the new world
ジュリアとマキを乗せたバイクは東京タワーについた。適当な所にバイクを止めると笑い転げながらバイクから降りた。2人共ハイタッチを決めると
「あははは!決まりましたね!ジュリアさん!」
「おう!決めてやったな!」
「あ!あそこにクレープ屋さんがある!買ってこよーっと」
マキは小走りに店舗のある所へよっていった。ジュリアはそれを見届けると備えつけてあるベンチに腰を降ろした。
そこへクレープを買い付けたマキがよって来てジュリアの横に座る。
「はい!これはジュリアさんの!私のおごり!」
「サンキュー。なんか気ィ使わせちまって悪ィな」
マキは首を左右に降りながらジュリアにクレープを渡すと少し落ち着いた様子で
「夜の東京タワーって綺麗ですね。お店と家の往復じゃこんなの解らないですね」
「そうだな」
「こうやってボンヤリ見てるとまだまだ私の知らない世界っていっぱいあるんだな~って気がしてきます」
六本木でド派手なパフォーマンスとは打って変わりしんみりとした雰囲気になってしまった。
東京タワーを見上げているマキの横顔は店にいる時のハイテンションなギャルの感じでは無く、良家のお嬢様といったような感じで、その眼差しからは知性を感じるほどだ。
いや事実、彼女は良家のお嬢様なのだ。
東京生まれの東京育ちで厳格な家庭で厳しく躾けられ今もなお実家通いをしている。そのためマキは東京に長い事住んではいるが夜の顔をあまり知らない。
繁華街をうろつくなどもってのほかで親の嫌がる事、好まない事を避けながら今まで生きてきたのだ。当然、学生生活も蛋白に過ごして来た事もあり友達と夜通し遊びまわるという事をしたことがないのだ。
相手の顔色を極端に伺う性格になるのは当然のなりゆきだろう。
ただ上原店長はそんな彼女の性格こそが将来接客業において武器になると踏んで親に直談判してまで入店を取り決めたのだ。
初めて世間に自分の存在が認められたインピダンスが彼女にとって唯一の世界。アイデンティティなのだ。
そんなマキの生い立ちを思い出してしまったジュリア。自分の少し落ち込んでいる心情を悟られまいといきなりクレープをガッつきはじめた。
急変したジュリアの態度に驚くマキを横目にまだ口の中に残ってる
クレープを飲み込みながら
「マキ!次行くよ次!」
そう言うとマキの腕をつかんだ。
「え!?」
なすがままにバイクのリアシートに収まるマキ。
東京タワーの静寂を打ち砕くかの如くバイクのエンジンを始動するジュリア
「ジュリアさ~んどこいくスか~!?」
「タダで入れる遊園地!!今夜はとことんお前の知らない世界教えてやる!」
マキの返事も待たずにジュリアはギヤを入れバイクを発進させる。
半ば強引に付き合わされているマキだがその表情に不安さはなく、まるで駆け落ちを望んでいた花嫁のような感じだ。
東京タワーの駐車場を抜けると首都高速環状線の高架をくぐり第一京浜へと接続した。芝浦のオフィスビル群にバイクの排気音が響きわたる。
照明が消えてひっそりとした感じのするビルが立ち並ぶがそれがかえって荘厳な雰囲気を醸し出し、新宿の混沌としたネオン街しか見た事のないマキにとってはとても新鮮に写った。
そして品川の高層ビル群を左手に見て第一京浜をひたすら神奈川方面に向けて爆走するジュリアのバイク。
途中ナンパ目的でよってくるビッグスクーターの2人組の男性や、免許証取り立てで粋がってる高校生のネイキッドバイクやらが絡んできたが客あしらいで鍛えられた2人の話術には敵うはずもなくすべて撃沈、撃墜となった。それでもしつこく追いかけてくる輩にジュリアは「中指」の機関砲弾を食らわせて巧みなライディングテクニックで巻いていった。
そうこうしてるウチにバイクは環八に当たりそこを左折した。
しばらく行くと東京とは思えない位閑散とした景色が広がったがそれもつかの間、耳をつんざくような轟音が2人を襲った。
ゴーっという地鳴りのような音にキーンと耳鳴りのような高周波音が混ざりあった音だ。
マキは初めて聞くその音にビックリしたがそれが自分の頭上から聞こえてくるのが解ると新たな興奮に襲われる自分を隠せなかった。
「ジュリアさん!!飛行機!!飛行機!!あんな低い所飛んでる!!」
ジュリア達を乗せたバイクは今羽田空港に向かっていたのだ。




