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相互理解の第一歩

 それから。

 フソウちゃんに大猪を城門前まで運んでもらい、変身を解いてから門の横にある詰め所に向かう。そこで門兵さんに事情を話し、ギルドに連絡してもらった。

 派遣されたギルド員さんの話では、この大猪はグランド・サングリエという種らしい。さらにはルプレノンという特殊個体だという話だ。いずれ名のある主だったのか……。

 僕のハンターランクよりもひとつ上、つまりCランクで緊急の討伐依頼が国から出ていたらしい。本来、いくつかのパーティが組んで当たるその依頼を単身で達成したということで実力は十分。そこで例外としてCランクに昇級し、その後グランド・サングリエ・ルプレノン『フォレ・ロワ』討伐依頼を受注、達成という処理をしてくれる事になった。ただし城門の出入記録の齟齬をなくすため、事前に受けていたスライム討伐依頼は依頼辞退ということで違約金が発生してしまうらしいのだが。

 僕はその提案を受け入れた。処理はまた後日ということで、そのまま帰宅してもいいとのことだ。この世界に来てからフソウちゃんにしろ、ギルドにしろ迷惑をかけた覚えしかない。ごめんなさい。

 ギルド裏にある浴場で汚れを落としてから宿へと戻る。フソウちゃんとの対話のためだ。気が重い……。



「ふぅ。さてフソウさん、お話があります」

「なんだよ……そんな改まって」


 一息ついてからフソウちゃんと話し合うため居住まいを正す。正直どう話を切り出そうかという戸惑いと、これから話す内容の気恥ずかしさを誤魔化すためでもあるのだけれど。

 

「僕はこの世界をゲームかなにかのように思っていたんだ。剣と魔法、そしてモンスター。早くこのゲームで遊びたかったんだ。だから少し早足過ぎた。もっとこの世界のこと、何よりも君のことを知らなきゃいけなかったんだ。だからフソウちゃん、ごめんなさい」

「……何について謝ってんだ?お前に覚悟が無かったかも知れねえ。だけどな、結果だけ見ればランクは上がった。それに金だってスライムに比べりゃ雲泥の差だ。喧嘩はアタシに任せて、お前はここでの生活の計画を立てる。お前の甘さも身もアタシが守る。それでいいんじゃねえか?アタシは所詮、お前の能力なんだからよ。謝ることなんてなんもねえ」

「これからについては、そうするしかないのはわかってる。僕にはあんな魔物と闘うだけのすべが無い。だけどね」


 一拍置いてから続ける。


「僕が言いたいのはそうじゃない。たしかにフソウちゃんは能力で生み出された人格かもしれない。だけどちゃんと心のある、一人の女の子だよ……。」

「はっ!お前がブルってたあの猪を笑いながら殺したアタシが女の子!?ばっかじゃねえの!?」


 フソウちゃんの声が震えているのは怒りからか、別の何かか。


「僕が一番謝りたかったのはそれなんだ。気づかせてしまったよね。普通ではないこと……生き物を殺すことに躊躇いが無いことに。だからごめんなさい」

「ちっ!」


 僕は心をこめて謝ることしかできない。


「君の考えていることも、感情もわからない。僕と君は別人だよ。僕の一部だなんて事はない」

「そうかよ」

「だから今更かもしれないけれど自己紹介をしよう。僕が君を、君が僕を、なによりも君が君自身を知るために。今まではチュートリアル。お試しだったということにしてさ」


 どうかな?と伺うようにドッグタグを見る。


「……悪りいな。アタシはそんなに割り切れない。確かに自分の考えや感情ってもんはある。だけどな、それさえもお前の能力として必要なプログラムじゃねえかと思っちまう。それでもよければお前の思う通りにすりゃ良いんじゃねえの?」

「今はそれでも良いよ。ありがとう。まずは僕だね。名前は……うん。ヤマトだ。ヤマト=フソウ。24歳だった」


 この世界での覚悟をこめて名乗る。僕はもうヤマトなのだ。


「アタシはフソウだ。歳はわかんねえけど20には届いてねえんじゃねえか?」

「えっと……ご趣味は?」


 早くもネタ切れだった。だって謝ろうとは思っていたけど頭の中ぐるぐるしてて自己紹介の内容までは考えられなかったんだもん!だもんとか言っちゃった。


「お見合いかよ!ったく。少しは空気読めよ。今までの空気はなんだったんだ」


 フソウちゃんは呆れつつも声が少し明るくなっている。予期せぬこととはいえ、それだけで嬉しくなる。やはり彼女は明るいほうが似合う。


「窒素78.1%、酸素20.95%、アルゴン0.9%、二酸化炭素が0.04%……かな?たぶん水蒸気は2%前後」

「誰が空気の成分言えっつったよ!」

「空気読んだ」

「ほー。つーことはあれかい。ヤマトが大気を解析したってのかい」


 やだ……初めて名前呼んでもらえた。


「ちなみに空気清浄機能付です。今までのどんよりした空気が一転、ヘリウム並みの軽さに」

「それは綺麗になってんのか!?……さっきまでの空気の淀みも大半ヤマトのせいだけどな」


 フソウちゃんの声にからかいが混じる。


「それよりも……初めて名前で呼んでくれたね。嬉しい。」


 不都合なことからは眼を背ける。話題を変えよう!


「キモい。おい変身しろよ。その後でお前の入ったドッグタグ海に沈めっから」

「殺人予告!」

「アクセサリーなんだから溺れやしねーだろ。錆びて朽ちるだろうけどな」

「やっぱり殺人予告じゃん!」


 ぎゃーぎゃーと喚きながら夜は更ける。今日わかったのはフソウちゃんが優しくて繊細で、強がりな女の子だということ。そして自分はツッコミだと思っている天然ボケであるということだけだ。……もし肉体があったら女子高生くらいなんだろうなあ。

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