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理由

―――五人目です。

―――残るは、二人。

―――誰が意思を継ぐのかですね。

―――それまでは彼女の選択を見守りましょう。道を外れることがあれば・・・その時は・・・




目の前に広がる広大な世界。

燃え盛る太陽のように揺らめく大きな影。

左手には蒼。右手には深紅。

朱里(あかり)は二つの光源を遠く離れた宇宙から眺めていた。

そう、まるで宇宙。

黒い闇の中に、その存在感を示す大きなそれ。

紅と蒼が暗闇の中で妖艶な紫を作り出す。


ここは・・・どこ・・・

何があったのかまるで思い出せない。

そこにあるのは、ちっぽけな朱里の体だけ。

朱里の目に映っているのは背反する二色の太陽。

色々な感情が湧き出る。

私は・・・私は・・・

何が朱里の心を揺さぶっているのか。朱里にすらそれはわからない。

紅の太陽を朱里は知っている。とても安心する。

きっとあの中に入れば、安らぎを得られる。そんな気がする。

朱里の体が吸い寄せられるように紅の球に移動する。

ああ・・・あそこに行くんだ・・・

無意識に、体が動く。

赤い太陽に、穴が開いている。

朱里の体はその穴に入っていった。

蒼い太陽から、朱里を求める声がした。


ビクンっと朱里の体が跳ねる。

「いっててててて!」

体の節々が痛い。指先から肩まで包帯が巻かれている。

どうやら病院のようだ。点滴袋が、仕切り用のカーテンレールからつりさげられている。

ベッド脇の椅子で母親が俯せている。どうやら眠っているようだ。

記憶はないが、母親が付きっ切りでいてくれたことは容易に想像できた。

窓の外ではセミが騒々しく鳴いている。上を見上げると雲一つない蒼天が広がっている。

朱里は少し苦労しながら上半身を起こし、母親の体を揺する。

「お母さん、お母さん。起きてよ~朝だよ~」

朱里は年不相応の声で母親を起こす。

「ん・・・あ、朱里!良かった!気が付いたのね!」

母親が愛娘に抱き着く。

「いたたたた!痛いよおかあさーん!」

「あ、やだごめんね!・・・それにしても本当に良かった。朱里が事故に巻き込まれたって聞いて心配で心配で・・・でも軽い怪我で本当に良かった。運転手と、近くにいた人が二人今集中治療室にいるのよ。爆発に巻き込まれて凄い怪我らしいわ。」

「え・・・」

運転手はまだわかる。近くにいた二人はきっと私を追いかけていたあの男達だろう。

私の後ろにいた二人が死にかけている?それなのに私は軽い怪我?運がよかったのだろうか。

私が避けることはできなかったはずだ。迫り来る車を眺めていたはずだ。男たちが意識を取り戻したら話を聞こう。

「朱里?どうしたの?大丈夫?」

母親の心配そうな声に朱里は考え事を中断させられた。

「あ、ううん。何でもない。ちょっと事故の事思い出してただけだよ。」

「・・・そう。あまり無理しちゃだめよ。数日間は体動かすのも厳しいらしいから。」

確かに、軽症である感じはするが、体を動かそうとするととても痛い。

「あ、そうだ。後で警察の方がお見えになるらしいから、それまで寝ておいた方がいいわよ。」

警察・・・事故の聴取だろう。私は警察が嫌いだ。嫌いになった。

「うん・・・おやすみ、お母さん。」

私がそう言ってソロソロと体を横にすると、母親が布団を被せてくれた。

ぬくもりの中、朱里は眠りに落ちていった。


「やぁーっと着いた!」

俺がハァハァと息を切らす横で、イクチが目的地への到着を歓喜する声を上げた。

やっと、は確かに正しい表現だ。やっとだ。長かった。

家を出てから一時間半ほど歩いただろうか。平坦な道ならいざ知らず、山の碌に整備されていない道を歩くのは異常に疲れる。

「ったく・・・何でこんな所に住んでんだよそいつはよ・・・・」

頬に垂れる汗を拭いながら俺は溜息をついた。

「何でも人が多いと勝手な意思受信で頭痛くなっちゃうらしいよー」

イラカが悪戯っぽく笑う。

「態度だけデカイ癖になっさけねえよなああのジジイ。」

イクチが嘲笑しながら言う。

ジジイ・・・?ジジイなのか。

もしかしてあの大総統とか某師匠の様にとてつもない戦闘力を誇っていたりするのか!?そんな奴が俺に殺意を持っているのか!?か、帰りたい・・・

「おい、これだぞ。」

人の足が作った道の少し先、鬱蒼とした木々の中に、窓が一つあるだけの小さな小屋を指してイクチが言った。

小屋の横には誰が引いたか、これまた小さな井戸もあった。

ここに表世界との連絡が取れる爺さんがいる・・・

俺はいつの間にか少し身構えていた。

ん、んん。と、イクチが一つ息を置いて、小屋の扉にノックしようとする。

その手が扉に触れるより前に中から声が聞こえた。

「開いておる。入れ。」

ジジイ言われるに値する、嗄れた声。

低く、だが通るその声は声だけでも貫禄を感じる。

イクチがドアノブを握り、右に回す。

「よーぉジジイ。言わなくてもわかってるとは思うが、協力を仰ぎに来たぜぇ!」

男の声とは反対の、軽くふざけた声が小屋の中に響く。

その男は扉の正面、座布団の上に鎮座し、囲炉裏越しにこちらを見ていた。

横ではイラカがにんまりと嬉しそうな顔をしている。

ああ、まただ。

この世界に巻き込まれてから、もう何度目の感覚だろうか。

俺はこの男を知っている。

はるか昔の記憶が再び、蘇る。

「あ、朱里の・・・」

俺にはその男の目が、重なった皺の下で光った様に見えた。


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