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キンクマ異世界令嬢譚

婚約破棄? じゃあお兄ちゃんの事も捨ててあげるねw

作者: キンクマ
掲載日:2026/10/12

深夜テンションで書いたけど結構好きなやつ。キャロラインかわいい。

 王国建国三百周年を祝う記念式典。その華やかな祝宴の最中、王太子アルベルト殿下は、婚約者である私に向かって堂々と宣言した。


「クラリス! 僕は君との婚約を破棄する!」


 突然の宣言に、会場が静まり返った。


 私は手にしていたグラスを給仕に預け、婚約者であるアルベルト殿下へと向き直る。


「……理由を聞いてもいいかな?」


「君には可愛げがないんだ!」


「可愛げ?」


「そうだ! 君はいつも僕だの何だのと男のような言葉遣いをしているし、剣術も乗馬も僕より上手い! 背だって僕より高いじゃないか!」


「レディに身長の事をいうのは君、デリカシーってものが無いよ。それに君の剣術や馬術がヘタクソなのは、自分自身の問題だろう。それを棚上げして嫉妬とは、王子様は随分と器が小さいね」


「そういうところだ!」


 アルベルト殿下は顔を真っ赤にして叫んだ。


 私はクラリス・フォン・ローゼンベルク。公爵家の長女であり、王太子アルベルト殿下の婚約者である。


 身長は百七十五センチ。幼少期から剣術と馬術に親しみ、社交界では美丈夫などと呼ばれている。確かに一般的な貴族令嬢とは少々趣が異なるかもしれないが、それを承知で婚約を申し込んできたのは王家の方だ。


「僕はもっと可愛らしい女性が好きなんだ! 僕を頼ってくれて、甘えてくれて、お兄ちゃんと呼んでくれるような!」


「……お兄ちゃん?」


「そうだ! 紹介しよう。僕の真実の愛、キャロラインだ!」


 アルベルト殿下が手を差し伸べると、その背後から小柄な少女が姿を現した。


 ふわふわとした金髪に、大きな青い瞳。桃色のドレスを身にまとった少女は、殿下の腕にぎゅっと抱きついた。


「キャロラインじゃないか」


「えへへ。クラリスお姉ちゃん、ごめんなさい。キャロライン、お兄ちゃんのことが大好きなの♡」


「キャロラインは僕をお兄ちゃんと呼んで慕ってくれるんだ! どうだ、可愛いだろう!」


「なるほど」


 私は頷いた。


 キャロライン・フォン・ミルフォード子爵令嬢。確かに可愛らしい少女だ。人懐っこい笑顔に、庇護欲をかき立てる仕草。アルベルト殿下の好みも理解できなくはない。


 ただし、一つだけ問題があった。


「アルベルト。君は貴族家同士の婚約を何だと思っているんだい?」


「何?」


「僕と君の婚約は、王家とローゼンベルク公爵家が長年にわたって築いてきた信頼の証だ。君の個人的な好みで破棄してよいものではないと思うが」


「古い! 古いぞ、クラリス!」


 アルベルト殿下は私を指差し、勝ち誇ったように胸を張った。


「家柄など関係ない! 身分も立場も関係ない! 愛こそが何よりも尊いんだ! 僕はキャロラインを愛している! だから彼女と結婚する!」


 思わず手を叩いて笑ってしまった。


「な、何がおかしい!」


「あー……いや、すまない。あまりに愉快だったものでね。まさか王太子殿下の口から、そんな素晴らしい言葉を聞けるとは思わなかった」


「僕を馬鹿にしているのか!」


「とんでもない。ただ、君がここまで哀れな王子様だったとは知らなかったよ。婚約破棄してくれて今、心底ホッとしているところだ」


「なっ……!」


 アルベルト殿下の顔が、みるみる赤く染まっていく。


「無礼者! 婚約を破棄された分際で、王太子である僕を侮辱するつもりか! この可愛げのない男女め! だから君は誰からも愛されないんだ!」


「お兄ちゃん」


「何だ、キャロライン! 今はこの女に身の程を教えているところだ!」


「お兄ちゃん。キャロライン、大事なお話があるの」


 キャロラインは殿下の袖をくいくいと引っ張った。


 その愛らしい仕草に、アルベルト殿下の表情がたちまち緩む。


「おお、どうしたんだい? 僕の可愛いキャロライン♡」


「えっとね……」


 キャロラインは小首を傾げ、にっこりと微笑んだ。


「お兄ちゃん。キャロラインも、今ここでお兄ちゃんとの婚約を破棄します♡」


「…………え?」


 会場に沈黙が落ちた。


「……キャロライン?」


「うん♡」


「何を言っているんだい?」


「だから、婚約破棄だよ?」


「は、ははは! 冗談はよしてくれ! 僕たちはまだ正式に婚約していないじゃないか!」


「じゃあ、お付き合いもおしまい。これから婚約するつもりもないからね♡」


 アルベルト殿下は口を開けたまま固まった。


 その顔があまりにも間抜けだったので、私はまた笑いそうになった。


「ど、どうして……? キャロラインは僕のことが大好きだと言っていたじゃないか!」


「うん。言ったよ?」


「だったら!」


「だって、お兄ちゃんと仲良くしていれば、クラリスお姉ちゃんに近づけると思ったんだもん♡」


「…………は?」


 キャロラインはアルベルト殿下の腕からするりと離れると、私の方へ駆け寄ってきた。


「クラリスお姉ちゃーん♡」


「おっと」


 勢いよく抱きついてきた彼女を、私は両腕で受け止める。


 キャロラインは私の胸に頬をすり寄せ、満足そうに微笑んだ。


「えへへ。やっとお姉ちゃんを独り占めできる♡」


「まったく、君という子は」


 私は苦笑しながら、その柔らかな金髪を撫でた。


「ちょ、ちょっと待て!」


 ようやく我に返ったアルベルト殿下が叫んだ。


「キャロライン! 僕はどうなるんだ!」


「知らなーい♡」


「なぜだ! 僕の何が不満なんだ!」


 キャロラインは私の腕の中で振り返ると、可愛らしく人差し指を唇に当てた。


「えっとね。お兄ちゃんって、器もちんちんもちっちゃいんだもん。正直、最悪だったよ♡」


「なっ……!」


「すぐ怒るし、威張るし、自分のことばっかり。キャロライン、ずっと我慢してたの。だから婚約破棄してくれて、ありがとね♡」


「こらこらキャロライン、はしたないよ」


「ごめんなさーい♡」


 会場のあちこちから、堪えきれなかったような笑い声が漏れた。


 アルベルト殿下は顔を真っ赤にして震えている。


「ふ、ふざけるな! 僕は王太子だぞ! 王家との婚約を何だと思っている!」


「おや? 家柄など関係ない。身分も立場も関係ない。愛こそが何よりも尊い。そう言ったのは君じゃなかったかな?」


「そ、それは……!」


「素晴らしい考えだと思うよ。僕も賛成だ」


「だ、だが! 女同士だぞ! 女同士で結婚など!」


「アルベルト。今の時代、同性婚は珍しいことではないだろう?」


「そうだよ、お兄ちゃん♡ そんな古い考えじゃ、女の子に嫌われちゃうよ?」


「ぐっ……!」


 アルベルトは言葉を失った。


 キャロラインはそんな彼を見て満足したのか、再び私に向き直った。


「ねえ、クラリスお姉ちゃん」


「何だい?」


「キャロライン、お姉ちゃんのことが大好きなの。ずっと前から、お姉ちゃんのお嫁さんになりたかったの」


「……そうか」


「だから、キャロラインと結婚してください♡」


 少女は真剣な眼差しで私を見上げた。


 私はその瞳をしばらく見つめ、やがて小さく息を吐いた。


「まったく。こんな大勢の前で求婚するなんて、困った子だね」


「だめ……?」


 キャロラインの瞳が潤んだ。


 やれやれ。


「そんなに本気ならしょうがないね。君の婚約、謹んでお受けしよう」


「お姉ちゃああああん♡」


 キャロラインは歓声を上げ、私の首に抱きついた。


 私は彼女の身体を抱き上げ、くるりと一回転する。


 その瞬間、会場から割れんばかりの拍手が巻き起こった。


「まあ、何て素敵なの!」


「クラリス様とキャロライン様、お似合いですわ!」


「尊い……!」


「まるで絵画のようだ!」


 祝福の声が次々と上がる。


 私は少々照れくさくなりながらも、腕の中のキャロラインを見つめた。


「幸せにするよ、キャロライン」


「うんっ! 大好き、クラリスお姉ちゃん♡」


 彼女は私の頬に口づけた。


 再び歓声が上がる。


 こうして、王国建国三百周年の記念式典は、思いがけず二人の令嬢の婚約を祝う宴となったのである。


 ただ一人を除いて。


 ◇ ◇ ◇


「…………」


 アルベルト殿下は呆然と立ち尽くしていた。


 自分が愛した少女は、目の前で元婚約者に抱きかかえられている。


 自分を捨てた二人は幸せそうに微笑み合い、周囲の貴族たちは惜しみない祝福を送っている。


 王太子である自分だけが、完全に蚊帳の外だった。


 何という屈辱。何という惨めさ。何という……。


「…………あれ?」


 アルベルトは首を傾げた。


 悔しいっ……!


 だがそれ以上に、胸が高鳴っている。


 こんなに惨めなのに、体が熱い。


 くそっ…… くそっ……


 目の前で自分の恋人だった少女が、かつての婚約者に甘えている。その光景を見ていると、なぜか身体の奥から奇妙な喜びが湧き上がってくるのだ。


「な、何だ……この気持ちは……」


 アルベルトは自分の胸に手を当てた。


 おかしい。


 こんなはずではなかった。


 自分は惨めな敗北者なのだ。


 なのに。


「……な、何だこの気持ち……」


「……お兄ちゃん?」


 その呟きを、キャロラインは聞き逃さなかった。


 彼女はクラリスの腕の中からアルベルトを見つめると、何かに気づいたように目を細めた。


「あれれ~? お兄ちゃん、前屈みになってどうしたの〜? もしかして……」


「な、何だ!」


「キャロラインがお姉ちゃんに取られちゃって、興奮してるの?」


「ち、違う!」


「ふーん?」


 キャロラインはにやにやと笑った。


「じゃあ、どうしてそんなに嬉しそうな顔してるのかなぁ?」


「そ、それは……!」


「お姉ちゃん。見て見て。この人、婚約破棄されて喜んでるよ♡」


「……うわぁ」


 クラリスは困惑したように眉を上げた。


「アルベルト。君にはそういう趣味があったのかい?」


「ち、違う! 僕は……僕は……!」


 否定しようとした。


 しかし、言葉が出てこない。


 キャロラインがクラリスの頬にもう一度口づける。


 その光景を見た瞬間、アルベルトの全身に電流が走った。


「あっ……!」


「やれやれ。どうやら王子様はどうしようもない変態のようだ。同じ空間で息をすることすら汚らわしいよ」


「ひぐっ……」


  あんなに嫌いだったのにっ……好き放題言われてくやじいっ♡ 王子なのにぃっ……!ビクンビクン


「うわぁ♡」


 キャロラインは心底楽しそうに笑った。


「お兄ちゃんって、どうしようもない変態さんだったんだね♡」


「へ、変態……」


「そうだよ? 自分を捨てた女の子たちが仲良くしてるのを見て、喜んじゃうんだもん。気持ち悪ーい♡」


「き、気持ち悪い……!」


 アルベルトは膝を震わせた。


 罵倒されている。


 可愛いキャロラインに、蔑まれている。


 それなのに、どうしてこんなにも嬉しいのだろう。


「ねえ、お姉ちゃん。この人、どうしようか?」


「どうしようと言われてもね。王太子殿下だから、あまり粗末には扱えないよ」


「じゃあ、ペットにしちゃおうよ♡」


「……ペット?」


「うん♡」


 キャロラインはアルベルトを指差した。


「お兄ちゃん。お姉ちゃんと私のマゾ豚ペットでよければ、家畜として飼ってあげるよ♡」


「か、家畜……!」


「もちろん、人間扱いなんてしてあげないからね? お姉ちゃんと私が仲良くしてるところを、隅っこで指をくわえて見てるだけ。たまに気が向いたら、豚さんって呼んであげる♡」


「ぶ、豚さん……!」


「どうする? 嫌なら別にいいんだよ?」


 アルベルトは震える唇を開いた。


 王太子としての誇り。王家の威厳。男としての尊厳。


 それらが脳裏をよぎり、そして消え去った。


「……か、飼ってください……! お、お願いします……! 僕を……僕をペットにしてください……!」


 アルベルトはその場に膝をついた。


 あまりの歓喜に身体の自由が利かなくなり、とうとう粗相までしてしまった。


「きゃーっ♡ お姉ちゃん見て! お兄ちゃん、嬉しくてお漏らししちゃった!」


「……これは驚いた」


 クラリスは額に手を当てた。


「アルベルト。君という男は、僕の想像をはるかに超えているよ」


「あ、ありがとうございます……!」


「褒めていないんだが」


「ありがとうございますぅ……!」


 アルベルトは涙を流して喜んだ。


 その様子を見て、キャロラインは満面の笑みを浮かべた。


「よかったね、お兄ちゃん♡ やっと本当の自分を見つけられたんだね♡」


「う、うん……!」


「じゃあ、これからはお姉ちゃんと私の言うこと、ちゃんと聞くんだよ?」


「は、はいっ!」


「お返事は?」


「ぶ、ぶひぃっ!」


 キャロラインは楽しそうに手を叩いた。


「上手上手♡ お姉ちゃん、私たちのペット、可愛いね♡」


「……君が幸せなら、僕はもう何も言わないよ」


 クラリスは遠い目をしていた。


 こうして、王太子アルベルトは真実の愛を見つけた。


 妹萌えだと思っていた彼の本当の性癖は、愛する少女を奪われ、蔑まれ、屈辱を与えられることだったのである。


 クラリスとキャロラインは晴れて婚約し、末永く幸せに暮らした。


 そしてアルベルトもまた、二人の仲睦まじい姿を眺めながら、ときおり豚と罵られる幸福な日々を送ったという。


 なお、この事実は王家の公式記録には一切残されていない。


おしまい。

ここまで読んでいただきありがとうございます!


評価、感想もお気軽に残してもらえますと幸いです(^^)


作者ページやシリーズリンクに他の作品もありますのでよければそちらもご覧ください♪

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