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鮮血硝煙  作者: 有友美琴
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鮮血硝煙 七話

村人の頭がいきなり爆ぜる等誰が想像していただろうか。クルツ達特務中隊の面々が監視していた目の前でだ。

「なっ! 総員散開、村人は村内に入れ!死にたくなければ早くしろ!」

帝国軍による攻撃だと仮定し、散開を命じるクルツ。偵察任務という建前上、少人数しか随伴させてこなかったが悔やまれる。

「ラルフ! 第二班を指揮して敵勢力を撃滅せよ! 目標達成が困難な場合は速やかに第一部隊と合流! あとは通信兵! 本部に連絡しろ!」

命令を受け一斉に動き出す兵士たち。そんな彼らを激励するように、クルツが口上を述べる。いつもの彼を取り戻したかのような、そんな口上であった。ポリーナに向けた表情は掻き消えていた。

帝国人(・・・)は全て殺せ。生かして帰す価値もない連中だ。とにかく殺せ」



その言葉にビクリと少女が震えたことに気が付いた人間は、いなかった。



「八百メートル先に敵戦力あり、排除の要を認めます!」

〈詳細報告、画面をご覧ください。〉

キャンベル博士の開発した狙撃支援システムがクルツに告げる。

「――セット」

コッキングし弾丸を薬室に送り込む。

「――セット」

ライフルに付与された魔術式を起動する。

「――――ファイヤ」

弾丸が駆け抜け、遠距離の魔術師を射殺する。直前に大規模魔術を放とうとしていた人物の呆気ない終焉である。その傍らにいたもう一人の敵兵士が慌ててクルツに向けて狙撃を実行しようとするが――


「――ファイヤ」

スコープが煌めくよりも先にクルツによって始末されてしまう。


早期に魔術師が始末されたためだろうか、帝国軍の奇襲によって始まった小規模戦は当初予想されていたよりは王国軍不利にはならなかった。だが、それもある男が戦場に出現するまでだった。漆黒のスーツを身に纏った男、帝国軍情報局所属とも、共産党公安委員会所属とも、はたまた未知の組織に在籍しているともいえる正に謎の男であった。そして――クルツの仇でもある。




黒衣の男が出現した時、村は既に戦火によって焼かれていた。王国軍は彼らを守るために動いていたのだが、携帯型榴弾投射機などを用いた攻撃を防ぐことは難しく、県奥が燃え始めていた。



それはポリーナの心を揺さぶる光景だった。

あるはずのない記憶が蘇ろうとする。



「……やめて。」



まだ彼女が幼かった頃の記憶、幸せだった記憶。両親との記憶。それらが彼女の頭に奔流となって蘇ろうとしていた。




「やめてえええええええええええええ!」






少女の絶叫をよそに、争いは続く。





「貴様は、あの時の! ――よもやここで会えるとはな。〈黒衣無双〉ヴァレリー・アントロポフ!」

叫ぶなり彼に向けてライフル弾を射出するクルツ。環境や地形への影響など全く考慮されていない程の魔力が込められた弾丸が、黒衣の男を貫かんと飛来する――!


だが、ここでヴァレリーの異常さの一端が垣間見られる。


「この程度か。」


魔力によって補助され、その速度すらも強化されているはずの弾丸を、彼は袖口から勢いよく投げ出されたナイフによって迎撃したのだ。一秒にも満たぬこの攻防、直後に、クルツの仕掛けが作動し始める。


ヴァレリーがナイフを投擲すると同時に次段を高速で装填し射撃したのだ。それが飛来する先は――ヴァレリーのはるか上である。


(どこに撃っている――!)


それを気にせず超高速でクルツに接近しようと、一歩目を踏み込むが。次の瞬間、彼は膨大な魔力量を誇る爆発に巻き込まれる。

「――終わってみれば呆気ない物か。まさかこの程度で死ぬとはな。」

長年の恨みがようやく晴らされたというのに、彼の表情は曇っていた。この程度の敵に両親を殺されてしまったのかと、無念さで心が埋まるほどであったのだ。だが、彼のその判断はあまりにも早計だった。

「この程度(・・・・)か。」

常人ならば即死、ウィングストンであっても八発は防げない攻撃を、実に三十発直撃させられた上でなお彼に傷は無かった。

「な、馬鹿な!」

クルツがうめくと同時、ヴァレリーが今度こそ駆け込んでくる。再び袖口から取り出されたナイフを両手に構え、全身を使った必殺の一撃が襲い掛かる。


〈虚流・双牙陣〉


極東ロシアに流れ着いた東洋の暗殺者が開祖と言われる技の極みである虚流暗殺術が、避けえぬ死の結末を与えようとする。


「ぐっ……がああああああああああ!」

必殺であるはずの攻撃をかろうじて回避するクルツ、その両手には先程まで握っていたライフルと似た意匠が施された短機関銃を二丁持っていた。ガーフィールド家の宝であるその武器は、変化する魔術式火器であったのだ。形状変化によって付与することのできる魔術が一部変化する。〈爆破〉が〈高速起動〉の魔術式へと書き換えられていく――!


突然の高速移動に体が悲鳴を上げる。吹き出てはいけない場所から血液が吹き出し、逆流してはいけないものが逆流し始める。持って三分。クルツの冷静な部分がそう判断した。本来ならばここまでの高速移動をしなくとも十分に戦えるはずなのだ。だが、人間にはありえぬほどの速度で叩き込まれるナイフや蹴りに対応するためには、クルツも超加速をする他になかったのだ。


右かと思えば左、上かと思えば下、予想していない方向から攻撃され。体力と共に集中力も削られていく。技の多彩さと弾丸が直撃したような衝撃を与える攻撃はヴァレリーが最強と呼ばれる理由の一端を示していた。


ガキィッ

         ジャララララッ

     ゾンッ

   ズェアッ


「殺してやる! 殺してやる! 帝国人は殺さなくてはならないんだ! 特にお前はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」



絶叫と共に己の力の限りの攻撃を放つクルツ。だが、およそ人の物とは思えない短機関銃と短刀のぶつかり合いは、唐突に幕を閉じることになる。


戦場の片隅で蹲っていた少女ポリーナから放たれた、あり得ないほど高密度な魔力塊によって、両人共に吹き飛ばされたからだ。







燃え盛る村はかつての記憶を甦らせようとしていた。それはいい事のはずなのに、彼女の心がそれを嫌がっていた。


――いやだ


平和に暮らしていた村が、いきなり炎に包まれ、彼女の家に軍服姿の兵士たちが現れた。


――やめてよ


彼女を守るために必死に抵抗した両親は、狂ったように叫ぶ男によって殺された。


――やめてったら


お前らは死ななきゃならないんだ。生きているべきじゃないんだよ。


――やめてええええええええええええ!

両親を殺した男は、黒の軍服を身に纏っていた。




ごろごろと転がっていくヴァレリーとクルツ。両者同時に立ち上がると、黒衣の男ヴァレリーは懐から取り出した球をクルツに向かって投げつけた。途端展開される煙幕に、忌々しげにつぶやくクルツ。

「くそっ!」

瞬間飛んでくる七本のナイフ。それらすべてを迎撃するも、一本だけ彼からほど遠い場所を飛んでいく物があった。行く末は少女ポリーナであった。先程の魔力を放ってからは放心したように眼を見開いていたが、その攻撃に反応することは出来ない――あくまで彼女は(・・・)だが。


「ポリーナ!」


長く生きてきた者の勘だろうか。それとも科学や魔術でははかり知ることの出来な伊人間の力だろうか。老人の目に捉えられるはずのないそれを認識した彼は、咄嗟にポリーナを突き飛ばす!


結果として彼自身が貫かれることになってしまったのだが。


舞い散る鮮血によって再び彩られた少女の顔。今度は驚きではなく深い悲しみと怒りによって表情が形作られている。


「おじいちゃん!」

二人きりの時のみに許された呼び方で老人を呼ぶ。最早残された命は僅かとなった彼は、それを聞き満足そうに微笑む。

「いいか、ポリーナ。……幸せにおなり。お前だけは、こうして無事に、いきて、いるのだが、ら」



今度こそ、彼女の日常は完全に崩壊したといえるだろう。クルツ達特務部隊が奮戦したとはいえ、奇襲された側の不利さを完全に打ち消すほどでは無かったのか、村人にも少なからぬ犠牲が出ていた。実に四割もの村人が殺されたのだ。それだけの犠牲が出れば彼女の日常は、返ってこない。

村長の死体を抱え呆然とする少女の元にクルツが歩み寄り、目線を合わせるために膝をつく。

「ポリーナ……すまない」

彼の懺悔の言葉に反応したのか、顔を上げると彼女はこう言った。

「私ね、復讐したいの。どうしてかわからないけど、さっき魔術みたいなのも出せたし。私の家族を、平和な日常を奪っていった奴らを許すことは出来ないから」

自らの歩んできた道と、同じ道を歩もうとする少女に、クルツは悲痛な顔をし、ただ呟くしかなかった。

「……そうか」




少女ポリーナが復讐を誓ってから数日後、ウィングストンによる彼女の適性魔術解析が行われた。先日放たれた魔力の塊は魔術とはいえない原始的な攻撃であったためである。本来の彼女に適している魔術は何なのかが分からない限りは戦闘方法を学ぶこともできないのだから。その結果に基づいた訓練が、次の任務まで行われた。少女の願いに、クルツは彼女を正式に特務部隊に編入させることで応えようとしたのだ。

 彼らがそうしている間にも、戦争は進んでいく。エニスクワ河侵攻作戦の失敗と同時に北部戦線が膠着状態に陥るも、南部における王国軍の圧倒的な戦果によって北部帝国軍は孤立、これを撃滅することに成功した。帝国軍総指揮官であるスターリンは帝国軍軍事ドクトリンに従い、全土において焦土作戦を展開。決戦の地を自らの名を冠するスターリングラードで行う事を指示する。開戦より四ヵ月が経ち、クルツ達特務部隊も様々な任務に駆り出された。敵地単独侵攻によって敵陣後方の補給線を分断したり、時には戦略的重要地をたった一部隊で五日間守り通したりもした。その戦果が認められていたのだろう。彼らもまた、スターリングラード及びその周辺区域の制圧を目的とした作戦に身を投じていくことになるのだった。

 数週間以内に激戦が予想されるスターリングラードの地下深くにて、ヴァレリーは呟いていた。

「研究素体は未だ十分とは言えないが、連中の侵攻速度は思ってたより早い。……さてさて、どうしたものか」

 ある研究の為に作られた施設に備え付けられたモニターの光が彼の顔を照らす。それは愉しげに嗤っていた。


カリスティア王国の首都に極東からやってきた人々が集まっていた。腰には刀を差し和服を着たその集団は一種異様なまでの雰囲気を放っていた。その中には数少ないながらも白衣を着ている研究者もいた。

「舞倉さん・・・…まさか僕たちが戦場に来ることになるなんて思わなかったですよ……どうして解ったんですか?」

「決まってるじゃないですか。私は何でも知ってるんですよ。あははははははははは」



決戦の為にあらゆる戦力が結集する。己の為に、国の利益のために、家族の為に、女の為に、男の為に、子供の為に、各々の持つ理由がぶつかり合い、美しい火花を散らす決戦が始まろうとしていた。


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