其ノ六 竜神様
先日、お姉様と共に京都へ旅行に行かれ、鞍馬さんの池の主とお会いになられた三好さんは竜神様を厚く信仰していらっしゃいます。
三好さんのご実家が竜神様を祀ってらっしゃいまして、幼い頃より両親祖父母が信仰している姿を見て育ち、自然と三好さんご本人も竜神様を信仰するようになったのだそうです。
結婚されて実家を離れた今尚、熱心に竜神様を祀ってらっしゃいます。
感心なお話でありますね。
しかし、三好さんも若かりし頃は好奇心に溢れ活発なお嬢様だったらしく、常日頃から信仰している竜神様のお姿を一度は見てみたいと思うようになったのだそうです。
鞍馬さんの池の主とお会いいたしましたが、三好さんは本来『見えない』方でございますので、自分が崇める神の姿を一度は見てみたいと願うのは仕方の無い事だったのかもしれません。
一度で良いから、竜神様をこの目で見てみたい。
見る事のできない三好さんは、その願いが叶わないと分かりながらも日を重ねるごとに思いは深まる一方でした。
いつしか、三好さんは竜神様に一度で構わないので、そのお姿を見せて下さいと祈るようになりました。
毎朝、海岸へと通い日の出を迎えながら竜神様の祝詞を上げます。
それほどの深い思いで姿を見たいという三好さんの願いが届いたのか。
ある日の事、祈る三好さんの目の前に海の中から鎌首をもたげるように竜神様が姿を現してくれたそうです。
このような願いをも聞き入れてくれるとは、なかなか恩情のある竜神様だなぁと思った私でありました。
蛇の体に角を生やし、手足を持った竜神様は三好さんの目の前に現れました。
ここまでならば美談とも言えたでしょう。
ですが、ぎょろりとした目を一つとっても、三好さんの身長ぐらいはありそうな大きな竜神様でありました。
手を伸ばせばとはさすがに言いすぎではありますが、それほど近い距離に竜神様の大きな鼻先があったそうであります。
心優しき竜神様のお姿を見た三好さんは、あろう事か未だ嘗てないほどの悲鳴を上げられ、その場で気絶してしまったそうであります。
その話を聞いた私は、恐れ多くも竜神様に対して同情を寄せざるを得ませんでした。
一生懸命に姿を見せて欲しいと願われた挙句、実際に姿を見せてみれば悲鳴と気絶って……。
ふと三好さんと竜神様を思い出しては、不憫に思ってしまう私なのでございます。