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サボタージュ

「サボるとは、仕事を怠けること地球フランス語で労働争議の一種である「怠業」を表すサボタージュ


 からきている」


「よって我々は要求が入れられないかぎり、無期限のサボタージュに突入する」


俺は通信室の画面を見つめたまま、固まっていた。相手は会社の重役だ。


惑星間航行輸送船の労働組合支部長である俺は、乗組員全員の要求を勝ち取るため


会社側と対峙していた。


「君らの要求はわかったが、今即決はしかねる、一応役員会にかけてからまた連絡する。


 しかし、最高級のセクサロイドとはねえ。」


それだけ言うと、通信は途絶えた。重役の顔には明らかに困惑の表情が見て取れた。


通信のビーコンが途絶えると画面には、会社のロゴマークが現れ、しだいに小さくなり、


現在航行中の星域が映し出された。


衝突するふたつの銀河が、遠くに美しく輝いていた。



惑星間航行輸送船の日常は退屈きまわりないものだ。


業務のほとんどは、自動化されコンピューターの監視と積荷の点検ぐらいが主な仕事となる。


乗組員も巨大な宇宙船の居住区に船長を含め十数人しかいない。


交代制でコールドスリープに入り、常時勤務しているのは数人程度だ。


そんな日常だから、娯楽が最大の関心事となるのは当然のことだ。


風紀の問題もあり、乗組員は全員男性であるから娯楽のなかでも性の処理に関する問題が


最重要となってくる。


通常、脳髄に直接アクセスする幻覚装置が一般的であるが、覚醒したあとのあの虚しさだけは


どうしようもないものだ。


感覚は同じとはいえ、夢のなかで抱擁した美しい女性が、覚醒後目の前にいないのはさびしいものである。


見えるものは、見慣れた同僚の乗組員や複雑な操作パネル、点滅する無限LED、そしてメインパネル


に映し出されたいつもの星空だけだ。


手に触れる感覚は無機質なものだけだ。


ベテランの乗組員ほど、この感覚に襲われるというのを聞いたことがある。



セクサロイドは惑星間航行用に開発された無機、あるいは有機複合の高性能アンドロイドの類である。


感情は持っていないが、その身体機能、反応、感覚は生身の人間と寸分違わないレベルにある。


最近は、本物の女性よりもこちらのほうがいいということで、社会問題にすらなっている。


当然価格は高く、維持コストもかかるが、会社の経費ということであれば安いものであろう。



まだ若い船長は、コールドスリープのカプセルのなかでかすかに笑っているように見える。


おそらく、夢のなかで美しい女性とよろしくやってることだろう。


ただし、バーチャルな女性と。



しばらくして、会社側からの返事が来た。


「検討の結果、決済が降りた。直近の殖民惑星よりすでに発送済みである。まもなく到着するだろう。


 君らの希望どうり、最高級のセクサロイドだ。私もほしいくらいだ、君らがうらやましいよ。」


と重役はすこし笑みを浮かべて言った。



「ありがとうございます。これに答えて、いっそう業務に励みますので、ご安心ください。」



「実は、そのことなんだが、君らが満足して仕事に励んでくれるのは会社としてもうれしいことだが、


 覚醒中の乗組員がセクサロイドばかりに気がいって業務に支障が出るのはよろしくない。


 そこで、セクサイロイドの機能に少しばかり制限をつけたがよろしいか?」



「そのくらい当然ですよ。ご安心ください。なあに相手は所詮機械です、女におぼれて業務をおろそか


 になんかしませんよ。」



通信室を出た俺は、他の乗組員に交渉の結果を報告した。


みんな小躍りしてよろこんだ。


見ると、傍らには船長の姿があった。


覚醒直後らしく、ひどく疲れていた。


通常報告以外の通信を使ったので、コンピューターが船長の覚醒指示を出したのだろう



「せっかく彼女といいところだったのに、無理やり起こしやがって、彼女泣いてたぞ別れ際


 ま、それはいいとして、なんでもセクサロイドを要求したらしいな?」



「はあ、お騒がせします。でも会社は要求を呑んでくれました。船長もうれしいでしょう?


 乗組員の待遇改善は私の仕事ですから。」



「セクサロイドとは、法外な要求をしたもんだ。この船が貴重なレアメタルを運んでなかったら


 解雇もんだぞ。


 しかしうちの会社を甘くみないほうがいいぞ、それなりに業務量増やされるかもな。」



船長は吐き捨てるように言った。


権限は俺にもあるとはいえ、事前に相談されなかったことが面白くないのだろう。


もっとも相談なんかしたら、反対されるに決まっているけれども。




それから何日かして、待望のセクサロイドが届いた。


輸送カプセルをドッキングポートに誘導していると、いつのまにか乗組員全員が集まってきた。


コールドスリープに入っていなければならない非番の乗組員までが、そのヒゲ面を見せていた。


誰もが飢えた狼のように目をギラギラさせていた。


無理もない、操作パネルをたたく俺の指さえも期待と興奮で震えているのだから。



カプセルの扉がおもむろに開いた。


充填ガスの白い霧がドッキングポートのなかにドライアイスのように広がった。


白いガスの向こうに、一体のセクサロイドが立っていた。


七色に輝く腰まで伸びた美しい髪。透き通るような白い肌、絵に描いたような豊満な肉体、


憂いを秘めた美しい顔立ち。


誰もが息を呑んだ。


肌もあらわなそのコスチューム。


黒のレザーのボンデージ、手には電磁ムチを持って。


「オラオラ!しっかり仕事しろ!奴隷ども!」


そのセクサロイドは電磁ムチで床をたたきながら歩いて来た。



俺は、気が遠くなりそうだった。






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― 新着の感想 ―
[一言] 初めまして。佐竹と申します。 非常にきれいにまとまっており、落ちも最後までわかりませんでした。ただし、贅沢を言えば想定の範囲内の落ちではありました。文体も不必要な語句がないように思え、とても…
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