浩一
雨は嫌いだ。濡れるのはもちろん、匂いも嫌いだ。いつもより少し遅く帰宅した浩一だったが、私をリードに繋ぎ、傘をさしながら堤防の方に歩き出す。雨は嫌いだが、浩一と出かけるのは嫌いじゃない。
――くっそお
浩一の思いが私の頭に響いた。何かに怒っているようだ。俯き加減に足を進める彼の顔を覗いた。
――ったく、なんで俺が
今にも泣きそうな、でも泣くもんかといった浩一の思いは、私の頭の中さえも熱くした。
堤防を上がると眼下にいつもより激しく流れる川があった。軽く驚きを覚えていた私は浩一につい引っ張られる形になった。
雨に煙るなか、足を向ける先に数人の影が見えた。浩一はそこに向かっているらしいが、近づくにつれ、浩一の思いがさらに私の頭を熱くした。
浩一と同じ歳くらいの三人の少年がなぜかニヤついて、こちらを見ていた。いや、その後ろにもう一人、見たことのある顔があった。
――へっ、やっと来やがった
――さっさと来いよ、バ~カ
――ちゃんと、持ってきたんだろうな
どろどろとした黒い液体のような声が、頭のなかに入ってきて、私を怖がらせた。こいつらに尻尾を振るようなことは絶対に来ない、確信できた。