第二十九話
次回更新は28日です。
今私は、ヴァンクルーズ侯爵家正面玄関前にいます。豪華で大きな馬車が止まり、扉からカーディナル殿下が降りて来ました。いつ見ても凶悪な顔ですが本人は笑ってるつもりだと思います。周りに理解されていないのが気の毒ですね。
「シリスティア嬢、すみません!待たせてしまいましたね。」
そんな事はないですわ。唯、余りにも大きく豪華な馬車に、吃驚していただけですわ。
「いいえ、そんな事はありませんわ。」
今、凶悪さが増しましたわ。多分微笑んでいらっしゃるのでしょう。
「あ、あの、お、お綺麗ですね。」
え!真逆のお世辞!いや、嬉しいですが…そんな事が言えるなんて思っていませんでしたわ。
「ありがとうございます。侍女のリリー達のお陰ですわ。」
お礼を言うと、益々凄味が増しましたわ。微笑む度に凶悪化するのは、気の毒としか言えませんわ。
「馬車にどうぞお乗りください。気に入ってもらえると良いのですが。」
気に入るとかの問題ではなく、こんな豪華な馬車に乗る事など滅多にないと思いますわ。
「ええ、ありがとうございます。お世話になりますわ。」
中に入ると色取りどりの可愛いクッションが一杯ですわ。素敵ですわね。
「まあ!素敵!可愛いクッション!もしかして、カーディナル殿下が選ばれたのでしょうか?」
ふふ、冗談を言ってみましたわ。
「はい、貴女に気に入ってもらえそうな物を、時間をかけて選びました。」
え!嘘でしょう!お店の人達や商人は冷や汗ものだったに違いありませんね。それも時間をかけてなんて気の毒に。その光景が想像できますわ。
「センスがいいですわね。座ってもよろしいかしら?」
でも、可愛いクッションに罪はありませんし、座らせてもらいますわ。
「どうぞ、お好きな場所にお座りください。」
窓際の可愛いクッションを選びました。すると何故かカーディナル殿下の顔の凶悪さが今迄で一番になりましたわ。
「このクッションが一番気に入りましたわ。」
と言いますと、何故か首を縦に頷いて満足そうです。
「私もそれが貴女に一番似合っていると思っていました。」
え?趣味が一緒!だったら、ライ達とリリー達の戦闘用の服気に入るかしら?
「ありがとうございます。趣味が一緒ですわね。」
今から舞踏会に出発です。この笑顔を見ていますと、近付く勇気のある人はいないと思えますから、かえって良かったのかもしれません。