華麗な変身! ニューヒロイン登場!?
団結式を明日に控えた僕は自己紹介の予習に久々にステータスを見ていた。最初にもらった冊子の最後のほうのページだ。筋力とか数値化されてもよくはわからなかったが、スキル欄に重要なことが書いてあった。
『貴方のこころの種が芽吹き、新たな戦士ヤマシロへの変身が可能になりました。変身呪文は「闘争・財福・冥府。尸林に住みて、血肉を喰らう。今宵も虎徹は血に餓えている」』
ヤマシロ……くん?さん?は災難だ。新しい力とかってピンチのときに発現するものじゃないの?日常パートで、しかもなんの前振りも無く登場だもん。ごめん。次からはこまめにステータスの確認をしよう。この悲劇は二度と繰り返してはならない!
にしても今回の文言も物騒だな。魔法関係ないし。新しい能力が開花した理由はすごくメルヘンなのに。
「フソウちゃん」
「なんだ?」
ダルそうに答えるフソウちゃん。そりゃね、ここ3日買い物くらいしかしてないしね。ダレるのもわかる。でもそれどころじゃないんだよ。
「2人目……だって」
「そうか」
「魔法少女って僕の中にあと何人いるの?」
「魔法少女じゃねえけどな。アタシ含めて全部で5人だ。言ってなかったか?」
聞いてないよ。フソウちゃんだけでもう十分じゃん。ボスレベルの魔物5行くらいで倒したじゃん。それが5人。チートってレベルじゃない。
「で?誰だって?」
「ヤマシロって人」
「ああ。あいつか」
それきりフソウちゃんは黙る。仲悪いのかな。
「とりあえず変身してみるよ」
「会ってみた方が早いしな」
さて、鬼が出るか蛇が出るか。願わくばフソウちゃんのように良い子だと良いな。
「闘争・財福・冥府。尸林に住みて、血肉を喰らう。今宵も虎徹は血に餓えている」
ワークバッグから音楽プレイヤーが飛び出す。中空に静止しし、観音開きのケースがバンッ!と開……かない。ごめん。イヤホン巻きつけてあるんだ。もうわかった。この子どじっ子だ。
シュルシュルとイヤホンが解かれ今度こそケースが開く。同時に部屋の中が黒よりも冥い闇に包まれる。頭上から無数の卒塔婆が降り注ぐ。……ここ室内なんだけどな。
卒塔婆が煌々と燃えると僕の背後にナニカが召還される。振り返ってみると巨大な上半身だけで僕の身の丈ほどはある男がいた。筋骨隆々、憤怒に塗られた形相。額には一対の角。その姿はまるで―――
「鬼だ……」
身がすくむ。まるで10年来の友のように鬼にベアハッグをされる。
「もうなんの。フソウちゃんの時にもそうだったけど……。なんなの?」
鬼の顔が徐々に近づいてくる。ちょっと!?このままだとキスされそうなんですけど!?
「近い近い近い!ストップ!なんで近づいてくるの!?」
そして接吻……ではなかった。スゥーっと鬼が身体に入り込んできた。突然の浮遊感。かしゃんと乾いた音が響く。痛くは無かったけれどびっくりした。変身、終わったのかな。
僕の居たところを見ると鬼の武者が居た。頭は鉄十枚、八間黒漆塗の厳星兜。胴は同じく黒漆塗、平札に小桜藍染韋を毛引に威す。草摺りは四間五段、下がりの仕立て。各所に花菱があしらわれている。般若を思わせる面具。そしてその腰には大小の刀が二振り。
その目はまるで伽藍堂。光は無く、虚無の如きであった。
「問おう……ってちょっと何も見えないんだけどー!?ちょっ!膝曲がんない。きゃ!」
たぶんヤマシロちゃんだろう。登場早々前のめりに転んでいた。
「いったー。なんで前後逆なの!?」
ごめん。鬼に驚いて振り返っちゃったからかも。……この変身だけでもう2回も謝ってる。本当申し訳ない。
「脱ぐからっ!こっち見ないでよね!」
「アッハイ」
もうグダグダだなあ。僕は諦観の念にとらわれる。




