀が謀反を起こした理由に、黒幕がいたと言う説がある。

黒幕説の事も考えないと、本能寺の変は阻止できない。

知っているのは、朝廷説、徳川家康説、豊臣秀吉説ぐらいだが。


店主 「髪飾りは、もう少し世の中が安定した頃に、再開致しましょう」

十次郎「朝廷の情報は、別の手を使うか」

店主 「最近、ヨーヨー独楽の粗悪品が、出回り始めたようです」

十次郎「やはり出てきたか」

店主 「真似をされるのは良いのですが、粗悪品となるとこちらにも影響が」

十次郎「噂を流しておくか」

店主 「坂本産のヨーヨーは、上様(信長)も褒めたと流しましょう」

十次郎「それでよかろう」

店主 「ついでに、例の噂も流しましょうか」

十次郎「まだ、早かったが仕方ない。公家共が、食いつけば良いのだが」

店主 「信長様が、先に食いつきそうですな」

十次郎「まだ、納得する出来では無いのだがな」


店主 「若様が、早く坂本へお戻りになられるように、致しませぬと」

十次郎「わしも坂本の方がやりやすいからのう」


僕と店主の、考えている事は違う。

僕は、坂本城の方が、本能寺に近く、明智光秀を出し抜きやすいと考えている。

店主は僕を、明智家のパイプ役と考えている。

しかしながら、二人の思いは奇妙に利害が一致しているので問題ない。


倫子 「あら、また初菊への贈り物の相談ですか」

十次郎「ええ、店主には色々協力してもらっております」


僕は店主へ、帰るようにこっそり合図をした。


店主 「では私はこのへんで」


店主は、そそくさと帰っていった。


倫子 「髪飾りは、いけませんよ」


以前、初菊のプレゼントに、ファンシーな猫の顔の髪飾りをあげた。

その際、髪型をツインテールにしたが、後で倫子姉さんに怒られた。


倫子 「女性の髪を許可なく、無断で触るのは~(以下略)」

十次郎「その話は前に聞きましたが」


倫子 「それにして弥平次様は忙しすぎ~(以下略)」

十次郎「(暇なのかな)」


倫子 「新しい鎧兜の事を私に丸投げして~(以下略)」

十次郎「(これ何か使えるか?)」


倫子 「聞いていますか?」

十次郎「弥平次殿の新しい兜の話ですよね?」

倫子 「そうです」


なにか、絶対有り得ない面白いデザインを提案して、話を終わらせるか。


十次郎「兎の耳を、付けてみてはいかがでしょう」

倫子 「十次郎は兎がお好きですね。初菊への髪飾りにも~」

十次郎「あれは猫です(けっこう頑張って作ったのに)」

倫子 「しかし、面白いかもしれませんね」

十次郎「え!(まずい)」

倫子 「兎には、子孫繁栄の意味もあるし」

十次郎「いえ、これは冗談で(初菊に勘違いさせたかな)」

倫子 「そうと決まれば、早速作らせましょう」

十次郎「・・・・(弥平次すまない)」


その後、明智秀満の新しい鎧兜には、

兎の耳が付いた可愛いらしいデザインが採用された。

一枚鉄地椎実形兎耳前立兜の事です。

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