駄目コン
「ふぁ~、眠ィ」
「なんスか~ジュリアさんアクビなんてして~」
レジカウンターにいるマキがいやらしく話しかける。
「いや~。昨日の晩ヤマトについて調べてたら寝不足になっちまったよ」
「やまと?」
マキの頭上にハテナマークが浮かび上がる。
「おう。昔日本にあったとんでもねー戦艦の事」
「ほぇー」
関心なさそうにマキが返事をする。
「ま、そうなるわな」
ジュリアはマキのリアクションが当然のように思えた。
普通に女の子なら、今日の運勢やらお気に入りのブランドの新作やら恋愛の事なんかが興味の対象だろうし、共通の話題だろう。
しかし、今のジュリアの頭の中は「戦艦大和」の事で一杯になっている。
いや、興味の対象はそこから徐々に他の事にも広がっていた。昔の日本には「零戦」という最強の戦闘機もあった事も最近知った。
ジュリアは完全にミリタリーの深みにハマってしまったのだ。
調べれば調べる程解らない事が出てくる。まるで底無し沼を掘り返しているような感覚だ。
「はぁ~あ」
ジュリアは思わず大きなため息をついてしまった。それはマキの目に入り
「ジュリアさん!お客さん!お客さん!」
「えっ?あ!イラッシャイマセー。」
来客に気付かず、またまた新米店員の様なぎこちない応対になってしまった。
すかさずマキがフォローに入り事なきを得たがこのような事が続くとマキも参ってしまう。
「マキ、サンキュー。助かったわ」
「もージュリアさん。最近ポカ多いくないっすか?」
「だわなー。正直参ってるんだわ」
「慢心注意。ミッドウェー海戦を思い出して下さい」
「うおっ!なんだよテラっちイキナリ現れんなよ!んな事ぁおーきなお世話だし!」
「そうッスか。今日は警備からお知らせあるので参りました」
そう言うと寺田は一枚の紙をジュリアに手渡した。
「あー、アレか。消防署がくるヤツね」
「そうです。消防訓練のお知らせです」
そういうと寺田はそそくさと出ていった。
「ジュリアさーん。なんスかソレ」
「そっか。マキは初めてか消防訓練」
「うげっ!ソレってなんかイカツイ事する系?」
「まー、そんな感じかな?」
オルタのように不特定多数の人間が出入りする商業施設は火災や地震に備えて年に一回所轄の消防署立会いのもと避難訓練の実施が義務付けられている。
超大型の商業施設の場合ニュースとかでも目にする事がある。
小学校とかで行う避難訓練と内容的にはあまり変わり無いが実際に訓練用の消化設備を扱うので少々本格的だ。
「訓練かぁ…大和のダメージコントロールは凄かったみたいだしなぁ」
またまた遠くを見てため息をつくジュリアを見てマキは一抹の不安を感じるのだった。
休憩時間、ジュリアは屋上で缶コーヒーを煽りながらスマホで大和の事を調べていた。
「はぁ~あ。目新しい事はネーなぁ~」
そう呟くと座っていたベンチにゴロンと寝転んだ。すると隅の方に設置されている消火器が目に入った。
少し気になったので消火器に近づいてジックリ眺めた。
「大和は二酸化炭素で消火する設備があって、それのおかげでサイダー飲めたんだよなー。」
「アンタ、約束のタイ焼きどーなったの?」
後ろから行き成り話かけられたジュリアは思わず
「うおっ!なんだよビックリするじゃねーかカヨ!!」
「ずいぶんねぇ~。最近やらかしてばっかりってマキちゃんがボヤいてたわよ~」
「ったく。マキのヤロー」
「ま、別にタイ焼きじゃなくてもいいけど♩」
カヨはそう言い捨てると店内へ通じる階段を下っていった。
「大和も気になるけどアイツらの事もなんとかしなきゃなー」
ジュリアはそう言うと頭を掻きながら屋上を後にした。