ラウネス伯爵夫人(帝国王女)side
次回更新は25日です。
私は恋をしたのです。隣国使節団にいたアルバート・ラウネス様です。真面目に仕事をする姿を、好きになったのでした。私は恋に夢中で周りが見えなくなり、どんなに反対されても彼と結婚したかった。
「お父様!お願い!彼の妻になりたいの。」
彼もそれを望んでくれているの。その期待に応えたいの。
「しかし彼は妻帯者だろう。無理を言うのではない!お前に相応しい男は別にいるはずだ。」
彼は奥様を愛していない。両親が勝手に決めた縁組だと言っていたわ。
「そうだぞ、彼のような男には直ぐに裏切られるぞ」
そんなはずないわ!美しい私は愛されているはずよ。
「お兄様は黙って!私はお父様にお願いしているのよ!」
お兄様の馬鹿!お父様にできないことなど、あるはずないわ。
「彼は私の方が好きなのよ!噂でも政略結婚で妻を愛していないと誰もが言っていたわ。」
そうよ!私が助けてあげないといけないのよ!彼が待っているわ。
「そんな無理が、父上でも叶えられる筈がないだろう!無茶を言うのではない!」
お兄様の言う事なんて信じられないわ。
「そんな事あるわけないわ!お父様にお願いして、できない事など今までなかったわ!」
お父様、お願いを叶えて欲しいの!
「そこまで言うなら願いを叶えてもいいが……二度とこの国に戻ることは許さん!」
やっぱり!お父様に不可能はないのね。ありがとう!
「お父様!ありがとう!私きっと幸せになるわ。」
彼に報告しないといけないわね。きっと喜んでくれるはずだわ。
「ハルアット!グラスフォルダー国と連絡を取り、兼ねてから言われてた案と引き換えにアリエンヌを嫁がせる。細かい条件を決めるぞ!」
お父様に任せておけば、安心して彼の妻になれるわ。
「…父上、分かりました。この国に在住しているグラスフォルダー国の外交官に連絡を入れます。」
私はお父様に、無理を言って彼に嫁ぎました。しかし夢に見た生活はほんの少しの間だけでした。彼には山ほどの愛人や恋人が沢山いたのです。しばらくすると屋敷に帰る時間が遅くなり時には帰らない時もあったのです。
パーティーや、夜会に招待されていたのですが、初めは優しいことを言っていた人達の様子が、徐々に変わってきたのでした。
「ラウネス伯爵夫人、もう少し淑女らしくなさったらいかが。声を荒げて殿方を罵倒するのはおやめになった方がよろしくてよ。」
「可哀想なアルバート様、美しさしか取り柄がない貴女に振り回されて損をなさっているわ。」
「そうよね、元奥様の方が治癒を使えるそうで凄い使い手だそうよ。比べ物にならないわ。」
嘘よそんな事は聞いていないわ。今更何故なの?お父様には何も言われてないわ。
「元奥様は私達がアルバート様と一緒いても、文句なんて一言も言われないわ。」
私はアルバート様が望まれたから妻になったのよ!多くの人達の悪意の言葉に、傷付いた私はテラスの影で泣いてしまったわ。
「大丈夫ですか?」
後ろで声が聞こえました。私はそっと涙を拭い答えました。
「いえ、なんでもありませんわ。お気になさらないでください。」
振り向いて答えると王弟殿下がいました。優しく微笑んで様子を気にしてくれます。
「大丈夫ではないようですね。貴女を泣かすとは伯爵は馬鹿な男だ。」
その長い指先でそっと涙を払われました。こんな優しい仕草を、人にしてもらった事などなかったわ。思わずまた涙が溢れてきて今までの事を何故か話てしまいました。
「私は、お父様に頼めば別れられるかもしれないとアルバート様に言われたの、喜んでもらえると思って頑張ったわ。結婚できれば幸せになれると思っていたのに、現実は違ったみたいですわ。」
そう、浮気者だった。何度言っても駄目だったわ。ヒステリックになる度に彼の気持ちが冷めていったわ。
「アリエンヌ姫、そう呼んでもいいですか?もちろん誰もいない時だけですが。」
その呼び名で呼ばれるのは懐かしい。何年も呼ばれていないみたいに感じるわ。この国に友達も知り合いもいない私を、名前で呼んでもらえるなんて嬉しいわ。
「ええ、構いませんわ。…貴方みたいな人と結婚すれば良かったかもしれないわ。お父様にもっとアリエンヌに似合う男がいると言われたのに……人の者を欲しがった私への罰かしら。」
人の旦那様を盗んだ者への報いなのかもしれない。私は二度と国に帰らない事をお父様に約束したわ。寂しい生活をしていくしかないのね。
「貴女が望むなら私がアリエンヌ姫、貴女を幸せにいたしましょう。」
本当に?我儘な私でもいいの?貴方は卑怯な事をして、人の旦那様を取るような女でも許してくれますの?
「私のような馬鹿な女でもいいのですか?」
彼をみると微笑んで頷いてくれましたわ。涙が溢れて止まらないわ。
「可愛いですね。今まで兄である陛下の跡継ぎが、大きくなるまで結婚できませんでしたが、今なら大丈夫ですよ。」
王弟殿下であるサイラス様が言ってくれました。元々自分が貴女に結婚を申し込むはずだったと、先をこされてしまいましたがね。と言って微笑んでくれました。貴女を幸せにするのが伯爵から私になっただけだから、心配は要らないと言ってもらいました。今度こそ幸せになれるのですね。