魔法使いの休息
閑話のようなものです。ストーリーは進みません。
「動け、動け、動いてよ。今、動かなきゃ、今、やらなきゃ、朝食が食べれないんだ。そんなのやなんだよ。だから、動いてよ!」
ベッドの上で慟哭する。身体は動いてくれない。否、動かせないのだ。
「あー、やっぱ筋肉痛か。普段から鍛えてねーからそうなるんだよ」
「お言葉ですが。つい先日まで現代人だった私にとって片道45分のハイキングだけでも辛いのに猪との戦闘もあったのです。仕方が無いと思いませんか」
「回復魔法かけてやったろ?」
そのせいで何日か分の筋肉痛が一気にきた気がしないでもない、とは言えない。
「もっとこうぱーっと治るようにはできませんか」
「……例えばだ。ホ○ミあるだろ。ホイ○」
言わずと知れた有名RPGの回復魔法ですね。
「でだ。○イミの消費魔力が2だとする。私の使っている回復魔法は活性化なんだ。正確には回復魔法じゃなくて身体強化だな。これは時間によって変わるが消費魔力は30くらいだな」
「つまり回復魔法だと外傷しか治せないって事?」
普段の口調に戻し、フソウちゃんの説明に聞き入る。
「そうじゃない」
おそらくフソウちゃんはかぶりを振って言っただろう。
「筋肉痛ってのは筋肉がずたずたになっている状態だ。それは"傷"といっても良いんじゃないか?」
「たしかに」
「であるなら回復魔法でも筋肉痛は治せそうだろ。事実、治せるしな」
「じゃあどうしてわざわざ効率の悪い活性化なの?」
「回復魔法は確かに瞬時に痛みを無くせるだろう。だがデメリットがある」
デメリット?魔法知識が無いので判断できないが、痛くないならそれに越したことは無いのではないか。
「いいか。回復魔法ってのはな、"元の健常な状態に戻す"魔法なんだ。身体に無理をさせているから当然、知らないうちに負荷がかかる。寿命が減ったり、禿げたりとかな」
巻き戻し……いや早送りのほうか。
「それに超回復ってやつがあるだろ。回復魔法だとそれが起こらない。さっきも言ったとおり元の状態に戻しちまうからだ」
「じゃあ僕のためにわざわざ効率の悪い活性化を……?そうとは知らず文句言ってごめん」
「気にすんな。それとこれがもっとも重要なことなんだが」
にやりと笑うフソウちゃん。実際の表情は見えないのだけど。
「アタシは、回復魔法が、使えない。悪いな。ちょい見栄張ったわ。まあ時間がかかるだけで効果は回復魔法とほとんど一緒だし、回復魔法が使えるといっても過言じゃないだろ」
「過言だよ!ていうか回復魔法じゃないんでしょ!?真剣に話しに聞き入っちゃったよ!」
「うるせえな。超回復うんぬんと身体に負荷がかかるのは本当なんだ。それにアタシには痛覚遮断があるから多少時間がかかっても問題ねー」
お前の毛根守ってんだぞ?とフソウちゃん。ぐぬぬ。
「ま、今日は休め。ギルドは後日ってだけで正確な日取りは決めてねえんだろ?話し相手くらいにはなってやるよ」
おどけて言う。このいたずら娘め。
「そういう。ちょっと意地悪だよ」
そうして僕の1日は何もせぬままベッドで終わりを迎える。おなかすいた。