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武器屋の娘とそのオヤジ

「あ、ありがとうございます!」

「い、いやぁ……礼には及ばないよ」

 僕は男の上で礼を言う少女を見上げて苦笑した。

 全く、人間ってのは内輪もめする種族だということを忘れていた。

「あ、でも、先程、腕が―――」

「あ……」

 少女の指摘に僕は固まってしまった。


 やらかした……。思いっきりスライム特有の技をやってしまった……。


「こ、これはだなっ、あ、あれだっ、分身の術という高度な術でね!」

 僕は慌てて誤魔化すように言いながら、炸裂弾を包み込んでいるビーを持ち上げるとそれを腕にくっつけた。

「ほら、本体に戻せば問題なし!」

「まぁ、すごいのですね」

 少女は無邪気に喜んでいる。ほ、良かった……。

(人間ってのはこんなに騙されやすいのか?兄弟)

(我の方が聞きたい)

 ビーとシーが会話しているのを聞きながら、僕はそこらに散らばった武器を集めながら少女に渡して微笑んだ。

「えっと……じゃあ、僕はここで……」

「あ、ま、待って下さい、御礼がまだ……!」

「む……」

(どうする?御礼と言っているが)

 僕がスライム仲間に問いかけると、ビーは呵々と笑いながら言った。

(貰えばー?悪意はないんだし)

(うむ、人間のことわざには『据え膳食わぬは男の恥』ということわざがあるようだ。ここは頂くべきであろう)

(シー、それは何か違う気がするけど)

(兄弟、とにかく貰おうぜ)

 とにかく、ビーとシーは貰った方が良い、というので。

「ではお言葉に甘えて」

 と、僕は少女の恩恵にあずかる事にした。


 そしてその武器屋で。

「おお、兄ちゃん、良い腕しているなぁ!どうでい、ウチに弟子入りして武器屋を継がないか!」

「いえいえ、そんなことは……」

 僕は腕を動かしながらにこやかに話す。

 カンカンカン。

 金属がぶつかり合う音が良きハーモニーを生み出す。


 ―――どうしてこんなことになったのか。


 御礼に泊めて頂ける、ということとなったので僕は武器屋にお邪魔したのだ。

 だがしかし、そこで武器屋の親父が思いっきり箪笥の角に小指をぶつけて、土間で悶えていた。

「おおぅ、しまったあぁっ、このままじゃあ、明日村長に納品する剣が作れないぜぇっ!(棒)」

 娘は白々しく不自然な口調の親父を見下ろしていたが、僕らの身体の中では会議が開かれていた。

(どうする、人間が困っているぞ、兄弟)

(うむ、我々にはカジの知識はある。どうにか出来るのではないか?)

(まぁ、知識っていっても人間の農家を放火したぐらいだけど?)

(馬鹿だな、兄弟、それをカジってんだ)

(―――なんか違う気がするんだけど)

(とにかく、この人間は困っている以上、勇者らしくするには手伝うべきではないか?)

(すっごい、ぎこちない言い方なんだけど。棒読みっぽいけど)

(兄弟、いくら人間が嘘つきな生物だからって自分の利益をわざわざ失おうとする訳ないだろ?疑いすぎだぜ。兄弟)

(そうかなぁ……?ただサボりたいだけにも見えるけど)

(エー、ここは勇者らしく振る舞うためにも手伝いを申し出ろ)

(そうだぜ、兄弟!)

(う、うーん……分かった、やってみる)


 ということで。


 今、必死に金槌を振るっている真っ最中です。

「いやぁ、よく根気のいる熱して叩く作業をずっと出来るな!」

「いえ、慣れていますから」

「いやはや、俺だったらサボっているぜ!」

「お父様、今サボっていらっしゃいますわね」

「あっはっは、娘よ、手厳しいな!」

「え?サボっているんですか?だったら変わって頂いても……」

「あいたたたたっ、ああ、足の小指が痛すぎて腕が振るえんわい(棒)」

「全く、お父様……」


(結局、この親父、サボっているんじゃあ……)

(しかし、この前、腕が吹っ飛んだ勇者は足で逃げれば良い物を、その場で悶えて動かなくなってしまったらしい。つまりは手足の神経がきっと連動しているに違いない。このことからこの親父さんが嘘をついているとは思えないな)

(まぁ、疲れたら交代するからよ。兄弟)

 ビーの有り難い申し出もあって、僕達は代わる代わる身体の支配権を譲渡して金槌を振るうのであった。


「お疲れ様です。あれから鉄の鍛錬を終えてしまうなんて」

 で、真夜中、遅くなった夕食を武器屋の娘と食べていた。

 鍛冶屋の奥には簡易な台所と二人が向かい合って食べるのがやっとのテーブルセットがあり、僕らはそこで食事をしていた。

 娘は短い茶髪で年は十六と子作りに十分な年だと頬を赤らめて言っていたが、どうも人間の幼女にしか見えぬ体つきだ。

 他の人間にはない、邪気の失せた笑顔で、お汁もどうぞ、と僕にしきりに食事を勧めてくる。

 スライムというのは体内に住まわせている植物プランクトンが光合成することで魔力と生命力を生み出しているので、食事は本来必要ない。

 時々、冒険者の肉を喰らうこともあるために多少は消化器官が存在するが。

(しかし、美味いぜ。兄弟。人間ってのはこんなのが作れるんだな)

 ビーも満足そうに体内に入ってきた食べ物を味わっている。

「美味しいよ」

 なので、僕が礼を言うと、彼女はにっこりと微笑んだ。

「良かったです。異国の御方で口が合わなかったらと……」

「そんなことはないですよ」

 ずっとここら辺をうろちょろしていたスライムだからな。

「あ、そう言えば、お名前を伺っていませんでしたね。私はアミカと申します。父はガーダイという鍛冶屋でしてこの町の金属加工を全て行っているんですよ」

 えへん、とぺったんこな胸を張る少女。

(胸が膨らんでいるのが女だと聞いていたが、膨らんでいない女もいるのだな)

 シーがふむふむと感心したような声を出す中、僕は咳払いして微笑んだ。

「僕はエビシです」

「エビシ……何だか、リズムの良い響きですね。A、B、Cみたいに」

 ぎくっ。

「あはは……偶然ですよ」

「ですね、エビシさん、今日はゆっくりお休み下さい」

 ニコリと微笑んで丁寧にお辞儀するアミカ。

 僕は緊張を解きながら一つ頷いて、彼女が作った汁を飲み、今日はゆっくり休もうと思うのだった……。


「あいたたたたっ!せっかく魔術を込めて完成したのに、またしても箪笥に小指をぶつけて!(棒)」


 ―――ゆっくり休めそうにない。

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