ープロローグー
ーむかしむかし、
「おかーさん!おかーさん!」
ーとある海沿いの丘の上にぽつんと建っている小さな家があった。
そこには漁師とその妻と娘の3人が暮らしていた。
3人は仲睦まじく静かに、幸せな日々をすごいていた。
「ん?どーし…どーしたのそれ」
「暗いところまでもぐったら見つけた」
「……さすが私の娘、」
ー娘は海を潜り、海の生き物を採ってきては毎日母に見せにくる。
中には己の身長程もあるイカを担いで見せたこともあるのだという。
「″イカ″さんが可哀想でしょ、海へ返してきなさい」
「えー、イカ焼きにして食べたいー」
「…そのイカ食べれないわよ」
「えっ、うそ」
「ほんと」
「せっかくでっかいイカ取ってきたのにー」
「戻してきてあげなさい」
「…はぁーい」
ーそんなやり取りが行われる幸せな日常は、そういつまでも続くものではなかった。
「殺せ!化け物は皆殺しにしろ!!」
「お母さん!助けがぁっ!」
「この化け物が!!」
ー家に火を放ち、武装した人々が丘の上の家族に石をなげ、刀を突きつけ、縄で娘を縛り上げる。
「やめて!!その子を返して!!」
「この化け物め!!」
「があっ…」
「頼む…っ、みんな話を…」
ー漁師と妻は叫んだ、何度も叫んだ。
だが、彼らの言葉を聞く者はおらず、人々は漁師の妻を化け物と呼び、刀を振り下ろし、痛めつけ、また縄で縛る。
「黙れこの裏切り者!!化け物の手先が喋るな!!今ここで首を落とすぞ!!」
「……っすまない……私に力があれば…一家の主として、妻を…っ娘を…っ誰一人守れない……っ!」
ー愚かな人間の悪意により、その幸せは奪われ、代わりに恐怖と絶望が与えられた。
「ごめんね、…元気で…」
「お父さんとお母さんがいなくても、お母さんの言いつけは護るんだぞ」
「嫌だっ、お母さんとお父さんも一緒じゃなきゃ…っ、お母さん!!お父さん!!こんなの…嫌だ!お願い………」
「「愛してる」」
ー地球上、最初で原初の「異能力者」であった漁師の妻は、己の娘を遠い平和な世界、未来へと飛ばした。
「……お母さん…っお父さん…っなんで…っずっと一緒って、言ったじゃん……」
ー漁師とその妻は人々に討たれた。
″古の化け物″と呼ばれる漁師の妻の血肉を人々は食らったという。
ーかの娘がやってくる年、古の化け物を食らった者達の遺伝子を受け継いだ人々の中に眠る、彼女の遺伝子は再び力を取り戻し、異能の力が目覚める。
◆◇◆
「なんだかよくわからん伝説だな、
つか、これがホントに伝説なのかよ
…っともうこんな時間か」
部屋の中で一人、PCをいじる彼は、様々な神話や伝説をまとめたサイトを開いていた。
今ハマっているアニメの元が神話だと聞いたので、なんとなく気になったから開いたページだったのだが、ふと目に留まった全くアニメとは関係のない「古の化け物伝説」という地方の伝説を読み、そんな感想を呟いた。
おかげで目的を達成する前に夕飯の時間になってしまった。
大して面白くもなかった伝説を読んだことで無駄に時間を消費してしまったことを腹立たしく思うが、なぜかあの伝説が気になる。
部屋のドアを開けようとしたところで下の階から姉が呼ぶ声が聞こえてきた。
「ご飯できてるよー!降りてきてー!」
「あーい、今いくよー!」
下に聞こえるように少し大きめの声で返事をすると部屋から出て、俺はリビングへと向かった。