マスコットと異能の力
変身を終えた私をどうしようもない虚無感が襲う。
「おいっ!おい聞いてんのか!?」
ドスのきいた、けれども可愛らしい声が頭上から鳴る。意識を頭上に向けると、ポニーテイルにまとめた深紅の髪と瞳。男とも女性とも取れる中世的な顔立ちの麗人がいる。
「どなたでしょうか」
「アタシはフソウ。普段は今お前がいるとこにいる。そうだな……マスコットみたいなもんか」
今、私がいるところ?目線は頭1.5個分くらい低い。視界の左右が妙にわさわさする。下から巨大な手が迫る。
「ひィ!」
悲鳴が漏れる。
「ここだよここ。」
巨大な指につままれて目の前の麗人の顔の前に持ち上げられる。まさか。
「ドッグタグだよ。正確にはそこに埋め込まれてる宝玉だけどな」
インテリジェン○デバイスみたい!かっこいい!能力を使うと俺、アクセサリーになります。
「状況はわかったな。じゃ改めて自己紹介だ。さっきも言ったとおりアタシの名前はフソウ。んでこれが相棒のマサークル」
と鉄パイプを持ち上げて見せる。
「鉄の棒だけに?」
「下らねー事言ってんじゃねえよ。魔法のステッキだよ、ステッキ。まいいや。得意魔法は火属性。これに関しちゃ見せたほうが早いか」
言うが早いかフソウさんは魔法のステッキを腰のベルトに挿し、ファイティングポーズをとる。おい魔法のステッキはどうした。
「まずは普通の下段蹴りからな」
びゅおんと空を切る音が鳴る。振り上げられ、引き締まったおみ足が見える。うん。お手本のような綺麗な金的蹴りである。思わずひゅんってなった。格好も格好だしファイティングポーズとった時点で諦めてたけど、この魔法使い……というか魔法少女、バリバリの肉弾戦派である。
「次は魔法を使う。基本となる肉体強化・痛覚鈍化・火属性付与な。マジ狩ぁあぁあぁぁる!下段蹴りッ!!」
振り上げると地がえぐれ、押し出された空気が衝撃となり数十メートル先の木がなぎ倒される。あ、申し訳程度に足に炎のエフェクトが付いてる。これ火属性付与の効果でいいんだよね?空気抵抗じゃ無いよね?
「あ」
ごきんと嫌な音がする。振り上げた足がそのままの勢いで顔に当たる。
「っ痛~。回復魔法……」
鼻の頭が赤くなってる。なにこの娘かわいい。
「ま、まあこんな感じだな」
涙目で足の関節をハメながらフソウさん……いやフソウちゃんが言う。
「す、すごいんだね。」
失敗はスルーしてあげる。私はほら紳士だから。
「んじゃ変身を解くぞ」
今度は光が集まったかと思えばパッと元の姿に戻る。
「いだっ!いだだだだだだ!!」
突然の痛みにうずくまる。このやろう本当はすごく痛かったな。
「男のクセに喚いてんじゃねえよ。女々しいな」
痛くてすぐ変身解いたくせに言うじゃないか。声出す余裕もないけどな!まだ召還された地から一歩も歩かずにすでに瀕死の私だった。