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プロローグ

-現代日本-


 いつものように残業。そして終電ダッシュ。改札を通ると軽快な音楽が鳴り響く。ちゃっちゃらちゃっちゃらちゃっちゃららん♪

 ヤバイ。祈るように階段を飛び降りていく。ギリギリ滑り込むことに成功する。


『駆け込み乗車はご遠慮ください。では発車いたします』


 すみません。こちらも家に帰れるかどうかの瀬戸際なんです。大目に見てやってください。空いている席に座って、ふ~っと一息吐き安堵からか眠りこけてしまった。


『間もなく終点、きさらぎ。終点、きさらぎ。お出口は右側です。今日もご利用いただきありがとうございました』


 寝過ごしたっ!と気づいたときには時すでに遅し。仕方が無いので、きさらぎ駅とやらに降りる。しかしこのきさらぎ駅、なんと無人駅である。自動改札も無いので駅から出ることもできない。あったとしても残高が足りるかどうか。明かりも一切無い。暗闇のホームで一夜を過ごすのか……。



「すみません。お待たせしたみたいで」


 駅員さんが恐縮げに頭を下げる。


「あはは。終電で乗り過ごしてしまいまして。すみません。旧丸子からここまでっていくらですか」

「そうでしたか。あ、お金は大丈夫ですよ」

「いえいえ、ありがたいですけれどお支払いいたしますよ」

「そうではなくてですね、こちらがお呼びしたというか……とにかくお金は結構ですので」


"お呼びした"?どういうことだ?お金を払わないで良いのならありがたいことだが。


「ありがとうございます。それで始発は何時ごろになりますか」

「始発はいつになるかわかりません。どころか次の電車がいつかもわからないんです」


 電車がいつになるかわからない?ダイヤはどうなっている?


「どういうことですか。今日も会社があるのですけれど」

「"きさらぎ駅"をご存じないですか?都市伝説で結構有名だと思ったのですが。まだまだ知名度が足りないみたいだなあ」


 駅員さんは頭をかきながらぼやく。


「端的に申しますとお客様は神隠しにあったのですよ。トンネルを抜けたり、東京タワーで光に包まれたりするアレです。ここはマヨイガと言ってもいいかもしれませんね」

「神隠し!?なぜ私が!?」


 駅員さん知識が偏ってませんかね、など思うあたりまだ余裕があるみたいだ。意外。


「正直たまたまですね。偶然。交通事故のようなものです。諦めてください」


 諦めろってそんな……。


「それでお客様をお呼びした理由ですが、『とある世界を救ってください』という極めてオーソドックスかつツマラナイものです」

「そんな事……ただのサラリーマンができるような事ではないですよ……」


 なんかもうめちゃくちゃだ。うな垂れる事しかできないのか。


「安心してください。異世界召還で定番、チート能力もありますから。どのような異能をお望みですか」

「その前にどのような理由で、どう解決するのかお聞かせください」


 まずは落ち着く時間を作ろう。くーる。びーくーるだ。


「そうですよね。性急過ぎました」


 いやはやお恥ずかしい、などと駅員さんは頭をかく。頭をかくのが癖なのだろうか。おっさんが恥らう姿を見ても何も面白くない。


「まず理由ですが、魔大陸の魔力の枯渇に端を発します。魔大陸に居を構える妖魔族が人間の多く住む新大陸に侵攻しました。このまま妖魔が新大陸まで統一してしまうと世界全体で魔力が枯渇してしまいます。魔力は魔素を元に生成されるのですが、いったん全ての魔素が枯渇してしまうと生産されなくなってしまうのです。枯渇の理由は妖魔の人口増加にあります。妖魔の栄養源は魔素なのです」


 駅員さんは一息つき説明を続けてくれる。


「次にどのようにして、ですね。妖魔の数を減らしてください。一時しのぎに過ぎませんが、とりあえずそれだけで結構です」

「なるほど。ですが、その、聞いた限りだと妖魔とやらも社会を形成する程度には知能があるんですよね?」

「言葉は違いますが会話も可能ですよ」

「それはちょっと……動物を狩るのとはわけが違いますよね?動物でも嫌ですが」

「ですよねー。でもお客様に選択権はありませんよ?なんたって召還されちゃったんですから」


 なんと理不尽な!いや、いまさらだけれども。にしても異世界くんだりまで行ってヒト殺しをせにゃならんとは……。


「その世界というのはこちらで言うどの程度の文明なのでしょうか」

「だいたい中世、ヨーロッパのような町並みですね」


 それはキツい。せめて電気は欲しい。そういう異能にしてもらおうか。本気で悩む。駅員さんが気を利かせて


「魔法がありますのでそこまで不便ではないと思いますよ」


 と付け足してくれる。

 そうか!魔法という手があったのか!


「では魔法が使えるようにしてください!それとお恥ずかしい限りなのですが、素面でヒトを殺せるとは思えません。そのあたりも能力に加えていただけると」

「わかりました。ではジョブは魔法使い。能力は『メタモルフォーゼ』。これは規定の文言を唱えると戦闘用の自我と肉体強化をしてくれるものです。そうですね……鉄血○化や心の○方のようなものです。さらに武装もしてくれるので装備にお金がかかりません」


 だから駅員さん知識が。


「いたれりつくせりですね。それでお願いします」

「では。必要な道具と共に準備しておきます。良い旅を」


 そうして私は異世界に送られるのだった。

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