プロローグ
「フウウゥゥ……! これこれ、これが欲しかったんだ……!!」
私はその日、いつになく浮かれていた。
夏休み、私は友人を伴い夏コミに来ていた。
両腕には大きな紙袋が二つ、友人の腕には四つも下げられていた。
その中身は――――――――――BL本(R18入)だ。
そう、私達は生粋の腐女子なのである!! 腐り果てていると言っても過言でもない。
BLが無ければ生きていけないと思っている。
「ああ重い! でも、コレであたしは夏休み中干乾びずに済むわ……!! BL分補給できるわ」
「ハッ、そのまま干乾びろ。そしてその紙袋をよこせ」
「嫌だよ。鬼畜にやるものですか!」
「チッ」
「酷い!」
私はそこまで鬼畜ではないはずだ。ただドSなだけで。
ひどい言いがかりだ全く。
そんな軽口を叩き合いながら、私達は駅へと急ぐ。
夏真っ只中に日傘もさせずに歩くのは結構キツイ。日射し暑いんだよ!!
「……あー、やっぱり男に成りてー……」
「またぁ? 何処からその発言に至ったの?」
「男だったらこういう重い荷物フツーに持てるだろ? だからさー……」
「ああ……」
別に私は女なのが嫌なわけじゃない。可愛い小物やフリル、女の子らしい服装だって好きだ。
ただ、男に成りたいなぁと思っているだけ。
だから、男物の服だって全然いいし、カッコイイ物、カワイイ物、どっちも好きなんだ。
口調が男っぽいのもそのせい。時々、「女の子なんだからそんな口調じゃダメでしょ? もう……」なんて母さんに言われるけど、治す気はさらさら無い。ごめんよ、母さん……。
でもね母さん、腐女子な時点でもうダメな気がするよ。
「あんた中性的な顔してて、男物も似合うからいいじゃない」
「んー、そうなんだけどな」
「否定はしないんかい」
懸命に足を動かしているうちに、駅前の交差点に差し掛かった。
ああ、駅まで凄く遠く感じるぜ……!
信号が青に変わる。
信号待ちの集団に少し遅れ、私達も交差点を渡り始める。
「ま、待ってよ……! アタシ紙袋四つも持ってるんだから!」
「フハハ、軟弱ゥ! 自業自得だ! そんなに買った自分を恨むんだな」
友人が頑張って出せる速度で私に追いつこうとする。
私は若干歩く速度をゆっくりにしてやった。と、紙袋が本の重さに耐えきれなかったのか、片腕にかけてあった紙袋が盛大に破れてしまった。
「うわ、ヤバイ。早く取らないと……」
「ははっ! あたしは一足早く渡り切っちゃうわね!」
たったっと友人が私の横を通り過ぎる。拾ってくれないのかよ!
紙袋は取っ手と袋部分も破けてしまったが、人様には見させられない物もあるため一応袋に入れて拾っていく。
あ、あんなところまで行くなんて……面倒くさい!
交差点に近いところに、一、二冊飛んでいってしまっている。
私は本を取ろうとそこに手を伸ばし――――――――――――――――
キイイイィィィィィィ!!!
「え?」
目の端に黒い色が見え、
ドンッッッッ
体にとんでもなく強い衝撃が走り、私の意識はブラックアウト。
遠くで、友人の悲鳴が聞こえた。