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あ、ひぁい、そうぇす。

それは、とある夏の出来事。


物語が始まりはなんてことのない、よくある話だった。



その日俺は目覚めた。とても長いようで短い眠りから。



一″46年7月23日一


ひぐらしがカナカナと鳴き始め、日は傾き、空は赤く染まり、次第に暗い闇に包まれていく。

ぼんやりともう夕暮れどきかと俺は思う。そういえば、まだ昼飯食べてないな。

明かりを点けるのも面倒だった。今は目の前の作業にただひたすら集中する。


漫画家に憧れて早数年。俺こと「神崎 一夜」は中学最後の夏休みが始まったその日から、前々から考えていた物語を漫画にするため何時間も机にノートを広げ、漫画の下描き(いわゆるネーム)を描いている。つもりである。

なんせまだまだ素人だ。コマ割りとか、見せ方とか、ペン入れの仕方とか、そーゆーのまだ全然分からない。知らない。調べたがよくわからなかった。

とりあえずやって分からないとこがあれば調べるという方針で行こうと思い、まずはネームということで、それをしている。

だが、やってみればこれが難しいのだ。

人は描かなくても構造が分かれば良いとは言え、表現や、吹き出しの位置、コマ割りなんかがどうも上手くいかない。何かが違う。でもそれが分からない。わからないからググれない。


ぐぅ


……親父ギャグか!

いくら読者にしかわからいからと言ってもこれは恥ずかしいぞ!ふざけんな作者!厨二病!


仕方ないのでタンスから手頃なズボンとシャツを取り出す。上下黒か…まぁいいか

そしてら鞄から財布を取り出し中身を確認する。324円だった。しけてやがる


「どっかいくの?」

「ん、腹減ったからコンビニに」

「じゃあついでに」

玄関へと向かい靴を履いて外へ出る。夕暮れとはいえ7月だ。まだまだ暑い。明日からはもっと暑くなるだろう。いや、本当に暑い。イライラしてくる。

近所のコンビニに軽食を買いに行くだけでも目眩がしそうなくらい暑い。

横断歩道に差しかかる。そこでふと違和感に気づく。

信号は赤じゃない。だが、青でもない。

点滅していなかった。

赤でないと言うだけで気にしなかった。意識しなかった。

だから、車が迫ってくるまで気が付かなかった。


酷くゆっくり時が流れているように感じる。遠目で何人かの人が驚いたような顔でこちらを見てる。車の運転手も青ざめた顔でハンドルを切ろうとしている。俺が引かれるせいでこの先の人生苦労をしてしまうだろう。見れば車には初心者マークが貼ってあった。まだ若いのに…

俺死ぬのかな、今の状態ならなんとか躱せたり…しないな。体が動く気がせん。

うわぁ、痛そ……もう当たるし。

っていうか、手が使えなくなったら俺の夢パーじゃん。ネーム終わってないのに……


あ…当た……


骨盤が砕ける音がする。そのまま勢い任せに上半身が車のボンネットに叩きつけられバウンドして、空中に投げ出される。なんの抵抗もなく身体は固いアスファルトに引き寄せられて、ぶつかる。意識はあるようでほぼない。何かが聞こえる。何かが見える。それくらいしか認知出来ない。痛みさえも空中に投げ出される頃には忘れていた。

でも、多分右手は無事だと思いたい。後ろの方にちょっとだけ伸ばしてみたりしたからな、右手だけでも生き残れれば漫画はきっと描けるよな…


身体が浮く感覚。そして何かに乗せられる感覚。それらをぼんやりと感じながら俺は救急車が来たことをほとんど機能していない頭で察する。

やがて場所は移り、眩しいライトを当てられ、何人もの人間に囲まれていた。

次第に意識は離れていく。すごく眠たい。


◇◆◇◆


気がつけば俺は病院のベットにいた。どこ見ても真っ白で、他にもベッドはあるが今は俺以外に利用者はいない。部屋の奥に時計があってカチカチと音を立てて秒針が動いていて、それ以外何も聞こえない。時折遠くから救急車のサイレンが聞こえるくらいか。


扉の外から何人かの足音が聞こえてくる。足音は俺がいる病室の前で止まる。うちの家族かとも思ったがどうやら違うようだった。

扉を開けて入ってきたのは、スーツをピシッと着こなし、まるで政府の役人のようなエリートな空気を纏う眼鏡の女性。

とても整った顔立ち、魅力的な佇まい、そしてバストサイズ。肩幅は狭く、腰もキュってしているのに胸がデカいのがわかる。漫画やアニメでしか見れない類いだと思ってた超美人。あれか、ここが天国か


「神崎一夜くん、だね?」


おっと美人が話しかけてきたぞ。気合を入れて返さねば


「あ、ひぁい、そうぇす」


………まともに会話が出来なかった。


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