18話 地下で蠢くもの
三十日。
守れなければ、削られる。
だが削らずに守れるなら――
王都下層。
石畳の隙間から、赤い光が滲んでいる。
「これが……魔脈暴走」
タミィが息を呑む。
右手がわずかに熱を持つ。
「共鳴してるか?」
「……少し。でも前みたいに引きずられません」
俺は頷く。
削った神化の流れ。
確かに弱まっている。
だがゼロじゃない。
下層区画は封鎖寸前だった。
兵士たちが住民を誘導している。
「王子殿下!」
現場責任者が駆け寄る。
「地下魔導炉が不安定です。観測制度でも抑えきれない」
観測でも抑えきれない。
つまり王家の制度の限界。
「炉心はどこだ」
「地下第三層」
迷っている時間はない。
三十日どころか、今日で爆発しかねない。
地下へ降りる。
空気が重い。
赤い魔力が霧のように漂う。
鼓動のように、脈打つ。
ドクン。
ドクン。
タミィの足が止まる。
「……これ、人為的です」
「何?」
「自然暴走じゃない。誰かが、流れを歪めてる」
その瞬間。
奥から衝撃。
爆音。
魔力が弾ける。
悲鳴。
「上層に波及します!」
兵が叫ぶ。
迷うな。
ここで止めなければ、王都全体が揺れる。
炉心室。
巨大な魔導核が赤く染まっている。
その前に、黒衣の男。
仮面。
「ようやく来ましたか」
仮面の男。
塔の水鏡にいたやつだ。
「お前か」
「王家の観測制度の限界を、少し誇張して差し上げました」
つまり。
試されている。
俺が。
「三十日も待つ必要はないでしょう?」
仮面が傾く。
「今日、証明してください」
床が崩れる。
魔脈が暴走。
赤い奔流が襲う。
タミィが前に出る。
「私が受け止める!」
「無理だ!」
右手が光る。
五色ではない。
淡い、一色。
だが確かに安定している。
「……制御できます!」
歯を食いしばる。
暴走を押し返す。
だが足場が崩れる。
仮面の男が囁く。
「削らなければ守れない」
違う。
違うだろ。
削るんじゃない。
繋ぐんだ。
俺は財布を取り出す。
硬貨を握り潰す。
生成するのは断絶ではない。
「循環構造、再編」
魔力を切らず、流す。
王家は削る。
俺は、回す。
赤い奔流が青に変わる。
暴走が鎮まる。
静寂。
仮面の男が小さく笑う。
「……なるほど」
一歩、後退。
「削らずに安定させる。面白い」
霧のように消える。
炉心は、安定した。
地上。
歓声が上がる。
爆発は起きなかった。
被害は最小限。
善意貴族が呟く。
「観測制度では不可能だった処理です」
タミィが俺を見る。
息を荒げながら。
「……一日目、成功ですね」
ああ。
三十日のうちの、一つ。
だが確実に。
王家のやり方とは違う形で。
守った。
遠く塔の最上階。
王が報告を受ける。
「削らずに、回したか」
静かな笑み。
「面白い」
だがその隣で。
仮面の男は、さらに深く笑っていた。
「次は、もっと大きく」
地下のさらに奥。
封印された魔脈が、目を覚ます。
三十日。
まだ、始まったばかりだ。
遅れました。
スミマセン。
ちょっと今日は書くことが思いつかなかったので、このくらいで。




