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神様のレッテル  作者: mrtk
2/2

後編

20160311公開

 あの夜から10年が過ぎようとしていた。

 

 政府が把握している、現在も生存している被害者の数は24,659名に及ぶ。

 だが、実際はそれ以上の数字となると世間では考えられていた。

 何故ならば、『レッテル』を貼られた事を隠す為に一歩も家から出なくなった被害者が相当数は存在すると考えられたからだ。

 もちろん、政府も影響を軽視した訳では無い。

 なにせ、『レッテル』を貼られた被害者の『悪行』自体が一番重いものでも刑法第235条で定める窃盗罪であり、その法定刑は10年以下の懲役又は50万円以下の罰金でしか無かったのだ。それに対して与えられた影響は、法律を超えてはるかに重いものであった。

 新たな法律が幾つも立法され、経済的・社会的な救済措置が実行に移された。

 世界中のありとあらゆる研究機関も全力を挙げて『レッテル』の解明に取り組んだ。

 だが、現在に至っても原理は解明されず、文字の構成物質さえも特定出来ないままであった。



 『小物な自分勝手』と『レッテル』を貼られた田中瑠美亜たなかるぴあは生存していた。

 だが、その様な『レッテル』を貼られたままで仕事を続ける事は不可能だった。

 現在は実家で両親と同居し、ひっそりと暮らしていた。

 両親も老いて、あと数年で年金生活が始まる。

 だが、田中瑠美亜が政府から受給している金額を考えると、生活水準はある程度は確保出来るだろう。

 むしろ働かなくても暮らせる分、楽をしていると言えるが、世間の目を考えると一歩も外に出れない生活は彼女の精神を確実に蝕んでいた。


「こいつら、死んだ方が良いじゃね? 世間を舐めてるよね? 徹底的に晒してしまえ・・・」


 今、彼女が熱心に取り組んでいるのは、ちょっとした悪事や暴言をネットで探し出しては、その人間の実名や住所、電話番号、家族構成を徹底的に炙り出すという作業だった。

 自分がされた事を他人にやり返すと言う、ただの八つ当たりだった。

 

「ほう、面白いか、それ? わらわにはよく分からん楽しみ方じゃのう」


 いきなり透き通るような声が聞こえた。

 田中瑠美亜は文字通り跳び上がった。その時に椅子に足を取られて、派手に転んだが、すぐに起き上って、周りを見渡したが誰も部屋に居なかった・・・・・



 佐藤一郎さとういちろうは自殺をしていた。

 自分がした事に対する罰としては重過ぎると言ってもいい影響に堪えかねたのだ。

 あの夜からしばらくして、妻が子供を連れて出て行き、そのまま2度と会う事は無かった。

 最終的に妻が雇った弁護士を介して離婚した。

 勤め先も定年間近であったが、同僚の目に耐えられずに退職をした。

 一気にそれまで自分を支えてきたモノを失ったかの様に無気力になった彼が電車に飛び込む事を選ぶまでに掛かった時間は7カ月と12日間だった。


 鈴木闘王すずきさいきょうは自殺をしていた。

 最初の内は、同級生もしているのにどうして自分だけがこんな目に遭うのだ、と怒りがこみ上げて、その様な言動を示したが、その反動はいじめであった。

 純粋な被害者としての地位を築く事は確かに難しかったであろうが、自ら自分の地位を糾弾者にしたのだ。すぐに無視が始まり、それがいじめに発展するまでに時間は掛からなかった。

 彼はあの日から17日後に自室で首を吊った。


 吉田竜一よしだりゅういちは生きていた。

 今も相変わらずに商品を買っては、クレームを付ける毎日を過ごしていた。

 そして、その時もスマホに吠えていた。


「ふむ、見事な心掛けじゃ。ここまで変わらんと云うのは立派じゃの」


 その声が聞こえた瞬間、彼は声がした方向にスマホを投げつけたが、スマホは壁に凹みを作っただけだった。


 

 そして、あの夜からちょうど10年が過ぎた瞬間、日本中のテレビ放送が1人の少女を映し出していた。

 朝の9時に全国放送のキー局宛てに届いた1枚だけ送られたファックス受信が騒動の元だった。

 そのファックスには、2行の言葉が書かれていた。

 『本日22時に行う会見場所を設定せよ

           レッテル貼りより』と。

 最初は悪戯かと思われたが、1時間後に事態は急転直下の動きを見せた。

 ただの普通紙だった筈なのに、その直上に『レッテル』と同じ様に文字が浮き出したのだ。

 ファックスを送られたキー局は勿論、新聞各社を含む報道機関は一斉に動き出した。

 国会中継を流していた Japan Broadcasting Corporationは即時に中継を小さな画面に追いやって、臨時放送に切り替えた。

 その小さな画面の中でも議員がスマホの画面に喰い付いている姿が映し出されていた。

 

 そして、各局の怒号が飛び交う協議の結果、都内で一番大きな会場を持つホテルが選ばれ、芸能人の披露宴が行われる予定だった会場を確保し、急遽会見場が設置されたのが、午後8時の事だった。

 国内は言うに及ばず、国外からも多数の参加希望が殺到した為に、最終的に入場が開始されたのは予告の時間まで残り30分と云うギリギリになった。

 満員と言うには控えめ過ぎる人口密度の中、午後10時丁度に少女が文字通り一瞬で姿を現した。

 一斉に焚かれるフラッシュでテレビ画面が白く染まった程だった。

 

 ようやくフラッシュが落ち着いたのは、数十秒後だった。

 澄んだ声が会場内に満ちた。決して大きな声ではないにも拘らず、後ろの席まで肉声が届いたと後に判明する。


「わざわざ済まんの。今日は予告じゃ。これからも『レッテル』貼りを何度か行う事にしたからの。いつするかは内緒じゃ。聞いてしまっては意味が無いからの。以上じゃ」


 そう言って、会見を打ち切ろうとした少女だったが、ふと気が変わったのか、記者たちが声を上げる前に右手を掲げた。


「少しだけサービスをしてやろう。5つまで質問を受け付ける事にしよう」


 当然だが、一斉に放たれた質問は声の洪水だった。

 20秒程して、少女が右手を下げると一瞬で静寂が会見場を包んだ。

 もっとも、それは記者が声を出すのを止めたというよりは、空気の動きを止められたからであった。

 その証拠にフラッシュ音さえも聞こえなくなった。


「ふむ、一番多い質問はわらわの正体に関する事じゃな。八百万やおよろずの内の1柱に過ぎぬよ。次に多い質問は理由じゃな。なに、人の心の美しさを愛でておった友達が嘆いておったからの、ちょっと刺激を与えてみただけじゃ。次は方法か。その内分かる時が来るかも知れんとだけ言っておこう。次は『レッテル』の解除絡みか。外す予定は無いし、外す気も無いの。最後の質問はわらわのスリーサイズじゃな。それは年齢と同じで乙女の秘密じゃ。では、また何時か会おう。もっとも、わらわに逢うという事は碌な事をしていない証拠なので、会っても嬉しくないかもしれんがの」


 少女は最後に笑顔を見せると消えた。

 途端に音が会見場に戻って来たが、それまでの静寂に慣れた耳からすると、騒音と云う名の暴力であった。



 

 その日を境とする、『告知前、告知後』という言葉が出来たほどの衝撃が世界を駆け抜けた。 

 その日、日本が、いや人類が築き上げた現代社会は“神”の前に膝を屈っし、その精神構造を変革させられた・・・・・


 ある人物の投じた一言がその事を表していた。

 そして、そのフレーズはあらゆる言語に翻訳されて全世界に広まった。



 神は復活した・・・・・・


お読み頂き、誠に有難う御座います m(_ _)m

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