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鮮血硝煙  作者: 有友美琴
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鮮血硝煙 五話

現場指揮官として優秀な人物であったエメリヤン・ペトロフは地獄を見た。あってはならないはずだったのだ。一瞬で自分の仲間たちが死んでしまう等という事は。

「馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な!」

突如として発生した災害の様な魔術現象、そして武器弾薬庫の爆発によって彼の部下たちは相当数減ってしまっていた。そして、近くに迫ってくる敵の喊声は次第に大きくなり、正面から何かが飛んでくるのが見えた瞬間、彼の部下は今度こそ壊滅してしまったのだ。炸裂した未知の兵器によって地面は割れ、あらゆる生き物の命を奪う魔術が放たれた。王国稀代の魔術師としてキャンベルが込めた魔術。それは、〈重力操作〉の性質を持っていた。簡易的に発生した超重力場に引き込まれていく――

意識が

    崩壊し

       自我が

           消滅する

 落ちる    落ちる    落ちる   

    落ちる    落ちる    落ちる


そこに意識なんて存在しないそこには私はいないそこに僕はいないそこに俺はいないそこに――――――

自らの放ったミサイル弾が敵防衛部隊の中央に炸裂した事、およびその効果実際に自らの目で見たキャンベルは、実に満足げに頷きながら減速し味方が突撃していく後ろに回り込んだ。

「素晴らしい兵器じゃないかキャンベル博士。今のはなんだったんだ?敵兵士が急に消えたように見えたのだが……空間転移でもさせたのかな?」

味方兵士たちの喊声と共に銃声が次第に遠ざかっていく中、クルツはキャンベル博士にそう問いかける。あきらかに次世代の兵器である先程射出された物体に関する興味が絶えないようだった。敵前衛部隊を一瞬で壊滅させ、その死体すらも残さない。さらには火炎が上がった様子もなく、火薬によるものとは思えない。魔術にしてはあまりにも現象が異質であった。そんなものに興味を持たない方が無理だろう。

「先程射出したのはFG十三号〈エンリルズジャッジメント〉でございます。私が開発した新型合金を使用した本体もさることながら、超重力場、つまりは簡易的なブラックホールを生成させることのできる術式は私の自信作です。空間全体を一つの点と定義し、膨大な魔力によって干渉することで空間断裂を起こすのです。その際に発生する問題が、なんの対策も講じなかった場合にその現象がどこまでも際限なく広がってしまうという物だったのですが、これはエンリルズエフェクトを利用した科学的アプローチによって対応することが可能でした」


キャンベル博士がクルツに自らの発明を解説している間。帝国軍兵士たちは更なる地獄を見ていた。数週間前に徴兵された兵士アリスタルフ・シチャーニンは同僚であるイサークが目の前で爆発するのを目撃してしまう。防衛のために築かれた塹壕で目前にまで迫った王国軍兵士たちを迎撃していたのだ。数に勝るこちら側が有利であるはずなのに、序盤敵の魔術師が放ったであろう魔術によって村全体に自然災害のような現象が起きたのもさることながら、敵部隊を水際で押しとどめるために展開していた前衛部隊が謎の攻撃によって一瞬で壊滅してしまったのだ。それが絶望的な状況でなくて何だというのだろうか。そして今目の前で同僚が唐突に爆発してしまった。どこに、敵がどこにいるのだろうか!

「畜生! どこだ、どこにいるんだ! 出てこいクソッタレ! うあああああああああああああああああああああああああああああ!」

恐怖に駆られるあまりその手に握っているライフルを乱射し始めるアリスタルフ、銃弾が穿つ先は地面。王国軍兵士たちには全く当たりもしなかった。土煙が上がる頃ようやく落ち着いてきたのか弾倉を交換しようと傍らに手を伸ばす彼。だが、手に触れる物はなにもない。疑問に思い手を伸ばすと、そこには丸く黒い物体が転がっていた。あってはならないはずの物に意識が凍り付く。爆発物に関する知識が乏しい自分でもわってしまう存在。


「ああ、ツイてねえ。」

悪態をついたと同時に爆弾が炸裂する。キャンベル博士が開発したミサイルとはまた違った爆発。単純な火薬に依る爆発である。周囲に拡散する炎。沸き起こる爆発音。地を揺らす衝撃。それらすべてが博士の物にはなかった感覚である。

「やはり爆発は素晴らしい、ククッ! 敵は全て爆殺し、建築物は全てを破壊すればいい! 敵兵士の身体で山を築き上げよう! 敵兵士の血と肉で雨を降らせよう! 炸裂する爆弾たちは俺の魂の表れ! さあさあ、楽しくなってきたじゃねえか! 舞い踊れよ敵兵ども!」

ただただ自らの欲求に従い、己の作成した災厄をばらまき続けるリンネ・ホッパード。爆弾魔の名を冠するにふさわしいその姿は敵兵のみならず味方にすらも恐怖を与えてしまう。あらゆる爆弾には有効範囲が設定され、それを直接投げつけたり、あるいは爆発同士を干渉させ、あえて安全地帯を作り上げたりすることで味方は巻き込まないようにしているのだが、その爆音と共に襲い掛かる衝撃はある程度の脅威として王国軍兵士にすら襲い掛かってくるのである。


「〈突撃者〉を近接戦闘用装備の上、敵陣中央に突撃させよ。最早この村を防衛する戦術的意味は消失した。これ以上の損害を防ぐために敵指揮官をたたく。圧倒的ブルジョワジーに支配された王国軍は士官が殺害されれば烏合の衆と化すであろう。狙撃部隊は急速離脱し、後方部隊と共に遠距離狙撃を行え。ここに至っては村内は突撃兵たちに任せるしかないだろう。工兵部隊は最悪の事態に備え、〈最終解決装置〉の準備フェイズを起動せよ。……ふむ、政治委員殿の事か?この村はある意味で最も安全な場所である。あの方に私が嘘をついたわけではない。さあ、兵士諸君。我らの赤き共産主義の力をブルジョワジーに心から染まった連中に示そうではないか! 圧倒的な思想的優越性があることを忘れてはならない。発達した豊かな社会などという言葉では決して誤魔化すことのできない虚偽的な社会制度である資本主義では、不平等、格差が発生するのだ。我らはそれを是正しなければならない! もう一度兵士諸君に請おう。我らの赤き力、大陸を埋めつくすほどの熱狂的な力を連中に見せてやれ!」

イリダル・チェブーニンは指揮官としての最善の命令を下そうとする。敵戦力は既に自軍よりも圧倒的に高いと認めざるを得なかったのだ。奇策を持って対応しなければ勝利する事すらおぼつかないなど、彼の人生では初めてのことであった。

「私は本陣突撃部隊の直接指揮を執る。後は任せたぞ!」

呼び止めようとする副官を無視し、自分の装備を手早く確認するイリダル。総指揮官自らが、敵陣に攻撃を仕掛ける部隊を現場指揮するなどと、偉くなれば偉くなるほど利己的な人間が増えていく、というよりも利己的でなければ昇進できないようなシステムになっている帝国軍士官らしからぬ非常に勇敢かつ優秀な人間であった。元より、全体の指揮は彼の副官の方が秀でており、彼自身は戦術単位の指揮の方が能力をより発揮できるのだ。その為にはある程度の階級がなくては自由に作戦行動することもままならない為に、士官になったに過ぎないのだ。

「――だというのに、ここに来てから毎日毎日政治委員殿の御相手ばかり。あの豚のような姿で幼い少女を手籠めにしようなんざ、俺からすればあり得ない話だ。ったく。本当にどうしようもない連中ばかりじゃねえか。……まあ、それを止めようとしない俺も同罪か。チッ、嫌な人間が政治委員として来ちまったもんだぜ。まったくよ」

生来の語調のまま毒付くイリダル。彼の良識には反しているが、それを指摘することは叶わない状況に飽き飽きしていたようだ。

「同志サッヴァ・セドフ少尉!行くぞ。我らが進む先は常に最前線だ。地獄の先駆者たる所以を連中の前に示し、我らこそが最強であることを示そう。強行突撃これあるのみだ」


ある意味で帝国軍における華の兵科である〈突撃者〉が、大地を埋めつくさんばかりの存在感を放ちながら、クルツ達の丘陵に迫ってくる――!!


「урааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааа!」

「урааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааа!」

 一度喊声を上げればその力は更に増し、二度喊声を上げればその速さは更に増し、三度喊声を上げればその感覚は研ぎ澄まされ――

帝国軍〈突撃者〉達はその身をもって帝国の威光を知らしめる!

「我らが同志スターリンに万世の栄光があらん事を! 我らが突撃により、大いなる道の開かれんことを!」


「キャンベル博士。見えるか?あの帝国人どもを。愚かでどうしようもないクズどもの姿が。だが、良い判断じゃないか。指揮官である私を直接狙いに来るとは。それに、あの軍服からして部隊指揮官は相当な高階級の人間だ。そんな奴がわざわざ攻め寄せてくるとは。共産主義というのは度し難いものだな。――本当に、判断自体は良かった。だが、」


 引き金にかけた指に徐々に力を入れながら彼は嘲笑う。共産主義などという幻想に憑りつかれ、その身を賭しての突撃をしてくる帝国人たちを。この状況であえて指揮官を狙うような優秀な人間が共産主義に染まってしまっていることを。その突撃すらも、今自分の手で崩壊しようとしている事を。ただただ嘲笑う。


「無意味だ。」


クルツの持つ狙撃仕様魔術式ライフルが刻み込まれた概念を事象化する。〈遠視〉

〈爆破〉の魔術が付与されたこのライフルはガーフィールド家に代々伝わる家宝であった。――敵指揮官の元に吸い込まれていく弾丸、それがたどり着く前に爆発したのは。当の敵士官がこちらを見て抜刀した瞬間だった。魔術を付与され超高速で飛来する弾丸を切断する。言葉で言うだけなら簡単な話だが。


「敵は少数だ! 同志諸君、後ひと踏ん張りだぞ! 突撃せよ、前にでよ!」

「урааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааааа!」


「ふん、帝国人(クズ共)にしては骨のある人間がいるな。まったく、弾丸を切り裂くとはやってくれるじゃないか。――だが、敵は少数だと? ふん、笑わせてくれる。この私が、貴様ら如きの考えることが読めないとでも思ったか。」

クルツが手を掲げると、傍らからセリウスの率いる班が現れた。彼らの腰にはナイフホルスターとハンドガンホルスターがぶら下げられていた。

「さあ、行くぞ地獄の猟兵たち。我ら王国軍の真髄を見せてやれ。右手には短銃、左手には短刀、我らが武勇は大陸中余すところなく知らしめられるものなり! 愚昧なるクズ共よ! さあ、死ね! 蝶のように舞い! 蜂のように意味もなく死んで行け!」

 丘陵である以上、下からはうかがい知ることのできない空間が多数存在する。その中の一つから現れた敵部隊にイリダルは驚愕し――なおも加速する。〈突撃者〉による強襲を敢行する以外に勝利する手段が存在しない以上、ただ前に進むしかないのだ。それに、ここまでくれば見える。敵部隊は短銃と短刀しか持っていないのだ。これならば強襲突撃白兵戦専門の部隊である〈突撃者〉が負けるはずがないのだ。あらゆる軍団から選抜された、魔術兵装を身に纏い飛来する弾丸すらも切り裂き、踏み込みによって大地に亀裂を走らせ、帝国軍の障害を真っ先に取り除く特別部隊。先駆捨身の精神をもってして万人に畏敬の心を湧き起こさせる。

「接敵開始! 斬撃せよ刺突せよ!」

クルツ達の部隊と遂に交戦を開始したイリダル達。そんな中に逆突撃を仕掛けてきた人物がいた。セリウス元懲罰中隊隊長である。クルツの前任である彼は隊長を引き継いだ後、作戦立案などに関わり、戦闘はあまり得意ではないという姿勢を見せていた。その彼が、ナイフをいわゆるバルログ持ち、つまりは片手の指すべての間に挟みこみ、自分から囲まれるかのような場所に動く。

「やれやれ、こんなのは私の趣味じゃないんですけどね。本来私は事務仕事をしている方が性に合ってますし、作戦立案だけできれば最高なんですが。――しかしまあ、そうも言ってられませんかね。」

そんな、ある意味ふざけているかのような言葉に、激高した帝国兵達が五人で襲い掛かってくる。魔術を纏った〈突撃者〉専用の剣がセリウスを包囲し、なおかつ互いに干渉しない形で襲い掛かる。何度となく繰り返してきたいつもの手順。あらゆる敵を抹殺する必勝の方程式だ。

「甘いですね。この程度なら、私でも対処できますよ?」

短刀が襲い掛かってきた帝国軍兵士を貫かんと、ほぼ同時にばら撒かれる。もちろん、強化された動体視力をも持ち合わせる彼らにそんなものは通用しない。だが、本命はその攻撃ではない――――!

〈殺戮結界・壱式〉

ナイフの配置を利用した一種の魔術結界である殺戮結界・壱式。周囲の自然に存在する魔力すらも吸収し結界を展開する。

「ここに、幻想に依りて剣となさん!」

放たれる短刀。空間から取り出した物である。更には、帝国兵達の死角を突くように出現した短刀が射出される。フタリコロシタ。一秒に満たぬ瞬、次の一斉掃射が始まる。超高速にて射出される短刀は〈突撃者〉の力をもってしても対応しきれないほどだった。フタリコロシタ。アトハヒトリデスネ。フフフフ。一人残された男の身体にいきなり穴が開く。それは彼の真後ろから飛んできていた。それは当然、物理法則にしたがってセリウスに向かって直進する。


「無駄ですよ。殺戮結界の中に入り込んだ異物は自動的に排除されるようになっているんです。僕の殺戮結界は弾丸すらも殺しつくす。」

言葉通り、次々と放たれる弾丸は短刀によって強制的に排除されていく。

「……申し訳ない同志ダヴィート。君の犠牲にも拘らず敵を殺すことは叶わなかった。だが、私は必ず奴を殺して見せる。そこで我が剣の行く末を見守っていてくれ。」

セリウスの前に立ちはだかったのは部隊指揮官であるイリダルその人であった。その一般兵とは違う装飾によって気が付いたセリウスは内心で冷や汗を浮かべる。部隊指揮官であるならば、一定以上の強さを誇っているはずだからだ。

「ズェア!」

裂幕の気合いと共に切りかかってくるイリダル。自動追尾する短刀が追いつけない程の速度だ。慌てて主導で短刀を飛ばし始めるセリウス。

「〈殺戮結界・弐式〉何人たりとも足を踏み入れることを許さず!」

短刀の形はそのままに、大剣とでも形容すべき大きさになった武器がイリダルに向かって射出される。彼を包囲する形で展開されたそれらは、いかなる速さをもってしても回避不能。の、筈であった。


〈偉大なる思想はこう語りかけてくる(Божьистинаговорит〉)〉


イリダルの思想の根源、共産主義的思想による疑似的魔術を振るわれさえしなければ事実その攻撃は必中であっただろう。だが、イリダルの術式が必中の攻撃をも回避しうる物に変更したのだ。現象に干渉し、それら全てを平等に再分配する。力の交換ともいえるこの術式は、概念による攻撃、つまりは魔術であれば完全無効化することができる性質を持つ。

「……これは、ちょっとまずいですかね。」

元より作戦立案担当であるセリウスにこれ以上打つ手はなかった。一般兵程度であれば、かれでも十分相手取ることができるのだが、さすがに士官レベルともなれば相手どることは出来ない。そうやって諦めようとしたとき――イリダルの真横に到達した弾丸が爆発する。


「クルツ隊長!」

その爆発がクルツのライフルによって付与された爆発術式であることを看破した彼は安全な場所を求めて急速離脱する。そんな彼を支援するように何発も叩き込まれる弾丸。それらを何時もの様に切り裂こうとし

たイリダルは猛烈な違和感に襲われる。剣を抜こうとした右手の感覚が、全くないのだ。というよりは、彼の右手そのものが消失していた。



狙撃による殺害という、あまりにも呆気ない終りであった。


指揮官であるイリダルが殺害され、更に圧倒的戦力差によって半壊させられたラジリカ村防衛部隊はクルツの前に降伏することになったのだった。


周辺の敵を制圧し、村内の索敵をするクルツの率いる班は、帝国軍士官用の建築物と思しき場所になだれ込む。一階、二階と徐々に上がっていくと、三階廊下の一番奥に謎の黒い扉があった。中からは何やら少女の声と中年の声が聞こえてくる。

「――ふん」

傍らのキャンベル博士に命じ、扉を打ち破らせたクルツ。なだれ込むとそこには両手足をベッドの四隅に縛り付けられた少女と、豚のように肥え太った政治委員がいた。冷たい目を向けるクルツに対して必死に弁明しようとする

「何ッ! ま、待つんだ。頼む、お互いに話し合おうじゃないか。そ、そうだ。この娘をくれてやろう。まだ私も手を付けていないんだ。如何せん強情でな」

「それ以上薄汚い口を開くんじゃない、豚が私の前に立っているだけでも不愉快なのだから」

無慈悲な短銃射撃が豚を襲う。そして、そのままクルツは拳銃をしまい、少女の方をよく見ようともせずに部下に命じる。

「そこの女は治療を施した上で広場に連れてこい。尋問したうえで判断を下すのでそのつもりで」

カツカツと靴音をたて離れていくクルツ。彼の姿をながめながらキャンベル博士は少女の縄をほどき始めるのであった。



「んん……ここは?」

博士によって治療を施された少女が目を覚ます。上半身を起こし、頭を軽く振る。

「お前、名前はなんだ?」

「――ポリーナ・ラヴロフスカヤ」

「帝国人か?」

「そう。私はこの村に住んでた」

意識を取り戻したばかりの彼女は問われるままに答えてしまう。その答えを聞いたクルツは、拳銃を取り出しながら彼女の方を振り向く。引き金に指を――


「なっ――」


かけることは出来なかった。彼女の顔を見た途端、かつての記憶が奔流となって脳天に直撃する。


村が燃えていた。いつものように妹と眠りにつこうとしていた時、両親に叩き起こされた。逃げるんだ。どこまでも逃げなくちゃならない。そう言われるがままに家を飛び出した彼の前に広がった光景がそれだった。ついさっきまで平和だった光景。日中妹や友人と共に走り回った広場では木材

が燃え盛っている。近所の人たちも皆必死な顔をして家から飛び出してきていた。どこからか、聞こえてくる声はこんなことを言っていた。


「帝国軍が攻めてきたぞ!」


幼い彼にはその言葉がよく解らなかったが、自分が妹を守らなくてはならないと強く誓ったのだった。両親に手を引かれるままに村はずれを目指して走り抜ける。後ろから何かが迫ってくる音、のみならず男たちの声も聞こえてきていた。


「探せ! まだこの辺りにいるはずだ。――はこの村にいるとの情報があったのだからな。その為にこの襲撃作戦を行っているんだ、失敗は許されないぞ。確実に仕留めろ。……生捕れれば最高だったんだがな」


その声を聞いた両親はより焦った表情になり足を速める――!


だが、運命は彼らに対して残酷だった。走る音を聞きつけたのだろうか。軍服姿の男たちが後ろから追いついてきたのだ。


「いたぞ! 始まりの――だ! 総員散開、確実に殺る。さあ、行け!」


 追いつかれたことを悟ったのか両親はクルツと妹を近くの建物の影に行かせ、彼らに背を向け男たちと相対する。父の手にはいつの間にかナイフが握られており、母の手には杖が握られていた。村一番の魔術師として有名だった二人が、初めて戦闘の為

の魔術を振るい始める。普段は薬草を借るために使われていたナイフが敵兵の命を刈り取ろうと獰猛な光を放ち始める。

「――を生み出した存在か。面倒だが、町医者としての生活を送ってきた人間に負けるほど、我らは甘くないぞ!」


クルツの知らぬ両親が敵兵を倒して倒して倒し続ける。だが、圧倒的な数の暴力に押されたのだろうか。子供たちを守らなくてはならない不利さからだろうか。遂に、彼らの目の前で両親が息絶えてしまう。


「――――――――!」


 声なき悲鳴を上げる事しかできない子供たちに歩み寄ってくるのは、村の惨状に見合わぬようなスーツを纏った男だった。帝国人にしては珍しく鴉羽のような黒髪の男である。雰囲気すらも暗黒色。目にした人間に恐怖を与える存在であった。


「ここで――には死んでもらわないといけないんだよ」


妹に拳銃を突き付けてくる男に対して、先程の誓い通りの行動を示すクルツ。間に割っていったのだ。銃弾から少しだけでも彼女を庇おうとしたのだ。

「邪魔だ餓鬼、そこをどけ」

どけと勧告しながらも、既に引き金を引こうとしている男の前に、突如妹がクルツを押しのけて出てくる。その行動に、都合が良いと言わんばかりに笑い、引き金を引く――!


妹の身体が



ビクリ

    ビクリと

            痙攣し始める

あっては

            ならない

                   こんなのは

      妄想だ

                 幻想にすぎない



      コワレ

                  ル


                    あ、イモウトが

                コッチをミテ

   ワラッテル



「殺す価値もない。こんな人間は放っておいても構わんだろう」


妹の死体を見て笑いを浮かべるクルツを見て、射殺すらせずに立ち去っていくスーツの男。そんな彼の後姿をじっと見つめ、辺りが無人になった時、クルツが溜め込んでいた物が解放された。

「ぐ、うああああああああああああああああああああああああああああああああ! 僕の! 僕の妹が! 父さんが母さんが! 殺してやる! 帝国人なんて一人残らずぶち殺してやる! 僕がこの手で必ず殺す。慈悲もなく感情もなくただただ殺してやる!」

少年の咆哮が村に響き渡る。





「―――――駄目だ。この子は殺しちゃだめだ」

クルツが少女に向けた拳銃の引き金を引けなかった理由。それは、彼女が妹と全く同じと言える程、そっくりだったからだ。


「似てる似てる似てる似てる似てる似てる似て――」

譫言のように呟きながら倒れそうになるクルツ。それが少女によるものだと勘違いしたのか、セリウスがナイフをホルスターから抜き放ち殺そうとする。

「待て! この娘は殺すな。ひとまず部屋にいれて監視をつけておけ」

それを押しとどめると、張りつめていた糸が切れてしまったかのように倒れこんでしまった。慌てて駆け寄るセリウスたちを眺めながら、少女ポリーナもゆっくりと眠りに落ちた。当然だろう、起きたと思ったらいきなり凄まじい殺気と共に拳銃を突き付けられたのだ。それで緊張しない方がおかしい。最後のクルツの命令に従い、行動を開始する部下たち。 



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