ギルド
気持ち悪い。目が覚めて始めに思った。気持ち悪い。大事なことなので2回言いました。そういえば昨日は始めて魔法を使って脱臼して土の上を転げまわったのだった。気持ち悪いわけだ。
「おう。やっと起きたか」
「……?ああ、おはようフソウちゃん」
「ちゃん!?おい!いったいどういうことだよ!まだ呼び捨てのほうがマシだ!ったく筋肉痛はあるか?」
「おお!そういえば。筋肉痛が無い!……2,3日後とかに来なければ」
「おしっ!治癒魔法が効いてるな。アタシだってこれくらいできるんだぜ!」
きっとフソウちゃんはドヤ顔をしていることだろう。かわいい。
携帯を見る。7時30分。時計、こっちでも機能してるんだな。
「おいおいガラケーかよ。情弱乙」
スマホでなくて悪かったな。電話を多くするし、外回りも多いからガラケーのほうが電池もち良いし便利なんだよ。ていうか情弱なんて言葉よく知ってたねフソウちゃん。そんなことよりも
「ごはん!あと30分!」
慌てて階下の食堂に駆けていく。おい!置いてくな!というフソウちゃんの声。慌ててドッグタグを取りに戻る。
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朝食を終え、今後の予定について考える。まずは日本から持ってきたものの確認だな。そしたらギルドとやらに行ってみたい。ハンターというからには害獣の駆除や採取が主な依頼だろう。依頼は後日に回したい。まだ足は痛むし、またフソウちゃんが力加減を間違えて追い討ちされるのも嫌だ。
日本から持ってきたもの
・腕時計
・携帯電話
・3色ボールペン
・黒のボールペン
・手帳
・印鑑
・財布
・書類
・ソーラー式USB充電器
・音楽プレイヤー
こっちの物に変換されているだろうと確認はしてみたが、そもそもろくな物を持っていなかった。朝食を食べている最中に気が付いたのだが、地味に時計がこちらの時刻に合わせてあった。芸が細かい。だがもっとこう十得ナイフとか持っていなかったものだろうか。……ナイフ持ち歩くとか中学生か。自分にツッコミを入れる。
こほん。とりあえず印鑑と書類、音楽プレイヤーはいらないな。鞄に戻す。財布は絶対。他のものは無くても困らないがあった方が何かと便利だろう。そこまでかさばるものでもなし。最初にもらった麻袋にぽいぽい放り込む。
さてギルドに向かうとしようか。その前にせめて身体は拭きたい。
「ちょっと出かけてきます」
受付のお姉さんに一言かける。
「気をつけていってらっしゃいませ!」
「ところで大衆浴場のような施設はこの辺りにありますか?」
「ハンターギルドの裏にありますよ!それと当宿でも有料ですがお湯をご用意できますよ」
「いくらですか」
「リュニヴェルスィ銅貨で2枚です」
そういうシステムだったのか。日本円で200円か。量はどれほどかはわからないが、やはり魔法があるとはいえ中世ほどの文明だとお湯も高価なのだな。
「ありがとうございました。ではいってきます」
「はい。いってらっしゃい!」
受付のお姉さんの笑顔がまぶしい。こういうやり取りも久しぶりだ。ふと日本の家族を思い出す。上京して数年。あちらに居たころはそんなことも無かったが、会えなくなると途端に寂しくなるものなのかも。
少しノスタルジックになりつつ、ギルドに向かう。昨夜は暗くてよくはわからなかったが、石造りの重厚な建物だ。けれど無骨ではなくどこか上品にまとめられている。
「ほー……すごいな。海外旅行なんかあまりしなかったけど、これほどの建物は向こうにもなかなか無いんじゃないか?写真に撮りたいくらいだ」
「おのぼりさん全開だな」
からからと笑いながらフソウちゃんがからかってくる。
「うるさい」
バツが悪くなり、早足にギルドの中に入る。まずは受付かな。
「すみません」
「はい。どうぞ」
第2街人発見。ここに来るまでにもすれ違ってはいるんだけど。それにしても日本人的な感覚なのだろうけどこちらの人は美人さんが多いな。
「この街には初めて立ち寄ったのですが、ここのギルド特有のハウスルールみたいなのはありますか?」
これぞ秘儀『システムを知らなくても自然に聞きだせる』の術!雀荘とかで有効。
「いいえ。他のギルドと変わりありませんよ」
「ということは……あちらの掲示板の依頼表を受付に持ってくれば良いんですか?」
「あ、あちらは緊急依頼や優先依頼などで、通常依頼は受付端にランクごとに冊子にまとめてあります。通常依頼の場合、依頼表に書かれている番号を受付にお伝えください」
「なるほど。ありがとうございました」
受付さんに一礼して端へと向かう。冊子をぱらぱらと捲るがまるでわからない。お、これは知ってる。
『スライムの駆除』
冒険の序盤といえばやっぱりスライムでしょ!明日早速やってみよう。今日はもうお風呂に行って寝よう。明日から本気出す。




