黒色は存在しない
私と彼が出会ったのは高校の部活動のときだった。私は文芸部、彼は美術部に所属していた。とはいっても元々同じ部活から派生した形で文芸部ができたので、部室の7割程度は美術部が占めていた。しかし特に苦労するわけでもなく、お互い変な話で盛り上がったことも多々あるので別に邪魔だとは思わなかった。むしろ数少ない理解者たちの集まりだと当時の私は思った。
彼とはよく昼食を共にする。話題が合わないこともあるが大抵の話題は意気投合し、メガネ越しにあるい目はいつもキラキラ輝いていた。
そんな彼があの日話したことを今でも私は忘れない。
「ねぇ、髪の毛って何色?」
「え?」
急な質問に私は疑問符を浮かぶことしかできなかった。
「髪の毛の色?」
「そうそう」
「やっぱり黒とか茶色とか金とか白とか……」
私なりに応答すると、彼は小さくため息を吐いた。
「黒色なんて存在しないよ」
私には理解できなかった。学校でもよく黒髪の女子がわらわらいるというのに。
「ある数学の時間にさぁ……」
彼は私が理解したか否かはお構いなしに話し始めた。
「窓の外をぼーっと眺めてたんだ。そしたら一羽の烏が木に止まってさぁ。陽の光に当たったらとてもきれいな濃い紫色だったんだ。僕は烏をずっと見たかったけど授業中だし、そろそろ意識を戻そうと前を向いたんだ。そしたら前に座っている女子の髪もさっきの烏と同じ色をしてたんだ。その時間、もう興奮が止まらなかったよ!!」
まるで遊園地のアトラクションを満喫した子どもみたいに満面の笑みを浮かべていた。
「つまり、黒髪はとても濃い紫色だってこと?」
「そう。自然に黒は存在しない。光なんて黒そのものがないじゃないか。黒はニンゲンが生み出した色なんだよ」
「なんか深いなぁ……」
納得したのやら、ただただ圧倒さてたのやら……そう思いながら梅干しのせいで赤紫に染まった固い白飯を口に頬張った。




