クローズ!!
オルタの店内に「蛍の光」が流れ閉店の20時30分になった事を知らせる。日本の商業施設は大なり小なりこの音楽で一日を締めくくる。
この音楽がなると各ショップはレジ締めを始め今日一日の売り上げを集計する。
「はーっ。今日も終わった終わった。あーお腹空いた。ねージュリアさん何か食べに行きましょうよ~」
「あー、ワリィ。あと私がやっとくからマキはもう上がっちまいな。」
「ぇ~バイクで送ってもらおうと思ったのに~」
「また、今度な」
マキは少し不機嫌そうな表情をみせたがペコリとお辞儀をして店を後にした。
「あー!マリっちー!ご飯行こうよー」
店員用のエレベーターからマキの声が聞こえる。どうやら他の店の店員を捕まえたらしい。
「さてと…」
ジュリアは先程中断したレジ締めの作業に再び取り掛かる為視線を手元に落とした。しかし再び人の気配を感じたのでマキがまた戻って来たかと思い
「マーキー、また忘れ物か?」
と、視線をそのままにして言った。
「チョット。忘れものしてるのはソッチでしょ」
と予想外の声がしたので頭を上げた。そこにはエプロン姿の女性が立っていた。細身で化粧っ気のない顔にアゴの所まで伸びた黒い髪。オシャレなのか単なる髪留めなのか赤に白ドットのヘアバンド。それに黒ぶちメガネ。チェック柄のネルシャツにジーンズ。
どうひいき目に見てもオシャレではない。それもその筈、彼女は6階の書店『文学堂』の店員、加藤かよ子なのだ。
「げぇっ!?カヨかよ!なんだよ!」
「なんだよじゃないわよ!あんたが頼んだバイクの雑誌取りに来ないから持って来たんじゃないの!」
「あー…。それこの間立ち読みしたらあんまいい記事ないからイラネーや」
「はぁ!?女ばっかりのオルタでこんな雑誌売れると思ってるの!?売れなきゃ返本じゃない!全くもう」
「ワリィ。今度裏のたい焼き奢るわ」
ジュリアは両手を合わせてカヨに詫びをいれた。
「ったくしょうがないわね。幼なじみのよしみでそれで手をうってやるか。アンコとカスタードね」
「了解、了解、給料入ったらな。ところで地下3階の出納もう行った?」
「行く途中にあんたンとこ寄ったの」
「じゃ一緒に行こーぜ」
そう言うとジュリアはメットとゴーグルを鷲掴みにして片手に店の売り上げと寺田から借りた本を脇に挟んで店を後にした。
ジュリアに似つかわしく無い本がカヨの目に止まり。
「あれ?それと一緒の本。警備の寺田さんウチで発注して購入したわよ」
「へーこれカヨん所で買ったんだ。」
「あの人はアンタと違って、いる物しか買わないから助かるわ。しかも専門書って高いのよ」
「ふーん。高いモノばっかり買って行くんだ…なんだかキャバ嬢に貢いでるオッさんみてー。つーかテラっちカヨに気があンじゃネ。」
「チョっ、何$*%☆」
顔を真っ赤にして照れるカヨとニヤニヤしているジュリアを店員用エレベーターは飲み込んでいった。