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薔薇のクリスマス(1)

序章

 よく晴れた日の昼下がり。一人の若い男が警備員のような格好の男性と一緒に扉から出てきた。男は上に無地の黒いTシャツ、下にジーパンといったラフな格好に、右肩にバックを持っていた。辺りには人影はなく、男が出てきた場所は高い塀で埋め尽くされていた。

「お世話になりました…」

そういって若い男は警備の男性に頭を下げた。

「もう二度と来るなよ」

警備の男性は一言いうと、塀の中へと戻っていった。

「……」

一人取り残された若い男は、特に振り返ることもなく空を見上げた。普通の人間には何の変哲もない空だが、男にとっては八年ぶりの太陽だった。

…そう、男は刑務所という檻の中から解放されたのだった…


第一章

 始業式から三日後、如月伊織はクラスにおいて、誰からも好かれる女の子という立ち位置を得ていた――当然のようにそういった彼女の周りには休む間もなく人が集まっていた。

パッチリとした二重の双眸、すっと通った鼻梁、若干丸顔気味の整った顔立ちで、肌は白く澄んで潤いに満ちている美少女の顔立ちはクラスの男子を惹きつける。その上、いつも笑顔で人あたりの良い性格は異性だけでなく同性の注目も集めるのだった。そんな彼女の左隣に位置する俺の席一帯も彼女の取り巻きで埋め尽くされている。しかし俺は一度もこの取り巻きの一員として活動することはなく、彼女をよそに一冊の本に集中しているのであった。そんな中、テンションの上がった女子生徒の一人が、弾みで俺の方にぶつかってきた。その反動で手にあった俺の本は放り出されて地面に落ちたのであった。

「…おいっ」

俺は低い口調で彼女を威嚇した。ぶつかってきた彼女もその事態に気づいたようで申し訳なさそうな顔でこちらを向いたのであった。しかし、そんな彼女の様子を気にすることもなく

「何してんだよ、早く本拾えよ」

その声に周囲にいた取り巻きたちが一瞬で静まり返ったのであった。彼女は怯えるようにして、落ちた本を拾い上げ、俺の机に置いた。

「す、すいません」

怯えた声で彼女は誤った。しかしそんな彼女を気にすることもなく、本を手に取り、俺は教室を後にした。――そう、俺はクラスにおいて関わってはいけない存在として認識されていたのであった。


 教室を後にした俺は屋上へと向かった。静かで人が来ない屋上は読書をするには最適な場所であった。俺はそこで読書をしながら終業のチャイムがなるまで過ごした。

その日の放課後の夕暮れどき。まだ始業式から日が浅いため授業は半日で終わっており、学校に残っているものはほとんどいない時間帯だった。屋上で時間をつぶした俺は静かな廊下を通り、荷物を取りに教室に戻るのであった。教室の扉は開いており、俺は教室内に視線を向けるのであった。誰もいないと思っていた視線の先には一人の生徒の姿を捉えたのであった。俺の席の隣に座っているそいつは、いつもの笑顔を浮かべることはなく、うつろな表情で前を向いていたのであった。しかしそんないつもと違い彼女を前にしても俺は気にすることなく自分の席へと帰っていったのである。

「……」

俺は机の横にかかっている荷物を手に取り、教室をあとにした。しかし、そんな俺を呼び止める声が反対の扉から聞こえたのであった。

「君達、丁度いいところにいた。ちょっと人手がいる仕事を手伝って欲しいのだが」

スーツ姿の青年は血相を抱えてこちらに問いかけたのであった。彼の声に反応したのは教室にいた彼女だった。

「どうしたのですか?村山先生」

いつの間にか平静な表情をしていた彼女は村山先生に問いかけたのだった。

「おおっ、如月か。今、明日行う新入生統一テストの問題を印刷しているのだが、印刷機の調子が悪くホチキス止めがされていないんだ。だから悪いんだけど手伝ってくれないか」

先生は困った表情を浮かべながら彼女にお願いするのであった。

「いいですよ」

彼女は嫌な顔一つせずに快く引き受けたのであった。

「おお、そうかっ。では職員室に来てくれ。……そちらの君もどうだろうか」

話は俺にもふっかけられた。当然そんな面倒なことをする気がないので俺は教師の声を無視して教室を後にした。しかし、教室を出た瞬間一人の初老に声をかけられた。

「おお、錦織君。君も手伝ってもらえないだろうか」

その声に聞き覚えのあった俺は初老の方を振り返った。

「……海原先生」

海原先生は一年の時の学年主任であり、あの事件の時も必死にかばってくれた。今俺がここに居るのは彼のおかげでもある。

(まああのときは退学でも気にしなかったのだが……)

「海原先生はそこの彼と知り合いなのですか」

村山先生が横から割って入ってきたのであった。

「村山先生、彼も手伝ってくださるよ」

こちらの意見も聞こうとせず話を進められた。

(この人には世話になったししょうがないか)

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