グラスフォルダー王国陛下と王弟殿下side
次回更新は27日です。
今一人の男の所為で、国が危機に陥るかもしれない状況に、立たされつつある。この国の王である私は決断を迫られていた。話しを聞いていた弟が意見を提案してきた。
「兄上、私に任せてください。王女の事は、私がどうにかしますよ。」
私はこの国を平穏にするためなら何でもする。
「しかし、どうすると言うのだ!あの男の所業を帝国が知ったら、烈火の如く怒りまくるぞ!」
ああ見えても帝国は王女を大事にしている。だから無理を通すために、不利な条件を呑んだはずだ。
「心配しないでください。王女は私が娶りますよ。」
王女を操り、子供でも生ませてこちらに有利に運んでみせる。
「……いいのか?今まで結婚も許さず、子供を持つ事も許さなかったこの国を、守ってくれるのか?」
継承争いを避けるため、弟には辛い生活ばかりを強いた貴族共のいる国を守ってくれるのか?
「兄上、恩返しですよ。私は兄上のお陰で最愛の人と娘を授かりました。名乗り会う事ができなくても私は幸せだったのです。」
兄上には秘密の愛を守って頂いた。彼女が亡くなるまでの五年間幸せだった。この事実を知るのは兄上と彼女に忠誠を誓った侍女をしていた者だけだが、今は娘の侍女を務め守ってもらっている。娘は私の事を叔父だと思っているが、それでも構わない。幸せに彼女の分まで生きて笑って欲しい。
「しかし…」
最愛の人を亡くした弟に何も言えない。あの彼女を亡くしたあと荒れて、数年間遊学と称して旅立った弟に。
「兄上!私の人生は終わったのです。彼女を失った時に。後できるのは、娘のいるこの国を守るだけなのです。兄上には感謝しています。兄上の第二妃として、嫁いできた彼女と目があうと同時に一目惚れした二人を知った兄上は、私に彼女を譲ってくださいました。秘された関係でしたが娘は王女として兄上に大事され、好きな男の元に嫁ぐ事ができました。」
そうだ。娘が幸せになれる相手を探してくれていたが、娘が好きになった相手に嫁がせてもらった。
「それはサイラスに辛い生活を強いた私が、たった一つできる事をしただけだ。」
あの頃の私には貴族達の反対を押し退ける力がなかった。
「それでも、王妃であり愛する義姉上にも言わず、自分の子供として娘を大事にしてくださった。兄上、娘の幸せを守らせてください。」
兄上には何も咎はないのだから。責めてこれぐらいの事はさせてください。
「…すまないが、頼む。」
弟の言う通り打つ手がないのは本当だ。すまない。
「それから、あの男をこれ以上生かして置くことはできません。私が、今度雇った者に消させましょう。」
兄上を苦しめるあの男は生かして置けない。娘の嫁ぎ先のプリウラス侯爵家に迷惑をかけられては困る。
「できるのか?他の者に知られる訳にはいくまい。」
この国の暗部に頼めば、他の者に多分知られてしまう。争いを生む原因となる。だから他に頼むしかないのだ。
「ええ、古くからの知り合いです。腕は確かですから大丈夫ですよ。事故死にでも見せかけて、消してもらいますよ。」
そう、遊学した時に偶然知り合った。馬鹿もやったが、雇い主が死んで自由になった彼を、雇う事にしたのだ。私は兄上と娘を守る事ができるなら悪にもなれるだろう。