涙キラ! 汗がタラ! 団結式は大騒動!!
-ハンターギルド本部・カフェテリア-
城塞都市フロン遠征の結団式の日がやってきた。団結式とはいってもギルド長の軽い挨拶のあと討伐隊を小隊単位でまとめた班割の発表と張り出し。親睦を深めるという名目でそのまま立食会の様相を呈している。
普段宿の食堂で済ませている僕にとって、並んでいる料理は久方ぶりのご馳走だった。飲み物もこちらの世界に来て初めて口にするアルコール。そう僕の気持ちはまるで連休明けのよう。早く帰りたい。
前のほうに行き班割を見てみると小隊単位で纏めたとはいえ、原則としてパーティーを分かたれる事はないようだ。まあ小隊って10~50人だしね。わざわざ分けるほどのことでもないか。一人一人の名前が書いてあるわけではなく、パーティー名が書いてある。その横にAとかBとか書いてある。僕の名前の横にCと書いてあるから、これはランクだろうか。うん。見事にBランク以上。僕以外。
B以上のパーティーの中にCランクのソリスト。完全に場違いだ。友人はおろか知人とさえ言える人間が居ない僕にとっては完全にアウェーだ。そのせいか注目されているような気がする。ああ早く帰りたい。
そもそもパーティー名書いてあってもわかんないよ。誰だよ暁の守護者って。心の中で悪態をつき、ほとほと困っていると素手で熊を倒せそうな、ザ・ハンター然とした厳ついおっちゃんが話しかけてきた。スゴイ・コワイ!
「お前ヤマト=フソウで合ってるか?」
「そうですが……なぜ私の名前を?」
びくびくしながら答える。しかし名前だけならば班割りに書いてあるので不思議ではないが、顔と名前が一致していることに訝しむ。
「ああ、お前さんはここんとこ注目株だからな。なんたってひょっこり現れたと思ったら一人で森の王を倒しちまったんだからよ。それに」
おっちゃんはニヤリと笑い
「男湯に突撃する痴女なんだってな!」
がははと笑ってそうのたまった。
「は?はぁ!?僕は男です!男が男湯に入って何が悪いんですか!」
「なにぃ!?そうなのか?だってそんな……おりゃあてっきり……。すまねえ」
「わかってくれればいいんですよ……」
確かに容姿は中性的だが、今の状態で間違われるとは思わなかった。不本意だ。このあふれ出るダンディズムがわからないのか!
「まあなんだ。向こうに俺たちのパーティー連中が居るから詳しくはそっちで話そうや」
「あ、もしかして暁の守護者の方ですか?」
「そういや言ってなかったっけな。その辺も向こう着いてからだ。行こうぜ」
おっちゃんが歩き出したのでその後に付いて行く。
「おぉい!連れてきたぜえ!」
パーティーメンバーだろう一群に手を振り大声を上げるおっちゃん。軽く会釈をすると「これが噂の……」とか「痴女……」とか聞こえる。痴女ではありません。男の子です。
「まずは自己紹介からな。俺は暁の守護者のリーダーやってるジャック=フェレオルだ。ジョブは剣士だ。気軽にジャックと呼んでくれ」
背中の大刀を軽く持ち上げながら言う。
「んで右から同じく剣士のジャン、ジョゼ、ジスレーヌ。弓はリュックとリュシアン。魔法使いがマテオ。最後に治癒術師のエリーゼだ」
挨拶をし、握手を交わす。さて次は僕か。息を整えてから言葉を発す。
「僕はヤマト=フソウです。魔法使いをやっています。他に使い魔が2人、フソウとヤマシロがいますので、僕の事はヤマトと呼んでください。よろしくお願いします」
「「よろしく~」」
「魔法使いか……。この班は人数が少ねえからできりゃあ前衛が欲しかったが……ヤマトに言っても仕方ねえよな」
そう。この班は全部で9人しかいない。小隊の最低限の人数に届いていないのだ。向こうで合流するのかな?
「あ、むしろその方がありがたいです。僕の魔法はちょっと特殊で……前衛向きなんです」
ヤマシロちゃんの魔法はわからんけど。
「そりゃあ助かる!にしても魔法使いで前衛向きってな珍しいな。戦力の把握のために見ておきたいんだが大丈夫か?」
ギルド長も特殊技能については詳しく聞いてこなかったし、そういうのは隠匿するものなのだろうか。
「フソウちゃん、ヤマシロちゃん良い?」
「私は構わないわよ」
「アタシは……ちょっと、な。でもどうせ後で見られんのか。うぅ~」
「僕はびっくりさせないために見ておいて欲しいんだけどな」
迷うフソウちゃん。あんな変身バンクだもんね。他人に見られたくないよね。
「だそうですので、とりあえずヤマシロちゃんに変身してもらいますね。ちょっと吃驚するかもしれませんが……」
「ヤマシロちゃんに変身?まあ頼むわ」
僕は詠うように言葉を紡ぐ。
「闘争・財福・冥府。尸林に住みて、血肉を喰らう。今宵も虎徹は血に餓えている」
そして例のアレ。
「っ!?」
鬼が出てきた瞬間、暁の守護者の面々は反射的に武器に手をかけて構える。さすがその道のプロ。常在戦場ですな。
「天才って見たことある?今、目の前にいるわよ。私が天才サモナー・ヤマシロよ」
変身を終え、鬼の面をつけた鎧武者が姿を現す。鎧武者からはその厳しい外見からは想像のできない可愛らしい声が鳴る。
呆然とする暁の守護者のメンバー。
「ねえ聞いてんの?私、ヤマシロっていうんだけど」
その声にはっと我に返る。
「わるい。よろしくな、ヤマシロ……ちゃんでいいか?にしてもちょっと所じゃねえよ……。すげえ驚いた。なんだあのプレッシャーは……。思わず武器に手をかけちまった」
「それはそうよ!なんたって私の鎧の原型なのよ!」
胸を張って答えるヤマシロちゃん。すごく嬉しそうだ。
「その姿を見りゃあ前衛向きだってのも納得だな。前衛を任せて良いか?」
「前衛はお姉ちゃん……フソウ姉の方かな。私は召喚術師だから。私も前衛は出来るけど」
「召喚術師か。初めて聞くな。マテオの爺さんはどうだ?」
「ワシも始めて聞くのう。老い先短い爺じゃが、後学のために見せてくれんか?」
「良いけど室内じゃ喚べるモノが限られちゃうなあ」
そう言って僕、ではなく音楽プレイヤーをいじり始める。僕も初めて見るからドキドキしている。
「これでいっか」
再生キーを押す。
『刀剣召喚』
音楽プレイヤーから機械音が鳴る。僕が喋っているわけではありません。
『ソードベント、童子切安綱』
中空から刀が出現する。ちょっと待とうか。なんで変身の文言が長曽根虎鉄なのに出現するのが童子切なの?そもそも鬼武者なのに鬼斬っちゃの?あれ?良いのか?
「こんな感じかしら。他にガード、シュート、ストライク、ファイナルベントなんかがあるわ」
「ふむ……魔力流から術式構築が……次元への干渉かの?とすればどれほどの魔力が……制御を誤れば世界が滅びそうじゃ……」
考え込むマテオさん。すごく怖いこと言ってる。
にしてもヤマシロちゃん、お前は仮面ライダーか。闘わなければ生き残れないのか。あんたもバリバリ前衛じゃねえか。しかし確かに召喚ではあるんだけど……想像していたのとちょっと違う。
「ヤマシロちゃんよりも前衛が得意なフソウってのはどんだけ強いんだ?」
「今変わるねー。じゃまたー」
電話でも変わるかの様な気軽さでいったん僕に変わる。
「え?でも」
「いーのいーの。やっちゃえ」
「うーん。一回見てもらった方が良いもんねえ。ごめん!フソウちゃん!リリ狩る!マジ狩る!あいきょうちょうそうっ!」
先ほどとはうって変わってポップ&キュートな音楽が流れる。うん。やっぱないわー。見えないだろうけれど、とりあえず股間は隠しておこう。
「……。」
餌をねだる鯉のように口をパクパクしている暁の守護者ご一行。その視線の先には涙目で赤面しているフソウちゃん。スカートを握り締めて俯いちゃった。ですよねー。なんか分かってました。
なんともいえない空気になって団結式は終わったのだった。
次回更新告知はイロイロ面倒くさくなってしまったので止めました。ご了承ください。




