詭弁と誤魔化し
さて、どこから説明すれば良いか。
まぁ、我々、魔物業界、特にスライム業界でスライムはいろいろな分類に分かれる。
大きく分けて三つ、として置こう。
一つは僕達、スライムABCコンビのように徒党を組んで戦う、という分類だ。仮に徒党組と置く。
この徒党組は一番、効率がよいとされるコンビであり、一番の利点は数撃てば当たる、という道理で勇者討伐率が多いのだ。
だが、これは勇者が最初に現れる、つまりは勇者が弱い時期でしか有効ではない。
勇者が強力な武器を手にしたり、殲滅型の術を覚えてしまえば一瞬で僕らは吹き飛んでしまうからだ。
二つ目。これは世渡り上手なスライムが多いが、比較的強い魔物に取り入ってその傘下に加わる事である。これを傘下組としよう。
これはどの地方でも有利ではあるが、取り入る魔物が悪かったり、もしくは勇者が弱い者から倒す主義であった場合などを考えると、かなりリスキーだ。
だが勇者が強大になってからはこの手段が徒党組よりも良い。
少なくとも、生き残る確率は高いだろう。
中には下克上を試みるスライムもいるので、出世の野心があるスライムが多く取る手段だ。
三つ目。これは普通のスライムからは考えられないやり方。
それは一匹で勇者を仕留めようとする剛胆なスライムである。これを一匹狼組と置く。
これは言うまでもなく、一瞬で蹴散らされるリスクも高いし、第一、こんな手段をとるスライムはまずいないと呼ばれる。だが、後を絶たないのだ。
それは下克上に成功したスライムや誇りを持つスライムなど様々いる……が、敢え無く蹴散らされる。
しかし、生き残るスライムはわずかにいる。
それは何故か。
それは本当の実力者であり、その風格を持つスライムだ。
勇者はそれを知らずに戦いを挑み、破れることが多い。
そして、敗走するそうだ。
そう、今、僕の目の前にいるスライムDもその実力者であり、勇者を追い払った数も一桁を優に越えている。
第七のボスも雇い、結局、勇者を仕留めたそうだ。
ここにいるということは、第一のボス、ギガが雇ったのかそれとも……。
僕がめまぐるしく頭を働かせていると、スライムDはため息混じりにその表面をふるふると揺らして言った。
「さぁ、早速、相手してあげる……と言いたいけど、貴方達、何で勇者の振りをしているのか、だけは聞いておきましょうか?ギガに雇われたか何か?」
ギガに雇われた……?
その言葉に僕はピンと妙案を思い付いた。
「ま、そんなとこ……。お前は?」
「え?私?わ、私はただ、ここに立ち寄っただけで……」
「へぇ、ギガ様に雇われた訳ではなくて」
「誰があんなぼんくらに雇われますか!」
なーるほど、まぁ、予想通り雇われていなかったのね……。
よし、だったら……。
「実はな、僕は雇われたんだよ」
(な……!?)
ビーが驚愕する、が僕は構わず続けた。
「実は運良く勇者を倒してしまったんだがな、実は死体がどこかに行ってしまって分からない。仕方ナイしにギガ様に報告したら妙案の弾き出しなさったんだ。『街で勇者のフリをし、そして密かに街を落とさせ』ってね」
「へぇ……街を落とす、ねぇ。まぁ、ここの弱小魔物達じゃ落とせないからね。内通させて落とすのは上策よ。でもそれは勇者の死と?」
スライムDは不審そうに訊ねる。それに対して僕は構わず続けた。
「ギガ様はここを焼き討ちで落とすつもりなんだ。それで死体が焼けた、と魔王様に言い訳するつもりらしい」
「なるほど、ね。魔王様は怒り狂うかもしれないけど、如何にもギガが思い付きそうな策ね」
スライムDは納得したように頷きを見せる。
僕はうまくいったことを悟って呆れた表情を浮かべて肩を竦めた。
「という訳だ。冴えた作戦ではないが……どうか見守ってくれ」
「分かった。じゃあ、私も協力するよ」
……は?
僕と傍観していたビーとシーは一斉に唖然とした。
「お、お前、フリーランサーとして聞いているけど、おまっ、今回、ノーギャラだぞ!?」
我に返ったビーが慌てた様子で口の主導権を握って叫んだ。
「べ、別に良いじゃない、この私が手伝ってあげると言っているのっ!有り難く思いなさい!」
「いやいやいやいや、絶対何か裏があるだろ!」
「う、裏なんてある訳ないじゃない!」
「だって貴様、ドケチじゃねえか!俺がオークに追い回されたときも助けてくれなかった癖に!」
随分、懐かしい話を引き合いに出したな。
まだシーがおらず、僕とビーがコンビを組んでいた頃だ。
「あんたなんか助ける訳ないじゃない!」
「……ふむ」
そこで冷静沈着なシーが声を出した。
「お初にお目に掛かる、スライムD、序列四位殿」
「と……三種類目の声という事は話に聞く、新入りの序列三位ね。見事に序列が固まっている事」
ちなみに序列というのはアルファベットのことであって、アットランダムにつけられる。
どういう訳か、スライムの数はその地方地方では、アルファベットの域を越えないのだ。
「如何にも。お手伝い願える、ということならば、我々の拠点にて情報整理に協力願いたい」
「情報整理?」
「一匹狼の序列四位殿であればさぞ頭が宜しかろう、作図などもお得意かと察する」
「え、ええ……」
「ならば、我が拠点にてこの街の作図を依頼する。情報は我々が提供しよう」
うまい、と僕は唸り声を小さく漏らした。
これでスライムDを自分の部屋に閉じこめ、いざというときは戦力として使用出来るし、情報も僕らが操って伝えられる。
さすが参謀担当のシーだ。
「わ、分かったわ……では、案内して頂戴」
スライムDはもごもごと蠢きながらそう言う。
僕は先導して歩きながらため息をついた。
戻るハメとなったか……。
スライムDが仲間に加わった!
ハヤブサです。
文化祭騒動で大分更新が遅れてしまいました。
これからはカリカリ更新していきます^^