花拳繍腿
「マサークル!リロードッ!!ダスターナックル!!」
『オールライト。カメンスィング・リロード』
鉄パイプが喋った!?どこから何をリロードするの!?
光と化した鉄パイプが二つに別れ両手に纏われる。ぱぁっと光が弾けるととフソウちゃんの両手に圏のような禍々しい形状のメリケンサックが装着されていた。グッと一回握り締めて感覚を確認する。
フソウちゃんはサラマンダーにこつんと小石を投げる。サラマンダーの意識がフソウちゃんに向く。
互いに静かにメンチをきっている。
「ああ?こらガンくれてんじゃねえぞおらぁ!」
ごめん。全然静かじゃなかった。ここでボケて!というヤマシロちゃんの声も虚しく響いている。
「こっからはアタシとアイツの喧嘩だ!他の奴は手ぇ出すんじゃねえぞ!」
その声が合図となったのか
「ヴォアッ」
「うらぁ!」
サラマンダーが巨大な火球を吐き出す。フソウちゃんはそれを正面から正拳突きで受ける。風圧で掻き消える火球。
「しょぼっくれた攻撃してんじゃねえよ!素手喧嘩でやろうぜ!」
サラマンダーに中指を立て挑発する。たぶん、言葉、通じてないと思うよ?
「お姉ちゃんもメリケンサック付けてんじゃん」
ボソッとヤマシロちゃんがツッコミを入れる。
「い、いくぞオラァ」
フソウちゃんは聞こえなかった振りをした!
「マジ狩ぁああぁぁる!下段蹴り!」
サラマンダーの顎を蹴り上げ頭をかち上げる。
「まだまだぁ!マジ狩る膝ぁ!横ぉ!間接足刀蹴りぃ!前宙かかと落とし!んで最後だ!!」
身体を仰け反らせる。
「マジ狩るッ!!頭突きぃ!!」
ごちゅという音が響く。フソウちゃんは額に擦過傷をおい、血が流れている。鱗のこと忘れてたでしょ?
「誤魔化すために6!6連打である!一瞬にして6度の打撃が、サラマンダーに叩き込まれた!」
ヤマシロちゃんが解説し始めた。
「グオォォオオォォ」
サラマンダーが苦悶の咆哮をあげるとその身体から炎が噴出す。
「くっ!」
たまらず離れるフソウちゃん。
「見ていてちょぉっと単調な気がしますね。あまりワンパターンになると読まれてしまいますよね」
距離が開きフソウちゃんの間合いから外れたのを幸いとサラマンダーが身体を捻り尻尾でなぎ払ってくる。さらに後退するフソウちゃん。
「意地の一発!おおっとこれは危ないぞ。フソウ選手は決め手に欠けている感じでしょうか」
「うっせぇぞヤマシロォ!黙ってろ!」
ついにフソウちゃんからお叱りを受ける。はぁいと黙るヤマシロちゃん。
フソウちゃんにブレスが効かないとなると互いに間合いの外だ。
じりじりと隙をうかがう両者だったが、ヤマシロちゃんとの会話を隙と判断したのかサラマンダーが突進してくる。迎え撃つフソウちゃん。
「マジ狩るっ鉤突き!」
両の拳で挟み込むようにサラマンダーの鼻っ柱を殴ると、自ら後ろに飛び突進の衝撃をいなす。
鼻を挟み込むように殴られ、悶えているサラマンダーに今度はフソウちゃんが着地と同時に地を蹴り突進する。
「マジ狩る連突き!からのぉ……」
左から振り子の様な円運動のラッシュ。正拳による連突きではない。鱗をめくり上げるような振り打ちである。弾け飛ぶ竜鱗。竜皮の下の肉が見える。
「マジ狩る鳥嘴拳打ちっ」
身体を一度沈めたかと思うと横から縦に変化した円運動でわき腹の肉を深々と抉る。
「ギャアァァアアァア」
悲鳴と共に身をよじりフソウちゃんを振りほどくと、炎を纏った剛爪で追撃する。
「あちぃなぁ!」
メリケンサックで爪を受け、下方に受け流し、ソードブレイカーを用いて手首の捻りで爪を折る。ブレスも効かず、巨体を生かした突進も効かず、爪さえ折られた。
そこからサラマンダーは反撃すらできずに一方的な展開になった。
ついに倒れ付すサラマンダー。しかしなおも反撃しようともがく。
「……喧嘩ってのはな、最後まで立ってた方が勝ちなんだ。どちらかの命を奪うまで決着じゃねえ。お前はよくやった。ここで寝とけ」
サラマンダーに声をかける。それがたとえ通じなくとも。ただの自己満足だったとしても。
「ゴアッ!」
立つのは無理だと判断したサラマンダーは火球を放つ。大きさは先ほどと比べるとずいぶん小さい。
「ちっ」
裏拳で火球をかき消す。
「打撃なんてしょせん花拳繍腿、最後に見せてやるよ……王者の技ってやつをよ」
そう言ってメリケンサックを外す。
「マジ狩る極技、アームロック」
ごきりという骨の砕ける音がした。
ずぅんという巨体が崩れる音がした。
それ以外の音はもう無かった。
次回で1章終了となります。
これを基に物語の厚みと強度を持たせた本書きを行ってからになりますので、次回更新の予定は未定です。




