たまんねーよ!!
いよいよ太平洋戦争のコーナーに差し掛かった。
入り口のゲートには大東亜戦争と書かれてありカヨが不思議そうな面持ちで見ていた。
「なんかタブーに触れる感じだな…」
ジュリアもえもいわれぬ感情を抱いてるようで、心なしか足取りが少し重たそうだ。
真珠湾攻撃のコーナーでカヨが
「ねぇ、コレって歴史の教科書に出てくるやつ?」
と、聞いてきた。
ジュリアは戦史の年表を見ていたがカヨが指差す書類の様なものに目を奪われた。月日が経ちセピア色の用紙に手書きで文字が羅列してあった。一目見ただけでは解らないが良くみると
「マジかよ。ニイタカヤマノボレヒトフタマルハチの電報じゃねーか…宛先がGF長官って、山本五十六の事か?」
電報を食い入る様に見てるジュリアの横でカヨが呟いた。
「なんかこの紙切れが日本の歴史を変えたと思うとチョット恐いわね」
「そうだな…」
カヨの一言に我に返り同調するようにジュリアは返事をした。その瞬間自分の中にある何かが音をたてて崩れ去るような気がした。虚しさというか寂しさというか何か例えようの無い気持ちが心を侵していった。
全てを見終わり再び靖国神社の大鳥居の前に来た2人。境内を夕陽が染め上げていく。昼頃に入館してからかなりの時間が経っているようだ。
「戦艦大和のタマってーの?物凄く大きいんだね。私ビックリしちゃった」
「あぁ…」
何か魂が抜けたような感じになってしまったジュリア。
「特攻隊の人達かわいそうだったね。お嫁さんの代わりに奉納されたお人形とか」
「ああ…」
ジュリアの虚しく力の無い返事が続く。
「ねぇ」
「チョット待ってくれよカヨ!気持ちの整理がつかねーよ!」
突然声を荒げるジュリア。少し驚いた表情をするカヨ。
「自分では解ってたつもりだったけどこんなにキツいモンだと思っても見なかったよ!遺書に書かれたサヨナラが…もう二度と会う事の無いサヨナラなんて!…キツすぎるだろ」
ジュリアはカヨの目線から反らすように顔を下げた。
「あんた…」
そう呟くとカヨはジュリアの右肩にそっと手を置いた。その手を両手で強く握るジュリア。
小刻みに震えるその指先、彼女の中にある抑えきれない感情がそこから滲み出ているような感じがした。
「だってよ、私達より若い人達が零戦に爆弾括り付けて…。しかもその爆弾が5号爆弾っていって500キロもあるんだぞ!グラム単位で軽量化された零戦に500キロの爆弾積んでくなんて無茶苦茶すぎるだろ!スペックどうりの性能どころの話しじゃねーよ!飛ぶのがやっとだよ!おまけに米軍はレーダーで特攻隊の位置丸わかりで戦闘機が待ち伏せしてたんだぞ!運よく戦闘機の群れを潜り抜けてもその後はコンピュータで弾道計算された砲弾の嵐が待ってるんだ!使ってる弾だってVT信管つって敵機の目の前で自動的に爆発する特殊なヤツだ!それで特攻隊は軍艦に近づくことさえ困難になったんだ!大和の主砲が幾らデカくてもハリネズミの様に機銃設置しても人力の弾幕じゃ航空機からの攻撃は防ぎきれなかったんだ!米軍は航空機の恐怖を序戦で徹底的に思い知らされたから国を挙げて有効な防御方法を開発したんだ!皮肉なモンだよな!航空機の有効性を世界に知らしめた帝国海軍が最後には航空機で壊滅状態まで追い込まれるなんてよ!たまんねーよ!つれーよ!」
「あんた…ひょっとしてずっとガマンしてたの?」
目を固く閉じたまま肩を震わせながらジュリアはうつむいている。
「なんか…ここで…逃げたら特攻隊の人達…。戦争で死んだ人達に悪いような…気がして…」
嗚咽混じりにジュリアがカヨに心中を告げる。
上げた顔は涙で濡れていた。




