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其ノ一 お稲荷さん


 本日は、商売をなさっている吉田さんのお宅にお邪魔しました。

 普段は、師が祀ってあるお稲荷さんへお経をあげるのですが、今回は私がおこなうようにとのお達しであります。

 常日頃から、師に付き従て修行してまいりました。

 ただ、お経をあげるだけの仕事ですので、そう時間が掛かる訳ではありません。

 吉田さんのご主人に迎えられ、準備を整えて早速お稲荷さんへお経を唱え始めました。

 しかし、どうしたことか。

 確かに口を動かし言葉を発しているのにもかかわらず、言葉すべてが上滑りしてしまいます。

 挙句には、突然の物忘れのようにお経が出てこなくなってしまいました。

 日々のお勤めで欠かす事のないお経です。

 空でもいえるお経が出てこないのです。

 こんな事は初めてで、冷や汗は出るが言葉が出ないという有様で非常に焦りました。

 私の後ろには、吉田さんも一緒に手を合わせている訳です。

 どうしたものかと必死に思案していた時、神棚の小さな扉が開きました。

 それはそれは真っ白で美しい毛皮をした神々しい白狐が現れたのです。

 眩いほどの白さに見惚れた私を、お狐様はヒタと見つめました。


『修行して出直して参れ』


 一言、お狐様は厳かにそう告げられると、ピシャンと扉を閉められてしまいました。

 実際に、神棚の扉が開いた訳ではないのです。

 吉田さんは見えておりません。

 未熟な私が上げるお経がよほど聞き苦しくて姿を現されたのでしょう。

 お姿を見せられる程、聞き苦しいって……。

 途中でお経をあげるのを止め、がっくりと肩を落とした私を怪訝に見ておりました吉田さんへ向き直ると、深く頭を下げてお詫びいたしました。

「修行が足りぬと叱られてしまいました。改めて師が伺います。申し訳ありません」

 そう告げた私に吉田さんは苦笑しながらも、承諾して下さいました。

 その後、落ち込む私を労い見送っていただきましたが、しばらくは吉田さんと顔を合わせるのが恥ずかしいです。

 吉田さんは古くから商売をされているお家で、伏見さんからお迎えしたお狐さんを代々祀っております。

 吉田さんのお家へいらしたばかりの頃は、まだ毛も茶色く力も弱かったお狐さんだったのでしょうが、代々続く吉田家の信仰と共に修行をつまれて位を上げられ、あそこまで美しく力を持たれたお狐さんへとなられたのでしょう。

 美しいお狐さんを見れた事は嬉しいのですが、未熟者と叱られてかなりへこみます。



 戻って師に話したところ、大笑いされて更に落ち込んだ一日でした。



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